なでしこジャパンとINACで光る安定感。DF鮫島彩が質の高いプレーを続けられる理由とは?

代表とINACで欠かせない存在になった鮫島彩(写真:アフロ)

【安定したパフォーマンス】

 今、日本女子サッカー界で最もフィジカルが強い選手は誰かーー。

 真っ先に思い浮かぶ一人が、INAC神戸レオネッサ(INAC)のDF鮫島彩だ。

 スピードの緩急を生かした攻守と、球際の強さは国内屈指。アメリカやフランスなど、海外でのプレー経験を含め、国内外で14シーズンにわたる豊富な経験を凝縮させたパフォーマンスは、今季も輝きを放っている。

 アウェイの神奈川県立保土ケ谷公園サッカー場に乗り込んだ9月8日(日)の第11節、INACは最下位(10位)の日体大FIELDS横浜(日体大)に4-1で快勝した。台風の影響で黒く分厚い雲と強い陽射しがせめぎ合い、気温31.6℃、湿度47%という過酷な条件下での試合となったが、鮫島はフル出場した。INACがボールを支配する試合展開の中で、常に高い位置で攻撃に参加。後半アディショナルタイムには、90分間走った後とは思えない大胆なオーバーラップで会場を沸かせた。卓抜したスピードと、豊富な国際経験によって磨かれた駆け引きのテクニック。それらが融合したダイナミックなプレーは、鮫島の真骨頂だ。

 だが、チームとしては仕留めきれなかった決定機の多さも目立った。日体大はなでしこリーグと並行して関東大学女子サッカーリーグを戦っており、何人かの選手には連戦の疲れも見えた。

 INACはリーグ戦18試合中11試合を終えて、順位は首位の浦和レッズレディースと勝ち点6差の4位。ここからは上位との連戦が控えており、優勝争いに至る道のりは楽ではない。若い選手が多い中、最終ラインでチームを統率する鮫島の言葉からは葛藤もうかがえる。

「ペナルティエリア付近の崩しの質は課題ですね。あとは単純にイージーなミスが多いのが、結果が出ていない一番の理由だと思います。自分も含めて全体的に質が低いな、と。目に見えるところにタイトルがあるわけではないので、自分たちに残された道は、1試合1試合に勝つ可能性を高めて試合に臨むことです。(自分が)チームの雰囲気を引き締めなければいけないし、そのためにはまず自分がやらなければいけない。そういう相乗効果が今年は作れていないですね。年上がこれではダメですよね」(鮫島)

 最後の部分は、少し自虐的に聞こえた。

 今季の鮫島のプレーを見ていて筆者が抱く印象は、本人の厳しい自己評価とは異なっている。リーグトップタイの「7」という失点の少なさは、鮫島がもたらす守備の安定感が大きいのではないか。それは攻撃にも言える。試合内容が低調でも、彼女がボールを持った時は、そこから何かが始まりそうな予感があるのだ。

 

 ポジションが近い味方を輝かせる戦略眼も魅力だ。たとえば、自身と縦の関係を組む左サイドハーフのMF八坂芽依について、

「彼女は縦に突破するのが得意なタイプなので、彼女が外(のスペース)を使う場合は自分が中からサポートすることもあります」

 と話す。八坂は今季加入したばかりだが、前線で存在感を増している一人だ。

【3度目の女子W杯を終えて】

 なでしこジャパンがベスト16で散ったフランス女子W杯から2カ月が経った。優勝した2011年のドイツ大会と、準優勝だった15年のカナダ大会でも主力として貢献した鮫島は、今大会で4試合に左サイドバックとしてフル出場した。

 日本がその敗戦により、帰国を余儀なくされることになったラウンド16のオランダ戦(●1-2)の試合直後のことだ。W杯を初めて経験する若手が多く、試合後は打ちひしがれた様子で涙を流す選手もいる中で、鮫島は何かに考えを巡らしているように見えた。そして、取材エリアにやってきたとき、今回のW杯で何か掴めたものがあったかどうか尋ねてみると、「答えを出すにはまだ考える時間が足りない」と言いたげな表情でこう明かした。

「チームとして乗り越えなければいけない課題をW杯で経験できたことは、来年(の東京五輪)に繋げていけると思います。大会は終わってしまったので、そう思うしかないですね。もっと試合がしたかったです。運動量で相手を上回れたのは強みだと思いますが、プレーの強度とか、ストロングポイントが国内リーグの選手とは全然違うので難しい。ただ、その中(国内リーグ)でゴールに絡む回数を増やせなかったら、世界大会で増やせるわけがないですよね」

 チームを力強く牽引するリーダー達がいた過去2大会とは異なり、ベテランとして臨んだ3度目のW杯にかける強い気持ちは、練習中やオフザピッチからもひしひしと伝わっていた。親善試合後の取材では、勝っても「自分たちに何が足りないのか」という課題の方を強調した。そして、「自分はリーダータイプではない」と言いながらもその立場を受け入れ、若い選手たちの声に耳を傾けそれぞれの考えを尊重しながら、鮫島なりに経験を伝えてきた。

 そのなかで、自身も様々な試練を乗り越えてきた。

 代表でセンターバックという新たなポジションに挑戦し、ほぼ“ぶっつけ本番”の布陣でアメリカやブラジルといった強豪国と対戦。世界トップクラスのFWとのマッチアップも多かったが、すべての経験を血肉に変えた。海外組のDF熊谷紗希が参加できなかった18年のアジア競技大会ではキャプテンマークを巻き、チームを連覇に導いた。

 そのようにして困難なハードルを幾度も乗り越えてきた鮫島は、オランダ戦後のピッチで、敗退という現実を受け入れると同時に、東京五輪という未来につながるポジティブな要素を見つけようとしていたのかもしれない。

 戦術面、フィジカル面ではアメリカの揺るぎない強さとヨーロッパ勢の躍進が際立った大会だった。

 2カ月が経ち、改めてW杯から持ち帰ったものは何だったか聞いてみると、鮫島の目線は未来に向けてしっかりと切り替わっていた。

「たとえばアメリカの試合を見ていて、難しいボールでも(FW)モーガンが先に触(って得点を決め)るシーンが多かったり、対戦した相手選手でもボールへの反応の速さが強烈でした。そういう環境で戦っていないと身につかないものが多いので、(国内リーグで)対策していくことは難しいです。ただ、(W杯の経験から)クロス対応とかゴールキックなどに対して、相手よりも高い位置で速くボールに触るトレーニングを入れるなどして工夫しています」

【ケガをしない秘訣】

 鮫島は代表とクラブでここ3年、ほとんどの試合に主力として参加し、リーグ戦と並行して海外遠征のハードスケジュールをこなしてきた。

 その中でケガをせず質の高いパフォーマンスを維持し続けられるのは、元々のフィジカル能力の高さに加え、日々の丁寧なコンディショニングの賜物でもあるだろう。

 日体大戦では「立っているだけでも体力を奪われるような暑さだったので」と体力を温存することを優先し、試合前のアップを早めに切り上げた。13年に右太腿の肉離れと腱損傷、14年には右膝半月板損傷のケガで約2年弱、代表から離れたが、それ以降大きなケガはしていない。

 ケガをしない体づくりは、チームにも代表にも切実な課題だ。鮫島はどんなことを心がけているのだろうか。

 一つは、現在も厚い信頼を寄せる個人トレーナーとの出会いが大きいという。肩甲骨や股関節の柔軟性を高めて膝への負担を減らすなど、ケガをしにくく、疲労を溜めにくい身体を作りあげた。今も、「1、2カ月に一度見てもらい、普段はもらった課題に取り組んでいます」(鮫島)。

 食事にも気を遣い、免疫力を高める納豆などの発酵食品を積極的に摂り、消化に時間がかかる揚げ物や、好きなスイーツも控え目に。そして、「試合で一番いいコンディションに持っていけるように逆算するようになりました」と話す。

 鮫島がベストな状態で試合に臨むために心がけていることは、身体作りから日々の練習、試合後の心身のケアや食事に至るまで多岐にわたっている。それができるのは、仕事とサッカーを両立させている選手が多いなでしこリーグで唯一、プロとして昼間から練習できるINACの環境も大きいだろう。

 彼女をよく知るチーム関係者は、そのストイックさを澤穂希さん(15年に現役を引退)に重ねた。INACで5シーズンプレーし、世界最優秀選手にも輝いたなでしこのレジェンドは現役時代、練習から常に100%で臨めるように食事や身体のケアを徹底し、オンとオフの切り替えも含めて様々なこだわりを持ち、それを貫いていた。

 開催まで1年を切った東京五輪に向け、どのようなコンディション管理を意識しているのか。鮫島は落ち着いた口調でこう語った。

「年齢とともに疲労の感じ方も変わるので、試合直後の過ごし方やオフの過ごし方、食べるものなど、全部を少しずつ、今まで以上に変えていこうと思っています」

 女子サッカー選手の中には、30代でキャリアのピークを迎える際立って優れた選手がいる。たとえば、女子W杯で直近3大会のMVPはMF澤穂希(11年)、FWカーリー・ロイド(アメリカ/15年)、FWメーガン・ラピノー(アメリカ/19年)。3名とも、優勝時の年齢は32~34歳前後だった。陰に壮絶な努力があるのは間違いないが、その事実は、女子選手のキャリアの可能性を大きく広げてくれる。

 日本女子サッカー界の第一線で長くプレーし、右肩上がりの成長曲線を描きながら質の高いプレーを見せ続けている鮫島。33歳で迎える東京五輪で、さらに深みを増したパフォーマンスが見られることを期待している。