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「静岡に女子サッカーの火を付ける」。なでしこ3部SSUアスレジーナ、本田美登里監督が語る新たな挑戦

松原渓スポーツジャーナリスト
風間八宏氏がテクニカルアドバイザーに(写真提供:静岡SSUアスレジーナ)

 静岡は男女ともに多くのスター選手を輩出してきたサッカー王国である。女子では、夏の全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会(インターハイ)と冬の全日本高等学校女子サッカー選手権大会において、直近の5年間で4度の日本一に輝いた強豪、藤枝順心高校や、同じく全国大会の常連校である常葉大学附属橘高校がある。

 

 しかし、多くの選手は卒業後に1部のチームや関東圏のチームへと出てしまうーー。なでしこリーグ3部にあたるチャレンジリーグの静岡SSUアスレジーナはそうした流れに歯止めをかけ、「オール静岡」のチーム作りを目指し、改革を進めている。

本田美登里監督、テクニカルアドバイザーに風間八宏氏。静岡SSUアスレジーナが目指す「オール静岡」 

 クラブ創設者であり、代表を務める三浦哲治氏はまず、岡山湯郷BelleやAC長野パルセイロ・レディースなどで指導実績のある本田美登里監督を招聘。さらに、前身の静岡産業大学磐田ボニータの元選手であるDF左山桃子を、なでしこリーグ1部のアルビレックス新潟レディースから7年ぶりに呼び戻した。

本田美登里監督(右/写真:keimatsubara)
本田美登里監督(右/写真:keimatsubara)

 さらに、元日本代表で、J1の川崎フロンターレや名古屋グランパスの監督を務めた風間八宏氏をテクニカルアドバイザーに迎えた。川崎や名古屋で攻撃的なチームを築き上げ、多くのファンを魅了した名将から直接指導してもらえるとあって、選手の間には驚きと喜びの声が上がったという。

 風間氏と本田監督は、ともに清水商業高校(現・清水桜が丘高)出身。本田監督が以前のインタビューで「男子のトップクラスの監督が女子を指導してくれるようになれば、女子サッカーの力が上がる。風間八宏さんが教えてくれれば、名古屋グランパスのように魅力的なサッカーができるかもしれない」と話していたことを思い出した。

 果たして、風間氏のテクニカルアドバイザー就任はどのような経緯で実現したのか。

 また、これまで湯郷や長野で、女子サッカーを通じて地域を活性化してきた本田監督が、地元・静岡で「オール静岡」を実現するためにどのようなビジョンを描いているのか。お話をうかがった。

本田美登里監督インタビュー

ーーまず、静岡SSUアスレジーナに就任された経緯を教えていただけますか?

本田監督:海外も含めて新たなチャレンジをしようとしていたときに、三浦さんから声をかけられたんです。このチームはこれまでは静岡産業大学のOGが残ってプレーすることが多く、外から選手が入ってくることが少なかったんです。そこで、三浦さんが「オール静岡のチームを作りたい」と。以前は(強豪校である)藤枝順心高校の選手が入ってきていたけど、今はその流れもなくなってしまっている。静岡だからいい選手がたくさんいるはずなのに、入ってこない。サッカーが上手くて大学にも行けて、都会も覗いてみたい、という選手は関東圏に出てしまうみたいですね。それで、「せっかく(サッカー王国という)土地柄があるのだから、いい選手たちが入ってくれるように力を貸してほしい」と三浦さんから言われました。元々、男子を長く教えていた三浦さんがこれだけ女子サッカーに対して深い思いを持たれていることに応えたいと思い、お引き受けしました。私がサッカーを教えてもらったスタートの地でもある静岡に、女子サッカーの火をつけたいですね。

ーーSSUアスレジーナは、スタッフにJリーグも含めてキャリアや実績のある方が関わっていますね。

本田監督:そうですね。風間八宏さんや北本章さん(運営責任者、SSUアスレジーナCOO)、松森亮さん(今季コミットメントアドバイザーに就任)も含めて、プロリーグに入ることになった場合にも対応できるようにスタッフから足固めをし始めています。三浦さんが口説いて、いろんな人を集めているんです(笑)。風間さんも、三浦さんが声をかけてくれたことで動いてくれました。

ーーそうなのですね。風間さんとは同郷でいらっしゃいますが、テクニカルアドバイザーに迎えられた経緯について、もう少し詳しく教えていただけますか?

本田監督:元々、私と風間さんも(知り合って)長いんです。3歳差で、私が清商(清水商業高校)1年生の時に風間さんが卒業したので被ってはいないのですが、大学に入ってからも夏休みの度に戻ってきて清商サッカー部を教えてくれていたんです。その時に私も一緒にボールを蹴っていたのがきっかけで、知り合ってからは35年以上になりますね。それ以降も何かと手伝ってくださって、私がユニバーシアードの監督をやった2005年にJ-Stepでの合宿に教えにきてくれたりもしました。その時は近賀(ゆかり)とか北本(綾子)とか川澄(奈穂美)とかイワシ(岩清水梓)の世代でした。

今回、三浦さんが、「八宏にたまに来てもらえないか頼んでみようと思うんだよな」と言ってくださったので、「是非お願いします! 三浦さんからしつこく言ってください」とお願いしました(笑)。そうしたら風間さんから電話があって、「何をすればいいかな?」と言われたので、「フラッとグラウンドに来て、ああでもない、こうでもないと言ってください」と。それで、月1回のペースでお願いすることになりました。本当は3月からの予定だったんですが、コロナの影響で難しくなってしまって、その分、6月は1週間おきに来てくれました。5回分のトレーニングが終わったところから、リーグに向けてチームを作り始めています。

ーー風間さんの指導をご覧になって、いかがでしたか? 選手の皆さんも大いに刺激を受けたと思いますが、特に変化が見えた部分を教えてください。

本田監督:「ボールを止める」と言っても指導者によってニュアンスが違いますが、風間さんが言う「止める」は、ボールを一発でピタリと静止することです。それも、1秒後に蹴れるところに。蹴る時にショートパスかロングパスか、インサイドかアウトサイドで蹴るかは人によって違うけれど、大切なのは常に「ボールを蹴れる場所に置く」ことで、そこからボールを動かすという論理です。「ダイレクトパスがうまくいかないなら、ダイレクトと同じぐらい止めて、蹴るが早ければ同じでしょう?」と。そうすると「止める、蹴る」動作がどんどん速くなってボールが動いていく。「それがボールを運ぶということだよ」と伝えていました。私は、風間さんのサッカー論はDVDを見てわかったつもりでしたが、それがどうゲームに繋がるのかが分かっていなかったんです。それが繋がりました。選手たちも、ここまで掘り下げて「ボールを止める」ということをやったことがないので、私も練習で取り入れています。

ーー今後の変化が楽しみですね。本田監督は今後、SSUアスレジーナをどのように強化していこうと考えていますか?

本田監督:静岡産業大学の女子サッカー部が中心になって創設されたクラブですから、トレーニングジムとか、GPSなども大学のものを使わせてもらえるのは有り難いですね。今は静産大の学生やOGの社会人選手が中心ですが、実力のある学生はインカレ(全日本大学女子サッカー選手権大会)となでしこリーグの両方に出られます。今は合計37人の選手を同時に見ています。取り組む姿勢が少し緩(ぬる)いと感じることもありますね。寝ても覚めてもサッカーが大好きで、ボールを抱いて寝ます、みたいなサッカー大好き小僧がまだ見当たらないですね。

ーーサッカーとの向き合い方や距離感は変えられるものなのでしょうか?

本田監督:変えられると思いますよ。風間さんがいいことをおっしゃっていたんです。「このチームの子たちは自分にまったく期待していない。自分の伸びしろがあるんだからもっと自分に期待していいし、上手くなりたいという気持ちを出せばいいのに」と。私から選手たちに少しずつ、働きかけています。

ーーSSUアスレジーナでは、サッカーのスタイルも含めて、どのような試合をしたいとお考えですか? 順位的な目標もあればお願いします。

本田監督:攻撃的なサッカーをしたいですね。三浦さんも言っているように、アグレッシブで、インテリジェンスがあり、スペクタクルなサッカーを目指します。そのようなサッカーができるのは、かなり先の話になるかもしれないですけれどね(笑)。風間さんの『止める、蹴る』が選手たちにストンと落ちれば、それこそ1部や2部の、スタイルをしっかり持ったチームに負けないぐらい面白いサッカーができるんじゃないかなと思っています。チャレンジリーグの他のチームについてはまだわからないことも多いですし、大きなことは言えないけど、圧倒的な強さで優勝したいなと思っています。……大きなことを言ってますね(笑)。

ーー(笑)。岡山湯郷BelleとAC長野パルセイロ・レディースでは、強化と並行して地域活動にも力を入れ、人気クラブになりました。静岡ではどのように地域と関わっていこうと考えていますか。

本田監督:まずは藤枝順心の選手や常葉橘の選手たちがここに来てくれるようになってほしいし、都会のブランドに負けない魅力的なチームになっていきたいですね。静岡産業大学への進学を目指す生徒が多くて感謝されるぐらいの魅力あるチームにしなければいけないなと思います。

湯郷や長野と同じように、強化と地域活動は同時にやっていきます。私は清水生まれで、磐田ではまだわからないことが多いので、チームスタッフに頼んでイベントとかあれば積極的に顔を出そうと思っています。スポンサーさんも巻き込む形でいろいろな活動ができたらいいですね。

ーー今後のクラブの動向とチャレンジリーグでの戦いを楽しみにしています。本日はありがとうございました。

チャレンジリーグ日程

魅力的なサッカーで2部昇格を目指す。初戦は8月22日(右/写真:keimatsubara)
魅力的なサッカーで2部昇格を目指す。初戦は8月22日(右/写真:keimatsubara)
スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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