世界一へのラストステップ。前回女王ドイツに挑むヤングなでしこ

ドイツ遠征中のU-20日本女子代表(C)松原渓

【前回女王、ドイツとの強化試合が実現】

 テレビ画面は毎日リオデジャネイロ五輪のニュースでにぎわい、カラフルに彩られている。

 

 手倉森ジャパンの決勝トーナメント進出は叶わなかったが、最終戦での勝利に救われた。

 女子サッカーでは、3連覇を目指すアメリカ、地元の応援を受けてゴールを量産中のブラジルに注目が集まっている。アジア代表として出場しているオーストラリアと中国がベスト8に入ったのも嬉しいが、なでしこジャパンが出場していたら…と想像せずにはいられない。

 リオ五輪アジア予選敗退を機に指揮官とメンバーを刷新したなでしこジャパンは、6月にアメリカ遠征、7月にスウェーデン遠征をこなし、次のワールドカップに向けた準備を着々と進めている。そんな中、今注目したいのが、11月に20歳以下のワールドカップを控えた若きなでしこたちだ。

 U-20日本女子代表が、8月8日から17日までドイツで強化合宿を行っている。U-20ワールドカップ(パプアニューギニアで11月13日より開幕)を3ヶ月後に控え、前回大会女王のU-20ドイツ女子代表との強化試合が実現したのだ。

 合宿地は、ドイツ西部に位置するメンヒェングラートバッハ。100年以上の歴史を持つブンデスリーガ随一の古豪、ボルシアMGの本拠地である。

 北海道よりも緯度が高いドイツは、夏でも肌寒い日が多い。初日と2日目は一時的に雨が強く降り、気温は15度以下になった。雲の動きが速く、変わりやすい天候に加え、足に絡むような芝の感触も日本とは違う。だが、土砂降りの中で行われた紅白戦でもパスはテンポ良くつながり、集中が途切れることはなかった。

 

 世界一を目指すチームの完成度は、いよいよ高まってきている。

【チーム発足4年目で迎えるU-20ワールドカップ】

 このチームは2013年の2月にU-16日本女子代表として立ち上げられ、今年で4年目を迎えた。

 新生なでしこジャパンの高倉麻子監督と大部由美ヘッドコーチの元、チームは発足時から「世界一」を目標に掲げ、攻撃的なサッカーを貫いてきた。どんな相手にも圧倒的なボールポゼッションを誇り、主導権を握り続けるアグレッシブなサッカーだ。U-16とU-19のAFC女子選手権でアジアの頂点に2度立ち、U-17ワールドカップで世界一に輝くなど、内容だけでなく結果もしっかりと残してきた。2020年の東京五輪では22歳~24歳を迎え、世界一への期待がかかる世代である。

 11月のU-20ワールドカップにエントリーされる21人の選手について、指揮官の構想は固まりつつあるようだ。

 今回の合宿に呼ばれた21人のうち、籾木結花、長谷川唯、隅田凜、清水梨紗(以上、日テレ・ベレーザ)、乗松瑠華、平尾知佳(ともに浦和レッズレディース)の6人は、2013年のAFC U-19アジア女子選手権に飛び級(17歳)で参加している。その大会で日本は4位となり、上位3チームまでに与えられるワールドカップの出場権を逃す屈辱を味わった。その悔しさが、世界への思いをさらに強くした。また、長谷川と杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)はU-17ワールドカップに飛び級で参加した2012年を合わせて2度出場し、優勝した2014年大会ではチームの軸となった。その他にも北川ひかる(浦和レッズレディース)、市瀬菜々(ベガルタ仙台レディース)、西田明華(セレッソ大阪堺レディース)など、所属チームでコンスタントに試合に出て活躍している選手が多く、それぞれの経験がこのチームに安定感をもたらしている。

未来のなでしこ黄金世代が作る「勝負に勝つ」サッカー

出典:http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/

 チームは11月の本番に向け、今年は2ヶ月に1回のペースで合宿を行い、強化に努めてきた。国内合宿では身体の大きい男子高校生(3年生)とのトレーニングマッチを組み、スピードやパワーのある外国勢を想定した経験も重ねた。そんな中で、強い相手にも自分たちのサッカーをコンスタントに表現できるようになってきた印象がある。だが、世界と戦うためにはさらなる「個のパワーアップ」が必要だと高倉監督は強調する。

「本大会の初戦で対戦するナイジェリアは情報も少なくて分かりにくいチームですし、今はとにかく、自分たちの力をあげていくしかないと考えています。世界大会仕様にするために、特にクロスとかヘディング、球際などはもう一段上に上げないといけないと思っています」(高倉監督)

 10日午後の練習では1対1のトレーニングを集中的に行い、練習中、大部コーチから選手に指示が飛んだ。

「人数をかけて奪うけど、(味方に)頼るんじゃなくて、1人1人がもっと強くなってほしい。自分のマーク(する選手)には絶対にやらせないこと。寄せてはいるんだけど、相手がボールを持った瞬間に一瞬離してしまう。この課題はトップ(なでしこジャパン)でも一緒」(大部コーチ)

 なでしこジャパンは6月にアメリカ女子代表と2試合、7月にスウェーデン女子代表と1試合を行い、3試合で8失点を喫した。普段の国内リーグで「相手に寄せている」感覚は通用しなかった。

 同様に、U-20ワールドカップでは、U-17ワールドカップの時のように自由にボールを持たせてはもらえないだろう。昨年、女子ブンデスリーガ(ドイツ)1部の強豪1.FFCトゥルビネ・ポツダムの練習に参加した長谷川は、言葉に実感を込める。

「ドイツで練習に参加して、パワーの面は全然違うと感じました。U-17は『絶対に優勝しなきゃいけない』というイメージだったんですけれど、U-20は中盤のプレッシャーもさらに強くなると思うので、『(世界一を)穫りにいく』という感じです」(長谷川)

 この世代は、中南米やアジアの国との対戦経験は多い反面、ドイツやフランスなど、ヨーロッパの強豪国との対戦経験がない。そのため、今回の強化試合は、これまでにないパワーやスピードを体感できる貴重な機会となりそうだ。

【盤石の強さを誇る女王ドイツ】

 ドイツは、過去7回行われたU-20女子ワールドカップにすべて出場し、そのうち3大会で優勝している。さらに、準優勝が1回、3位が2回と、この年代ではアメリカを凌いで世界一の実績を持つ。日本は2012年、日本で開催されたU-20ワールドカップの準決勝でドイツと対戦し、0-3とスコア以上の完敗を喫した。そのドイツと、本大会前に強化試合を組めたのは幸運だ。11月の本大会では、ともにグループ首位で通過した場合は、準決勝で対戦する可能性がある。いずれにしても、ドイツに勝てなければ世界一にはなれないのだから。

 このマッチメイクが実現した裏には、日本側の粘り強い交渉があったと高倉監督は言う。

「ドイツは優勝候補の一つですし、本大会はいつもいい感じでチームを仕上げてくるので、対戦してみたいと何度かオファーを出していたのですが、断られていたんです。アメリカとは良好な関係を築いて試合を組めているんですが。育成年代はなるべく強い国とトレーニングマッチを重ねて、選手に体感させてあげたいと思っています。本番前にこちらの手の内を知られたとしても、そこからの勝負で本番を迎えたいと思いますから。ただ、ドイツやフランスはその点は慎重みたいですね。今回はタイミング的に1試合だけならと言ってくれて、実現しました」(高倉監督)

 トレーニングマッチ自体は実現したものの、メディア向けには「試合映像と写真撮影は禁止」という条件付きでの公開となった。情報を最低限に抑えようとするところに、やはり手の内を知られたくないというドイツ側の心理も読み取れる。だが、このタイミングでオファーを受けてくれたということは、ドイツ側としても、日本の動向をチェックしておきたい意図があるのかもしれない。

  U-20ドイツ女子代表チームを率いるマレン・マイネルト(Maren MEINERT)監督は、育成年代のスペシャリストだ。現役時代はドイツ女子代表のMFとして代表キャップ数92、33ゴールの実績を残したが、引退後は指導者としてU-19女子代表を率いて欧州チャンピオンに3度輝き、2010年と2014年のU-20ワールドカップで優勝するなど、華々しい結果を残している。

 前回大会のチャンピオンとの戦いの中で、日本チームの良い面とそうでない面がハッキリすれば、今後、本大会までの準備の過程で大きなプラスになるだろう。  

 今大会に臨むドイツがどんなレベルにあるのか、また、そのチームに日本がどのような試合を展開できるのか。限られた情報の中で勝負どころをいち早く見極め、ゲームをコントロールするのはどちらか。楽しみな一戦である。

  U-20日本女子代表 vs U-20ドイツ女子代表の一戦は、12日午後4時(日本時間の同日午後11時)キックオフだ。

【ドイツ遠征、試合前選手コメント】

DFリーダーとしてチームを牽引する乗松
DFリーダーとしてチームを牽引する乗松

乗松瑠華(DF/浦和レッズレディース)

「ドイツには2回来たことがあって、いろんなチームと対戦したことがあります。1回はJFAアカデミーの時で、もう1回は個人的に練習参加に来た時の経験です。優勝候補のドイツは前線に良い選手もいると思うので、まずは無失点で抑えたいです。相手が速いのでラインコントロールをいつもより正確に、声をかけながらやっていくことと、個人的に今トライしているのは足元のインターセプトです。センターバックなので裏(ディフェンスライン)のリスクのケアは一番に考えなきゃいけないところですが、その中でも(相手の)足元を強く狙っていくことです。ドイツの選手はストライドも長いし、一瞬の動きとか、長距離でも爆発的なスピードがあると思うので、相手がボールを受ける前にカットしたり、相手がドリブルをしている中で、少し離れた時に身体を入れることを意識しています。球際で当たる場面は必ずありますが、ぶつかるタイミングを工夫すれば絶対に勝てるので。そこは負けたくないですし、自信があります。今回の合宿はとても良い経験ができると思うので、どんどんトライしたいと思います。」

中盤でゲームをつくる隅田
中盤でゲームをつくる隅田

隅田凜(MF/日テレ・ベレーザ)

「(ドイツで合宿を共にする選手たちとは)1年前ぐらいから一緒に守備などを築き上げてきた共通意識がありますが、守備から攻撃に繋げる部分の質をもっと上げていきたいです。(私は)代表ではボランチでプレーすることが多いんですが、守備で球際を激しくいったり、予測(すること)が自分の持ち味だと思っています。代表で(過去に)アメリカとは対戦していますが、ドイツは初めてで分からない部分が多いです。かなり強いイメージがありますね。」

「(世界一を)穫りにいく」と話す長谷川
「(世界一を)穫りにいく」と話す長谷川

長谷川唯(MF/日テレ・ベレーザ)

「20歳以下の年代は17歳以下と違ってプレッシャーも強くなります。そこは今回のドイツ遠征を通じてしっかり経験して、短い時間ですが、ドイツ遠征からワールドカップまでの間で対策を考えていきたいです。相手の強さもある程度分かっているので。どれだけぶつからないでサッカーできるかという予測や、逆を取る動きなど、個人の判断が大事になってくると思います。」

1対1の強さを見せる北川
1対1の強さを見せる北川

北川ひかる(DF/浦和レッズレディース)

「ドイツにはJFAアカデミーの時に1回来たことがありますが、ドイツ(U-20代表)と対戦するのは初めてです。ポゼッションできて、そこにスピードもあるというイメージですね。サイドで1対1になった時に、守備でどれだけ通用するかというところが楽しみです。ビルドアップでも、速い相手に対してどうやって崩していくか、という面でチャレンジしたい。サイドバックは守備で相手のボールを奪ってから攻撃に繋げる面白さがあります。本大会まで3ヶ月しかないので、守備の1対1の強さを出したり、攻撃参加で貢献するところは意識しています。球際の強さは自分の持ち味の一つだと思っていますが、100%抜かれないような選手になることを目標に、どこまで相手に寄せるかということや、アジリティの面でもっと強化してきたいです。」

ドイツ戦を想定しながらトレーニングする杉田
ドイツ戦を想定しながらトレーニングする杉田

杉田妃和(MF/INAC神戸レオネッサ)

「(ドイツで合宿を共にする選手たちとは)ずっと一緒にやってきたメンバーで、同じ世代なのでコミュニケーションがとりやすいです。消極的なミスに対しては厳しく言われることもありますが、それも含めてチームはいい雰囲気です。以前より連係プレーも増えてきたし、勝負どころでの読みや狙いが良くなってきました。

(アジア予選など、厳しい戦いの中でどんなところが成長しましたか?)

私自身はラストパスの質が課題ですが、相手のプレスが速い中でも顔が上がるようになり、(気持ちの)余裕も持てるようになりました。ただ、チーム(INAC)では最近良い形で試合に入れていないことが課題です。それを変えるためにも、淡々としているプレーをもうちょっと積極的に、多少強引にでも仕掛けるような違いを出さないといけないと感じています。代表でもそういう力は必要だと思うし、相手が狙っていない時に仕掛けていけるようなタイミングを掴んでいきたいです。」

豊富な運動量とスピードを持ち味とする清水
豊富な運動量とスピードを持ち味とする清水

清水梨紗(DF/日テレ・ベレーザ)

「U-19の年代になってから、ヨーロッパの選手との対戦は初めてなので楽しみです。ドイツ代表は(U-20)ワールドカップで上位に入ってくるチームだと思いますし、パワーもスピードもテクニックもありそうなので、人数をかけていかないとだめだろうな、と。攻撃ではオーバーラップして、シュートにつながるプレーに挑戦したいです。守備では、大きい相手に1対1で負けないこと。特に球際は強くいきたいと思っています。自分のウィークポイントでもあるんですが、身体が華奢(きゃしゃ)だから、球際で他の選手よりも人一倍(強く)いかないと、相手にダメージを与えられないんです。一発で奪いきれなくても、粘り強く守ることを意識しているんですが、一発で入れ替わられてしまうこともあります。日本人だったらまだその後ついていけるんですが、外国の選手にスルッと行かれたら…。(私は)守備の人間なので、そこはしっかり意識して取り組んでいます。

ラインコントロールは(乗松)瑠華さんが先頭を切って引っ張ってくれて、上げ下げのタイミングは大切にしてきました。完成度は高まってきたと思います。

(ーー逆の左サイドバックの北川ひかる選手とのポジションのバランスはどうですか?)

ひかるも自分もいけいけ(攻撃的でどんどん前線に上がる)タイプなので(笑)。「2人で上がるのはやめよう」とよく話すんです。流れの中で、どちらかがいったらどちらかがカバーしようね、と。

(ーーオフザピッチの雰囲気は?)

めちゃくちゃ仲がいいチームです。(特定の)グループができないというか、集まったところで仲良くなるし、全員集まってもやっぱり仲が良くて。これまでは年代別代表でも仲が良いメンバーと行動したり、グループになりやすかったので、こういう感じは初めてなんですよね。みんなが、相手のことを考えているんだと思います。」