日韓戦を制し、東アジア王者に返り咲いたなでしこジャパン。“五輪へのシミュレーション”で得たものとは?

三浦成美(左)は今年のなでしこの成長を象徴する選手の一人だ(写真:アフロ)

【苦しい戦いの中で得た決勝ゴール】

 12月17日、韓国・釜山で行われたEAFF E-1 サッカー選手権 2019 決勝大会(E-1選手権)で、なでしこジャパンは韓国との最終戦に1-0で勝利。チャイニーズ・タイペイ戦(◯9-0)、中国戦(◯3-0)に続く3連勝で、4大会ぶりの東アジア王者に輝いた。

 この試合でキャプテンマークを巻いたMF中島依美がトロフィーを掲げると、白い紙吹雪が雪のように舞い上がり、歓喜に沸くチームを包んだ。

 結果と内容の両面にこだわった今大会は、終わってみれば13得点失点ゼロでの完全優勝。一方で、この韓国戦は苦しい時間帯も少なからずあった。

 FIFAランク20位(日本は10位)の韓国は、今年6月のフランスW杯では3連敗でグループリーグ敗退。10月からは、2015年にドイツのフランクフルト(女子)を率いて欧州王者にも輝いたイングランド人のコリン・ベル監督が就任。今大会はベル監督の下で迎える“初陣”となった。

 この試合は優勝がかかった日韓戦とあって、1試合平均観客数(女子)が1000人以下に留まっていたそれまでの試合から一転、4218人の観客が入った。

 今大会は国際Aマッチデーの開催ではないため選手の拘束力がなく、両国とも国内組が中心の陣容。日本はDF熊谷紗希(オリンピック・リヨン)が不在で、韓国は日本でプレー経験のあるMFチ・ソヨン(チェルシー)、DFチョ・ソヒョン(ウェストハム)、FWイ・ミナ(INAC神戸レオネッサ/ケガ)ら中心選手を欠いていた。

 日本にとっては主力の離脱も痛手となった。初戦後にDF土光真代がケガで帰国を余儀なくされ、韓国戦の前にはゲームメーカーのMF長谷川唯と、2試合5得点の大活躍を見せていたFW岩渕真奈の離脱が発表された。

 

 そうした中、「(他の選手も)また違った色を出して十分やっていける選手たちなので、違う組み合わせで違う色を出していきたいです」と試合前に語った高倉麻子監督は、14日の中国戦から先発メンバー4人を交代。

 スタメンはGK山下杏也加、4バックは右からDF宮川麻都、DF三宅史織、DF南萌華、DF遠藤純。中盤はダブルボランチにMF三浦成美とMF杉田妃和、両サイドは左がMF中島依美、右がMF籾木結花。2トップにFW田中美南とFW池尻茉由が並ぶ4-4-2でスタートした。

 だが、試合は相手のコンパクトな守備と球際の強さに手を焼き、攻撃の決め手を欠く時間帯が続いた。

 立ち上がりの4分、三浦の浮き球のスルーパスを中島が右に落とし、池尻が左足を振り抜いたがミートできず。7分と9分には遠藤の左足クロスから惜しいシーンを作り、20分には、右サイドで三浦のクロスにエリア内でうまく抜け出した田中が合わせる。42分には、田中が相手を引きつけ、左サイドからフリーで走り込んだ中島が右足を振り抜いたが、シュートはいずれも枠を捉えられない。

 0-0で折り返した後半、日本は右サイドにFW小林里歌子を投入。右サイドでの仕掛けが増えたが、韓国も今大会のベストDFに選出されたチャン・スルギを中心とした堅守からカウンターを狙う。53分にはエリア外の混戦から相手のミドルシュートが枠を捉えたが、山下の安定したセービングでしのいだ。

 そして、この試合で最大のピンチは57分に訪れる。最終ラインで嫌な失い方からFWヨ・ミンジに抜け出されるが、ここは間一髪、三宅が体を張って防いだ。

 

 高倉監督は69分に“一発”のあるFW上野真実を投入するが、韓国も残り15分間で次々と切り札を投入し、拮抗した流れが続く中、88分、ついに試合が動く。中島のスルーパスをエリア内右で受けた籾木がすかさず左足で振り抜くと、これがDFシム・ソヨンのハンドを誘い、PKを獲得。籾木は数秒間目を瞑って気持ちを落ち着けると、これをゴール右に沈めて勝利を引き寄せた。

 試合はこのゴールが決勝点となり、1-0で勝利した日本が3戦全勝で文句なしの優勝を飾った。

【勝利がもたらす自信】

 決勝ゴールを挙げた籾木は「自分が貢献できたのは得点だけでした」と冷静な表情で試合を振り返りつつ、その中で得たメダルの重みを感じていた。

「本当にチームに助けられた試合だったと思いますし、自分がPKを決めることで、チームに貢献できて良かったです。アジアで勝ち抜く難しさは試合をするたびに感じていますが、自分たちのやりたいことがなかなか出しきれない中でも優勝できたことは自信につながりました」(籾木)

 守備面ではW杯以降、チームは親善試合も含めて5試合連続の失点ゼロを達成。メンバーが変化する中でも4バックのラインコントロールに安定感が見られた。

 また、アタッカーから左サイドバックにコンバートされて3試合目の遠藤が戦術面でフィットしてきたことや、代表での経験が浅い池尻が活躍したことなどは、個々の成長とともに、チームの土台がしっかりと固まったことの証でもあるだろう。

 高倉監督は、「(昨年)アジアカップ、アジア大会でタイトルをとりましたけれど、今日のE-1の優勝は特に嬉しいです。やはり、(ベスト16に終わった6月の)W杯で負けた悔しさがチームの根底にはあるので、今日も我慢しながら試合を進める中で、PKではありましたけれども『勝ちきれるチーム』になりつつあることは大きな自信になります」と、喜びを口にした。

 一方、韓国のように守備の強度が高い相手に対して、ゴール前でのコンビネーションの質や決定力が低下してしまったことは、来年の五輪に向けた課題となる。チャイニーズ・タイペイ戦と中国戦ではチャンスでしっかりと決め切ったことで試合を楽に運べたが、この試合では13本のシュートを打ちながら、枠を捉えたのはわずか2本と物足りなかった。

 来年の東京五輪は今大会よりも少ない18人で戦わなければならないし、ケガ人が出ることも考えられる。その中で攻撃に変化をもたらすことができるチームになるためには、選手間のコミュニケーションをさらに深めながら、個々の成長も不可欠となるだろう。

【コンバートされて2年目でチームの心臓に】

 個人に目を向けると、この試合では全体的にミスが多い中で、特にタッチ数が多いポジションながら、ミスの少なさが際立っていたのが三浦だ。

「バランスを取ることを一番に考えて、こぼれ玉を拾う意識でやっていました」という三浦は、最終ラインで組み立てに参加しながら、テンポの良いボール捌きで日本の攻撃にリズムを与えた。20分には右サイドの高い位置から田中のシュートチャンスを演出し、終盤の83分には、左サイドで中島と相手を挟み込む守備からフリーキックを獲得。相手のブロックを崩すアイデアを発揮しながら、要所でゲームを引き締めた。

「自分の前のスペースが結構空いていたのですが、(相手ゴールの)ペナルティエリア内が混んでいたので、どう崩していくかを考えていました。もうちょっと深い位置に攻め込んで、空いたスペースを使うとか、自分からのミドルシュートも必要だと思いました」

 三浦は156cmと小柄だが、ポジショニングと状況判断、予測力に優れ、相手の強度や間合いへの対応が早いためにボールを失う回数が少ない。高倉監督は選手選考や見極める際のポイントに「国際試合の強度に対応できること」を挙げているが、その点でも試合ごとに成長の跡が見られる。

 元々はサイドのプレーヤーで、昨年、ベレーザの永田雅人監督によってアンカーにコンバートされた。まだ2年目だが、代表では初招集から1年あまりで、杉田とともにボランチのレギュラーを張るまでになった。

 今季は日テレ・ベレーザでリーグ戦、リーグカップ、女子クラブ選手権の3冠に貢献。今夏の女子W杯では3試合に出場し、欧米の大柄な選手の強いプレッシャーを受けても積極的にボールを受けて前を向き、中盤の組み立てに関わるプレーでインパクトを残した。

 ミスの少なさを支えているのは、パスやトラップなどのしっかりとした基本技術によるところもあるが、常に360度の視野を確保できているからだろう。

 三浦が自主練習で、一人で「壁当て」の練習をしているのを目にしたことがある。壁にボールを当てて、跳ね返ってくるまでに首を振って周囲の視野を確保するというシンプルな練習だが、壁までの距離を短くしたり長くしたりしながら、三浦はその”首振り”の練習を慣れた動作で淡々と繰り返していた。 

 また、ボランチにコンバートされてからは、死角から相手が飛び出してきたときの反応を高める認知トレーニングや、初速を高めるメニューなど、弱点の強化も重ねてきた。

 今大会は三浦にとって代表での初タイトルとなった。試合後の取材エリアでそのことについて聞くと、笑顔で「めちゃめちゃ嬉しいです」と喜びを弾けさせ、こう続けた。

「今日の試合前に円陣を組んだ時に、W杯のあの悔しさが蘇ってきて、絶対に勝ちたいなと。今年は(W杯で負けて)すごく悔しい思いをしましたけど、その分、大きな経験ができましたし、今日、タイトルが取れて本当に良かったです。今後は、中盤でゲームを組み立てたり、悪い流れを変えられる選手にならないといけないと思っています。それは今まで、(代表の)ボランチの先輩方がやってきてくれたことです。耐える時間が多い中でチームを支える声を出したり、存在感でチームを支えられる選手を間近に見てきたので、自分もそういう大きな背中になりたいなと思います」

 なでしこジャパンのボランチには、MF澤穂希をはじめ、日本女子サッカーの歴史に名を刻んできたレジェンドが多い。中でも、三浦はベレーザの先輩でもあるMF阪口夢穂(ケガのためリハビリ中)の背中を追い続けてきた。その未来は、ひたむきな努力のもとに明るく照らし出されている。

 試合後の表彰セレモニーでは、日本が個人賞をほぼ総なめにした。

 この試合で決勝ゴールの籾木が敢闘賞に輝き、山下がベストGKを受賞。5得点の岩渕が得点王になり、大会MVPには、チーム唯一の全試合フル出場で無失点に貢献した南が選ばれた。

 なでしこジャパンの年内の活動はこれで終了した。来年はいよいよ五輪イヤーに突入する。12月22日の皇后杯準決勝と29日の皇后杯決勝には、今大会に出場した多くの代表メンバーが出場する。

 リーグ5連覇中のベレーザが皇后杯でも3連覇を果たし、今季4冠を達成するのか。今季リーグ戦2位で、9月のリーグ戦では激闘の末にベレーザに勝利した浦和レッズレディースが悲願の初タイトルを獲得するのか。はたまた、昨年準優勝のINAC神戸レオネッサが3大会ぶりに王座を取り戻すのか。2部リーグ所属ながら、1部のアルビレックス新潟レディースを下すなど、格上に対しても引けを取らない内容で勝ち上がってきたちふれASエルフェン埼玉がジャイアント・キリングを起こす可能性もある。いずれも目が離せない試合になりそうだ。

 皇后杯準決勝と決勝は、以下で生中継される。

準決勝

12月22日(日) 

15時~ NHK-BS1 浦和レッズレディース vs INAC神戸レオネッサ

18時~ NHK-BS1 日テレ・ベレーザ vs ちふれASエルフェン埼玉

決勝

12月29日(日)14時~ 決勝 NHK-BS1