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史上初のU-20女子W杯決勝進出!世界一まであと一歩に迫ったヤングなでしこ

松原渓スポーツジャーナリスト
準決勝でイングランドに快勝した(筆者撮影)

【新たなステージへ】

 ヤングなでしこ(U-20日本女子代表)が、歴史を塗り替えた。

 フランスで行われているU-20女子W杯の準決勝でイングランドに2-0と完勝し、大会初の決勝進出を果たした。同大会で、日本の最高順位は2012年と2016年の3位。これまで越えられなかった壁を、ついに破った。

 日本は優勝候補のアメリカ、スペインと同居する厳しいグループステージ(GS)を勝ち抜き、2勝1敗で決勝トーナメント(決勝T)に進出。準々決勝ではドイツを3-1で下し、このイングランド戦を迎えた。

 負けたら即敗退が決まるノックアウトステージには、GSとは異なる緊張感がある。頂点まであと2つと迫った中で、ノックアウトステージを勝ち抜いてきた勢いや、両者の勝利への執念も、試合を拮抗させる要素となる。

 実際、日本はイングランドと6月の親善試合(◯3-2/内容は非公開)で対戦しているが、池田監督は「(6月の対戦時とは)メンバーの構成も違いますし、相手のインテンシティも高かった」と振り返っている。

 その中でも、日本の冷静沈着な試合運びは際立った。

 後半に決めた3得点で勝利したドイツ戦とは対照的に、この試合では前半のうちに2ゴールを決め、試合を優勢に進めた。

 池田監督は3日前のドイツ戦から先発1名を変更。GKはスタンボー華。ディフェンスラインは左からDF高平美憂、DF南萌華、DF高橋はな、DF宮川麻都。MF林穂之香とMF長野風花がボランチを組み、サイドハーフは左がMF遠藤純、右がMF宮澤ひなた。FW植木理子とFW宝田沙織の2トップが並ぶ4-4-2でスタートした。レフティーの高平を左サイドバックに抜擢し、イングランドの高さとパワーを抑える狙いを見せる。

 開始早々の前半1分に、中央を割られてMFクロエ・ペプローにシュートを許したが、日本はスタンボーのファインセーブでこのピンチを凌ぐと、徐々に本領を発揮する。イングランドの前線に張るMFジョージア・スタンウェイとFWローレン・ヘンプには、センターバックの南と高橋が中心となって人数をかけて対応し、コンパクトな守備を徹底。

 林が的確な予測でセカンドボールをこまめに拾い、長野が最終ラインまで降りてボールを落ち着かせ、リズムを作り直す。ボールを広く動かしながら、イングランドの守備に生じるスペースを見逃さず柔軟に攻めた。

貴重な先制点を決めた植木理子(写真:Kei Matsubara)
貴重な先制点を決めた植木理子(写真:Kei Matsubara)

 1点目は22分。エリア内で遠藤のボールを受けた植木がすかさず左に反転。その俊敏な動きに、相手ディフェンダーの動きが一歩遅れる。次のタッチで相手を完全に置き去りにすると、迷わず右足を振り抜いた。本人も「得意な形に持っていけた」(植木)と言う、緩急をつけたドリブルからのシュートで日本が先制。

 さらに、27分には宮澤がスタンドを沸かせた。相手陣内の右サイドでボールを受けると、ドリブルでカットイン。巧みなコース取りで相手2人をかわし、エリア外中央から左足を一閃。意表をついたシュートは、相手GKが必死に伸ばした指先をかすめてクロスバーを直撃。そこに、遠藤が走り込んでいた。

「最初はコントロールして左足で打とうと思ったんですが、キーパーが(宮澤のシュートで体勢を崩して)倒れていて、ゴールが無人だったので。ワンタッチでいくしかないと思って、頭でいきました」と冷静な判断でヘディングで流し込み、2試合連続ゴール。

 後半、イングランドは日本の左サイドの裏のスペースを狙ってきたが、日本は左サイドバックにスピードのあるDF北村菜々美を投入して対応。83分には前線にFW村岡真実、アディショナルタイムには右サイドバックにDF牛島理子を投入し、その数分後に歓喜の瞬間を迎えた。

【即興力を支える「声かけ」】

 試合後、イングランドのモー・マーレイ監督の表情に暗さはなかった。

「日本チームの能力は本当に高いと思います。技術があり、ボールコントロールに秀でたとても良いチームです。私たちは良い経験をしました」(マーレイ監督)

 

 イングランドとは、ポジショニングの精度に明らかな差があった。距離感をよくすることで、複数のプレーの選択肢を用意できる。その中で、植木の仕掛けや宝田のポストプレー、宮澤のカットインや遠藤のドリブルなど、個々の強みが生きていた。

 体格差があるため、コンタクトプレーでは分が悪い。だからこそ、予測の効いたポジショニングや人数をかけた守備を徹底した。その結果、日本のファウル数は試合を通じてわずか「5」と、イングランドの「22」に比べてクリーンな守備も光った。

 そして、日本が勝利を引き寄せた最大の要因は、ドイツ戦同様、相手を意図的に動かしながら急所を突いたり、リードした中で時間の使い方を工夫するといった、臨機応変な対応力だろう。その対応力を支えているものの一つが、ピッチ内外から聞こえてくる「声の多さ」だ。

 今大会を通じて、チームが成長している点について多くの選手が「ピッチ内外で、お互いに声を掛け合うことが増えた」ことを挙げるようになった。池田監督も、

「選手同士で次の相手のことを話したり、スタッフに質問をして試合のヒントをもらいに来たりと、自発的な行動が増えました」と、その流れを賞賛している。

最終ラインからチームを牽引してきた南萌華(写真:Kei Matsubara)
最終ラインからチームを牽引してきた南萌華(写真:Kei Matsubara)

 率先して声かけを行ってきた一人が、キャプテンの南だ。

 ピッチ全体を見るセンターバックというポジション柄もあるが、その類まれなリーダーシップと対応力で、5試合で2失点の堅守を誇るチームの安定感を支えている。

「試合の中で合わなかったところを合わせるために(どうすればいいか)喋ることが、試合を重ねるたびに増えています。その中で、話すことの質も、プレーの質も上がってきていますね。その変化を、試合を重ねながら毎回楽しんでいます」(南)

 それは、外から見ていても明らかだ。5月中旬に国内で行われた合宿では、チーム全体の声が少ないことが気になった。だが、逆に、そこまで指示を出し合わなくても互いのプレーの意図を汲んでサポートし合える素地は出来上がっていた。

 その後、6月にイングランドで行った遠征のテーマは、

「(選手同士が)お互いにコーチになれるか。ピッチの中でも生活面でも、『勝つ』ために行動できるか、生活できるか、モノを言い合えるかということ」(池田監督/6月)だった。

 その辺りから、ピッチ内での「声」も増えていったように思う。

「相手を見てサッカーをする」。言葉にすれば簡単だが、実は一番難しいことなのだと思う。どれだけサッカーを知っていても、ピッチでそれを表現できる能力は別だからだ。

 確かな戦術眼を持ち、それをしっかりとプレーで表現できる選手が多いことが、池田ジャパンの強みだろう。そして南が言うように、選手同士が話す機会が増え、話す中身の質が上がったことで、組織としての柔軟性が高まっているのは間違いない。

【プレッシャーとの戦い】

 準決勝の壁を乗り越える上でもう一つのポイントとなったのが、試合前日夜に選手間で行われたというミーティングだ。リーダーシップをとったのは、キャプテンの南と、前回大会を経験している宮川と林だったという。

 宮川はこの試合で、人一倍のプレッシャーと戦っていた。2年前の前回大会では準決勝でフランスと対戦し、延長までもつれた末に敗れた。宮川がミーティングで伝えたのは、その試合の雰囲気だった。

「前回の準決勝の雰囲気が、本当に忘れられないんです。相手(フランス)が強いというのもあったし、とにかくすごいプレッシャーで。会場の雰囲気は、ナイターの満員に近いスタジアムでした。その中で、自分も含めて負傷者が2人出て。(明日の試合は)何が起こるかわからないから、より一層チーム全員で戦う必要がある、ということを伝えました」(宮川)

 宮川は2年前の準決勝は右サイドバックで出場していたが、前半29分に接触プレーで手の甲を踏まれて負傷し、交代を余儀なくされた。内容的にもあと一歩まで迫りながら、届かなかった決勝の舞台。その悔しさと、越えられなかった壁を乗り越えたいという強い想いを言葉に込めた。

 そして、その想いは確かに伝わっていた。高平は、宮川の言葉に影響を受けた一人だ。

「宮川選手が、『前大会では、準決勝で負けた時に泣き崩れている選手が多くて、そういう姿を見てきたからこそ、もう、(仲間が)涙を流すところは見たくない』と言ったんです。(イングランド戦で)自分が途中交代して宮川選手も交代した後、一緒にベンチにいた時に、(試合終了まで)残り数分のところで、宮川選手が涙を流しながら『見ていられない』と言って。嬉しさでその涙が出たんだな、と思いました」(高平)

 宮川は今大会、GS第3戦のパラグアイ戦からはポジションを一列下げて右サイドバックでプレーしている。決勝Tに残った強豪国はいずれも強力なサイドアタッカーを擁しており、キープレーヤーとのマッチアップも多いが、宮川は安定したプレーで最終ラインを支えている。憧れの選手は、なでしこジャパンのDF有吉佐織。経験の厚みやプレーの持ち味こそ違うが、このイングランド戦では、サイドバックからゲームを組み立てられるゲームメーカーである有吉と、宮川のプレーが重なって見えた。

 宮川は試合後、決勝進出が決まった瞬間の嬉しさを噛み締めるように思い出しながら、「ちょっと泣くのが早かったんですけどね(笑)」と言って、笑った。

前回大会を経験し、今大会でもチームをプレーで牽引してきた宮川麻都(左)と林穂之香(写真:Kei Matsubara)
前回大会を経験し、今大会でもチームをプレーで牽引してきた宮川麻都(左)と林穂之香(写真:Kei Matsubara)

【新たな歴史への挑戦】

 決勝の相手は、開催国フランスを1-0で破ったスペイン。GSでは日本が0-1で敗れているが、両チームのスタイルやここまでの試合運びを考えれば、試合は拮抗するだろう。だが、ドイツ戦やイングランド戦でそうだったように、自信を持って駆け引きし、これまで積み重ねてきた力を出し切れば、世界一は自ずと見えてくる。

 2005年からドイツ女子代表の監督を務め、FIFA女子最優秀監督賞を3度受賞したシルヴィア・ナイト氏は、準決勝の前に、決勝進出の2チームを日本とスペインと予想し、的中させている。そして、こうも言っている。

「日本とスペインは技術があり、ライン間のギャップをつくのが巧く、柔軟に攻める。(中略)日本の完成度は、スペインを少し上回っていると思います」(FIFA公式サイトより、筆者訳)

 泣いても笑っても次の決勝戦が、このチームで戦う最後の試合になる。悔いのない試合をして、まだ見ぬ新たな歴史を作ってほしい。

 決勝戦のスペイン戦は、24日(金)26:30(日本時間)キックオフ。25:55より、フジテレビ(地上波/関東ローカル)、26:20よりフジテレビNEXTで生中継される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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