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なでしこリーグ後半戦がスタート!カップ戦女王の千葉と、長野の意外な因縁とは?

松原渓スポーツジャーナリスト
カップ戦優勝の千葉は、リーグ後半戦の台風の目(C)松原渓

【3連勝】

 ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(以下:千葉)の勢いが止まらない。

 8月12日(土)に行われたなでしこリーグカップで、強豪を次々に破って初優勝を達成した千葉は、一週間後の19日(土)に行われたリーグ第11節で、3位のAC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)を1-0で下した。

 これで、千葉は7月以来、公式戦6試合負けなし。順位も首位に勝ち点5差の暫定5位に浮上し、上位進出を視界にとらえた。

 予定されていた3試合のうち、東京で行われる予定だった2試合が雷の影響で延期になったこの日の夜、東京から約200km離れた長野の空は晴れわたり、予定通りの17時にキックオフを迎えた。

 千葉と長野の対戦については、興味深いデータがある。

 両チームは昨シーズンからリーグ戦とカップ戦を含めて5度、対戦しているが、結果は千葉が5戦全勝。長野が1部に昇格して以来、千葉は唯一「勝っていない」チームである。そして、この試合でも千葉が勝利したため、長野は不名誉な記録を更新することになってしまった。

【堅守を支えるもの】

 なぜ、千葉は長野に負けず、長野は千葉に勝てないのかーー。

 

 長野のボランチで、攻撃の起点を担うMF齊藤あかねは、千葉に対する苦手意識は「ないと思います」と、きっぱりと否定した。その上で、ゴールが奪えなかった理由について、次のように話した。

「相性はあるかもしれないですね。うち(長野)はスペースを使って活きるチームですが、ジェフはそのスペースをしっかりブロックで締めてくる。それは分かっていたのですが、攻撃のアイデアが乏しく、この試合でも打開できませんでした」(長野・齊藤)

 この試合を含め、千葉は直近の3試合を1-0の最小スコアで勝っており、無失点試合はこれで4試合連続となった。

 千葉のサッカーの最大の武器は、献身的に90分間走り抜く精神力と体力である。そして、守備時にはその精神力と体力に支えられた「走力」が、堅守を実現する。

 この試合では、守備時に2トップを除く9人が自陣に戻り、長野の特徴でもあるカウンターやスルーパスを通すスペースを与えなかった。

 もちろん、ただ単に引いて守っているだけではない。相手チームのボールホルダーに対しては常に複数でアプローチしてプレッシャーをかけ、一度、奪いどころを定めたら奪い切るまで徹底して追いこむ。ボールを奪われた際には、たとえボールから遠い選手であっても全力で自陣に戻っていた。

 それでいて、攻撃時には前の選手を追い越す動きを惜しまないのだから、相当な運動量である。

 

 千葉は90分間を通じてピンチがなかったわけではない。

 前半33分には、高い位置からのプレッシャーがうまく機能せず、長野のダイレクトパスで自分たちのマークを次々にかわされ、最後は長野のFW泊志穂にフリーでシュートを打たれた。また、77分には、長野のカウンターからのクロスをゴール前でFW山崎円美に頭でタイミングよく合わされた。しかし、千葉はGK根元望央が適切なポジショニングを取っていたこともあり、長野のシュートはいずれも枠を捉えなかった。

 千葉の勝利につながるゴールは、セットプレーから生まれた。

 前半40分、左コーナーキックの場面で、千葉はキッカーのMF瀬戸口梢がボールを蹴る瞬間、ゴール前に入っていた守備側の長野の選手たちを、千葉の複数の選手たちが体でブロック。長野は誰もボールに触ることができず、ボールはゴール前をグラウンダーで横切るように流れた。そこに、自身のマークをうまく外したDF上野紗稀がタイミングよく走り込み、フリーでゴール右隅に蹴りこんだ。千葉にとっては、まさに狙い通りの形から奪ったゴールだった。

 後半は1点を追って攻勢に出た長野に対し、千葉は得意のカウンター攻撃に切り替えて2点目を狙いに行ったが、試合は膠着。結局、1点を守りきった千葉が勝利を収めた。

【積み上げた自信と連携】

 この試合で、千葉は守備だけでなく攻撃面でも良い変化の兆しを見せた。

 リーグカップでは準決勝、決勝とカウンターを徹底して優勝まで上り詰めたが、この試合は前半、ボールポゼッションで長野を上回り、走力を活かしながら少ないタッチ数でつなぐパスサッカーの一端を見せた。

 キャプテンのDF上野紗稀は、リーグカップで積み上げた自信を口にする。

「(リーグカップで)決勝まで勝ちあがれたことで『どんな相手にも戦える』という自信がついて、一人ひとりが焦らずにボールを持てるようになってきました」(上野)  

 

 特にサイド攻撃時には、選手間の自然な連携から、相手ゴール前での決定機につながるプレーが何度かみられた。

 千葉のボランチを任されているMF瀬戸口梢がボールを持つと、両サイドハーフのFW深澤里沙とMF千野晶子が攻撃のアクションを開始する。瀬戸口から、高い位置をとる左サイドバックの上野、あるいは右サイドバックのDF若林美里にボールが入ると、ワンタッチかダイレクトでサイドの奥のスペースに強めの縦パスが送られ、両サイドハーフのトップスピードを活かす。このように、千葉の手数をかけないサイド攻撃によって長野の守備はマークの受け渡しに戸惑い、対応が間に合わなくなった。

 トップで両サイドの攻撃をサポートするFW成宮唯は、その連携に自信を見せる。

 「フォワードに背が高い選手がいるわけではないので、ロングボールで収めることができない分、流動的に動くコンビネーションについては、“暗黙の了解”ができるぐらい、練習時からコミュニケーションを重ねています」(成宮) 

 しかし、良い形を作りながら、流れの中からゴールを奪えなかったことは今後の課題である。試合後、千葉の三上尚子監督の表情が緩むことはなかった。

「相手のボールを奪うところまでは狙い通りだったのですが、攻撃でスローダウンしてしまうんです。特に前半は個々の仕掛けも足りず、ボールを持たされている感じがありました」(三上監督)

  

【得点力アップの鍵】

 今後、千葉が攻撃をさらに充実させ、得点力をアップさせるためには何が必要なのか。

 絶対的なストライカーがいない千葉にとっては、個々のレベルアップと並行して、ゴールパターンを増やすことが不可欠だろう。

 その鍵になりそうな選手として、FW成宮唯を挙げたい。

 成宮は154cmと小柄だが、複数のディフェンダーに囲まれてもボールを奪われず、高いキープ力で「間」を生み出せる貴重な存在だ。

 そのキープ力の秘訣は、ボールを受ける前の「準備」にある。成宮はボールを受ける前に必ず進行方向と逆に体を振って、自分のマークを外す動きを入れることを忘れない。

「体が小さいので、一発でディフェンスにこられて倒されないように、必ず逆を取るフリをしてからボールを受けるようにしています。フェイントは、ネイマールのプレーを見て『こういう感じかな』と真似してみたりも。チームメートからは『動きがフニャフニャしている』と言われることもありますが(笑)」(成宮)

 フェイントを入れるために、常に上半身を揺らすように動かしているため、フニャフニャしているように見えるのかもしれない。

 また、成宮は自身がどちらのサイドでプレーするかによって、そのサイドにいる味方選手とのコンビネーションを考えて臨機応変にプレーしている。

 先週のリーグカップ決勝で印象的だったのは、右サイドハーフのMF千野晶子からボールを受けた際に、ターンすると見せかけてヒールキックで返し、走り込んだ千野のスピードを殺さずにスムーズな攻撃参加を促した場面。

 この試合では、左サイドバックの上野からパスを受けた際、ゴール方向にターンして自らシュートを打つ雰囲気を漂わせながら相手のマークを引きつけ、上野のオーバーラップのタイミングに合わせて絶妙のスルーパスを出した。

「千野選手は簡単にボールをはたいてくれるので、あうんの呼吸がありますね。上野選手は上がるのが好きなので、一つタメを作ってあげて、上がるタイミングを待ってパスを出すようにしています」(成宮)

 以前は「苦手」と話していた球際の粘りや、守備面については、千葉の「走り」を象徴する存在でもある、ベテランの深澤の名前を挙げた。

「(スペランツァFC大阪高槻から今シーズン、)ジェフに来てから、走ることや戦う姿勢が前面に出ている選手が多く、それは自分に足りない部分だと感じたんです。特に、(深澤)里沙さんの背中を見て、守備で(相手選手を)二度追いすることは今では当たり前の感覚になってきました」(成宮)

 自身の課題もはっきりしている。

 今シーズンはリーグ戦とカップ戦の全21試合にFWとして先発しているが、まだ2得点しかしていない。

 「フォワードのポジション争いが激しい中で、結果にこだわってプレーしているのですが、なかなか点が取れないのは悔しいです。ただ、点を獲りたいという思いが強くなりすぎると、自分の性格上、周りが見えなくなったり、自分勝手なプレーになってしまうので、周りを活かしつつ大事なところで点が獲れたらいいな、と思っています」(成宮)

 その分、今シーズンは他の選手がゴールを決めているのでは?と振ってみると、「アシストも好きですけれど、(今後は)それだけでは満足できないですね」と笑った。

 

 今シーズン、リーグ第4節で長野と対戦した際、ゴール前で成宮が2人をリフティングでかわしながら決めたゴールは圧巻だった。彼女がゲームメーカーからストライカーになった時、ジェフの攻撃力はさらに威力を増すことだろう。

 千葉は今週末の8月27日(日)にホームのフクダ電子アリーナで、2位のINAC神戸レオネッサと対戦する。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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