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英国でもステルス大増税による景気後退懸念強まる(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
下院議会でスナク首相(左)の答弁を聞くハント財務相(右)=英スカイニュースより

英国では労働者が物価高を乗り切ろうと、賃上げを獲得し、所得が増えても、より高い税率が適用されるステルス増税(偽装増税)の問題に直面。政府の財政政策を監督する英予算責任局は増税が成長を阻害すると批判している

英国のジェレミー・ハント財務相は11月22日、2023年秋の予算編成方針(補正予算)を発表、2028年4月まで、2023/2024年度の個人所得税の課税最低限と、累進税率(20%、40%、45%)の課税所得金額の最低限の引き上げを2028年まで凍結したことを受け、英国営放送BBCは、「(数年後には)最終的に50年ぶりの大増税となる」と報じた。

課税最低限は所得が年間1万2570ポンド(週242ポンド)で税率0%、「ベーシック」(基本税率)は20%で、課税所得金額は同1万2571ー5万0270ポンド(週243-966ポンド)。それより高い「ハイヤー」(上級税率)は40%で、5万0271-12万5140ポンド(週967ー2406ポンド)、最高税額の「アディショナル」(追加税率)は45%で、12万5141ポンド超(週2407ポンド超)となっている。現在、1ポンドは約180円。

インフレ高騰に伴う賃金引上げで所得が増えた低・中所得層の世帯の大半(数百万人)は、3つの税率区分の課税所得金の最低限が引き上げられず、凍結されたため、より高い税率区分に移り、結果的に増税となる。いわゆるステルス増税(偽装増税)の罠にかかる。エコノミストの間では、こうした罠は経済成長の足を引っ張る「フィスカル・ドラッグ」(Fiscal Drag)とも呼ばれている。

■年間7.4兆円の大増税

10月6日の英国営放送BBCによると、シンクタンクのリゾルーション財団は当初、2027/2028年度までに年間300億ポンド(約5兆4000億円)の大増税になると予想していたが、イングランド銀行(英中銀、BOE)の最新の経済予測によると、インフレ率の高止まりがこれまで予想していたよりも長期化する見通しから年間400億ポンド(7兆2000億円)の大増税、約50年ぶりの大増税に上方修正した上で、「これでは景気回復は望めない」と警告している。

同財団はインフレの高止まりが長期化するとのBOEの予測に従えば、インフレ上昇に伴って課税最低限は2028年までに1万2570ポンドから1万6200ポンド程度に引き上げられるべきだが、政府は課税最低限を1万2570ポンドに凍結したため、実際にはそうならない。これは、大半のベーシック税率区分の納税者が年間720ポンド(約13万円)多く支払うことを意味すると見ている。

同財団の主席エコノミスト、アダム・コーレット氏は、「通常の課税最低限の引き上げ凍結はどこの政府でもこっそりと税収を増やすための実証済みのやり口だ」と述べている。同氏は「これがステルス増税といわれる所以だが、400億ポンドという予想をはるかに超える規模だ」と指摘する。

■日本でもステルス増税懸念

日本でも岸田首相は賃金引上げの重要さを強調。賃上げで消費が拡大、景気を刺激する好循環により、物価が押し上げられデフレから脱却するというリフレーション(有効需要を創出してデフレから脱却しつつ、景気を回復させ、インフレを引き上げて安定させることを目指すマクロ経済政策)を提唱している。

しかし、賃金が上昇し、国民の所得がいくら増えても、課税最低限や累進税率の課税所得金額の下限が引き上げられなければ、日本でも英国と同様、多くの人が課税対象になるため、国の税収が増えるというステルス増税となる。

最近でも大和総研の是枝俊悟・主任研究員が7月23日付の自社のウェブサイトで、「課税最低限やブラケット(異なる所得税の税率が適用される年間所得の金額)は名目の金額で固定されているため、物価と賃金が同率で上昇した場合、所得税額はそれ以上の比率で増える。この現象を、ブラケット・クリープと呼ぶ」とし、賃金上昇の裏には増税リスクがあると指摘している。

その上で、同氏は増税による実質可処分所得の目減りを避けるには、「物価上昇率分だけ課税最低限を引き上げれば良い」とし、「日本はこれまでブラケット・クリープに対応するため、物価がある程度上昇する度に所得税の課税最低限を引き上げてきた。最後のインフレ調整は1995年で、その後、デフレの時代が続いたため、課税最低限は据え置かれている。だが、近年の急ピッチな物価上昇により、1995年からの累積の物価上昇率は2022年時点で6.7%上昇に達している。そろそろインフレ調整を検討しても良い時期だろう」と結論付けている。(『中』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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