1万人超えのスタジアムで見せた女王の地力。皇后杯優勝で今季4冠達成のベレーザを支えたもの

ベレーザが皇后杯3連覇を成し遂げた(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 2019年12月29日(日)にNACK5スタジアム大宮で行われた皇后杯決勝戦は、日テレ・ベレーザ(ベレーザ)が、浦和レッズレディース(浦和)を1-0で下し、大会3連覇を達成。

 なでしこリーグ、リーグカップ、AFC女子クラブ選手権に続く4冠目を獲得し、国内では2年連続ですべてのタイトルを独占した。

 1万人を超える観衆の中で、最強クラブがその揺るぎない実力を見せつけた。

 代表選手11名を擁し、就任2年目の永田雅人監督の下でより縦への推進力を増したベレーザと、1年目の森栄次監督の下、しっかりとボールを繋ぐスタイルで攻守を洗練させてきた浦和。どちらも最終ラインが高く、ボールを保持し続けることを目指している点では共通しており、試合は立ち上がりから狭いスペースでボールを奪い合う展開となった。

 一方が狭いスペースでワンタッチパスを回せば、もう一方は次のパスコースを予測して複数で奪いにかかる。その中で、切り替えの速さとミスの少なさで優ったベレーザが、試合の主導権を握る時間が多かった。

 勝敗の決め手となったのは、前半7分のFW田中美南のゴールだ。

 右コーナーキックで、FW籾木結花が蹴ったボールに、相手と競り合いながらゴール中央で右足を振り抜くと、インステップで合わせた豪快なシュートがネットを揺らした。

 このゴールには伏線があった。キッカーとして田中のゴールをアシストした籾木はこう振り返る。

「あの場面は(ニアサイドのDF宮川)麻都に出す形をやろうとしていたのですが、相手の立ち位置を見てできなさそうだと感じて、狙いを中に変えたんです。状況を見て全員が(狙いを)変えることができて、それがゴールにつながりました」(籾木)

 変化する状況や相手の狙いに応じて各々がプレーを変化させ、それをチーム全体で共有していく連係力の高さは、この先制点の場面だけではなく、試合全体を通じて発揮されていた。

 ベレーザにとって今季の浦和との対戦は、3試合で8得点6失点と、失点も多かった。だが、この試合では高い位置から強度の高い守備を徹底することで無失点に抑えている。「相手のストロングは(センターバックのDF南)萌華の右足から(右サイドバックのDF清家)貴子への裏のボールだと感じていました」と、籾木は代表でチームメートとして戦う浦和のホットラインを警戒していたことを明かした。

 永田監督は後半、守備の強度をもう一段階上げるために、フォーメーションを4-3-3から4-4-2に変更。スピードのあるFW小林里歌子をトップに上げて守備のスタート位置を高くし、中央でもプレーできる籾木を右サイドに据えることで、右サイドバックのDF清水梨紗のオーバーラップを引き出すなど、個々の特性をより生かす変更を加えた。

 それによってさらにペースを加速させると、61分には得点力のあるFW植木理子を投入して攻撃を活性化。82分にはMF菅野奏音、90分にはMF遠藤純を送り出し、浦和の猛追を抑えつつ、追加点を狙う安定したゲーム運びで試合を締めくくった。

【個の力を引き出す永田イズム】

 ベレーザは2019年6月から7月にかけて行われたFIFA女子W杯フランス大会を含め、昨年は代表活動が例年に増して多く、主力が10名前後不在だったことも少なからずあった。その中で、下部組織のメニーナの選手をトップチームに引き上げる形で、人数を補いながら戦った試合もある。

 そうした中で永田監督は、「11人のレギュラーメンバーがいるとすれば、そのメンバーで週末の試合に向けて低強度、中強度、高強度のトレーニングをしっかり練りながら、自分たちの戦術も高めて戦うことができた試合はほぼないと思います」と言う。

 その点、この皇后杯決勝戦では全員が揃った中で、22日の準決勝から中6日と、これまでに比べると時間の余裕が持てた。籾木は、「みんなで練習できたのは本当に久々だったので。ボールを回す感覚は、3日間、4日間でしっかりとつかめたかなと思います」と振り返った。

 他チームに比べて試合数が多く、準備期間が少ない中で国内3タイトルをすべて獲り、アジアのクラブ王者にも輝いたのだ。

 

 それを可能にしたのが、永田監督の細やかなマネジメントだ。筆者は永田監督から「優勝したい」という言葉を聞いたことが一度もない。だが、個々の選手が持っている資質を伸ばし、まだ見ぬ能力を開花させるきっかけを作ることについては、驚くほどのエネルギーが感じられた。

 ディフェンスリーダーとして長くチームを牽引してきたDF岩清水梓が産休のためにリーグ戦後半から抜けた中で、その後を引き継ぎ、最終ラインを統率することとなったDF土光真代は、「永田さんは、選手一人ずつに前回の試合の振り返りと、ここをもうちょっとこうしたらいいよ、という映像を、次の試合までの間に作ってくれます。それを見ながら準備して、次の試合に臨めているのは大きいです」と話していた。

永田雅人監督(筆者撮影)
永田雅人監督(筆者撮影)

 各選手のプレースタイルに合わせて、欧州や南米などの海外サッカー選手の参考映像を見せることもある。練習では、トレーニングを小笠原資暁ヘッドコーチや野寺和音GKコーチに任せて、新しいポジションでプレーする選手や、攻守に課題のある選手に対して、1対1で徹底的に向き合う姿をしばしば見かけた。それはボールの置き方、ターンの方向性、空間の見方など細部に及び、練習後の自主練習では、最後の選手が帰るまで付き合うこともあった。そう考えると、永田監督の睡眠時間やオフは、過密日程をこなす選手たち以上に少なかったのではないだろうか。

「試合を振り返ると、このプレーもう少しこうできたね、とか、そういう課題が山ほどあるので、それを抽出してより良い方向に持っていく。ただただ、その作業を続けました。それぞれの目標に対して、できたところとできなかったところを分けてつけ足していく形です。理想に向かってというよりは、そこにあるものを磨いていくという作業ですから、『優勝しよう』といった目標を表立って言うことはありませんでした」(永田監督)

 

 メディアに対しては丁寧かつ淡々とした口調で話し、どこか哲学者のような雰囲気もある永田監督だったが、対照的に表彰式では、選手と一緒に思い切りはしゃぐ姿が印象的だった。

【チームを支えた背番号6】

 代表選手が抜け、下部組織のメニーナの選手が加わったりと、試合によってメンバーが大きく変わる中で、 “つなぎ役”として重要な役割を果たしていたのがサイドバックのDF有吉佐織だ。そのプロ意識の高さを永田監督は高く評価する。

「アリ(有吉)は、自分のプレーの質を高めることに対して意識が高く、試合の後、いつも一番か二番に映像を見にきて話をします。課題に対して真面目に取り組む選手ですね。ポジショニングとか体の向きとか、言葉で(周囲を動かす)とか、彼女が一人いるだけで他の選手同士を結びつけられる。そのために個人としてのレベルアップを惜しまないところが素晴らしいと思います」(永田監督)

 ベレーザは今季、過去4シーズンに比べて得点と失点の両方が増えた。それは年間を通してチャレンジしたことの証でもある。戦術眼と高いテクニックを持つ有吉は、20代前半の若手選手が多いチームを、岩清水とともにベテランとして支えてきた。

「去年3冠を取った時点で、相手にも研究されるし、来年は新しいことをやっていくと監督からも話がありました。その中で、今年はスピーディな攻撃や、さらに前から(守備に)いくことにチャレンジしたんです。リスクを犯してでも後ろからつないでいくなかで、(技術的な)ミスや判断ミスで失点することもありましたが、そのぶん得点が多くなったし、展開も速くなったと思います。(個人的には)カップ戦でコンスタントに試合に出る中で、メニーナの選手たちに戦術理解を伝えることで自分自身の考えが整理されましたね。ベレーザは代表選手が多いので、チームとして合わせる時間が少なかったし、ケガ人もいて紅白戦の人数も少なかった。その中で、なるべく自分が(練習の内容を)伝えていこうと思っていました。プレーには見えない部分かもしれないですが、そういう面でチームに貢献できたかなと思います」

 代表では2015年の女子W杯カナダ大会準優勝に貢献したなどの実績がある。高倉ジャパンではチーム発足当初から最終ラインを支えたが、昨年のU-20女子W杯優勝メンバーをはじめ、若手の台頭が目覚ましいなかで、女子W杯フランス大会のメンバーからは外れた。だが、同大会でW杯に初めて出場した清水や宮川など、現在の代表を支える若手選手たちの多くが背中を見てきたのが有吉だった。

「ベレーザの試合に出られるようになったきっかけは、アリさんに声をかけてもらったことでした。いろんなポジションをやってミスが続いた時も(励ます)声をかけてくれて、自分はアリさんがいないとダメだなと思っていました」(宮川)

「メニーナの頃は、ベレーザに入ったらアリさんのようないい選手がいると考えて、そこでプレーできることを目標にしながら、いつかは抜かしたいという思いでやっていました」(清水)

 有吉は若い選手たちへのプレー面のアドバイスを惜しまず、チームの垣根を越えて慕われている。また、その明るい人柄でチームを盛り上げるムードメーカーでもある。

 代表で長年の苦楽をともにし、プライベートでも親交のある同じ年のDF鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)は、自身が尊敬する選手の一人として、彼女の名前を常に挙げる。

「マッチアップして、一番嫌な選手です。駆け引きの賢さがありますし、ボールの持ち方が相手にとって嫌なんですよ。自分みたいにスピードで勝負するタイプではないけれど、周りを使うのが上手くて、気づいたらサイドをやられているんです。代表では自分がセンターバックで彼女がサイドバックで組んでいたときも、多少、自分が苦しい状況でパスをしようと、そこで打開してくれていました。(キャラクターは)大体ふざけているんですけど(笑)、選手やスタッフとのクッションになれるような人間性だったり、戦術眼もすごい選手ですね」(鮫島)

 メニーナからベレーザへ昇格し、そして代表へ。次々と若手有望株を生み出し続けているベレーザでは、生え抜きの選手が多い。そのなかで、有吉や、阪口夢穂(現在はケガでリハビリ中)、GK山下杏也加のように、他チームからきた選手たちがベレーザのサッカーにアクセントを与え、良い化学変化を生み出してきた。今年、レギュラーとして4冠に貢献した小林、MF宮澤ひなた、遠藤もメニーナ出身ではない。その選手たちに共通していることは、強力なストロングポイントと高い戦術理解力、そして、順応する力を持っていることだ。

 永田ベレーザで経験とともにプレーが深みを増している有吉は、来季どのようなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか。

(左から)有吉佐織、三浦成美、清水梨紗(写真は女子クラブ選手権/筆者撮影)
(左から)有吉佐織、三浦成美、清水梨紗(写真は女子クラブ選手権/筆者撮影)