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ロンドン証券市場改革「ビッグバン2」計画巡り、英政府とBOEが対立―IMFはBOEを支持(下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
IMFの最新レポート「国際金融安定性報告書」の記者ブリーフィング=IMFサイト

昨年9月のトラス前首相の大規模減税を柱としたミニ予算の発表後、英国債が暴落、経営破綻の危機に直面した年金基金に対し、イングランド銀行(英中銀、BOE)はさらなる市場危機を防ぐため、年金基金はもっと厳しい規制を受ける必要があると主張している。特に資産運用手法として、LDI(債務主導投資:年金債務をベンチマークとして、それに対する超過リターンを追求する資産運用)戦略を使用している年金基金に新しいストレステストを実施すべきだとしている。この方針に従って、BOE傘下の金融安定委員会(FPC)は3月下旬、年金規制当局に対し、LDIファンドが国債利回りの2.5ポイントの急上昇に耐えうるか確認するためのストレステスト(健全性審査)を緊急に導入するよう指示した。LDIファンドは国債利回りが1.6ポイント上昇した後、危機に陥っている。

もう一つ、ハント財務相のビッグバン2計画に立ちはだかるのはIMF(国際通貨基金)だ。IMFは最新の「国際金融安定性報告書」(4月11日正式発表、4日に事前公表)で、「トラス前首相の下で短期間に起きた年金基金の崩壊危機は世界的な金利上昇が今後数カ月でさらなる金融危機を引き起こすリスクを浮き彫りにした」と指摘。また、「最近では米国の中堅行シリコンバレー銀行とスイスの金融大手クレディ・スイスの破綻救済は単独の事件ではない可能性があり、問題が従来の銀行部門を超えて年金基金や保険会社、ヘッジファンドにまで及ぶ可能性がある」と指摘した。

英紙ガーディアンのラリー・エリオット経済部デスクは4月4日付コラムで、「IMFはノンバンク規制を強化する必要性を強調している」という。IMFは、ノンバンク金融仲介機関(NBFI)の成長が2008年の世界金融危機後に加速し、今や世界の金融資産のほぼ50%を占めているとした上で、「このように、ノンバンク部門の円滑な機能は、金融の安定にとって不可欠だ」と結論付けている。

IMFの3人の専門家(ファビオ・ナタルッチ氏とアントニオ・ガルシア氏、パスクアル・トーマス・ピオンテック氏)は共同で発表したIMFブログで、「金利が低く、安価なお金が容易に利用可能だった10年以上の期間後に弱点が現れた」と指摘。

「NBFIの成長が2008年の世界的な金融危機後に加速し、今や世界の金融資産のほぼ50%を占めている」とし、また、「米国と欧州の一部の銀行で起きた最近の金融不安は、何年にもわたる低金利や抑制されたボラティリティ、十分な流動性によって構築された金融脆弱性の高まりを強く思い出させる」、「このようなリスクは、世界的な金融政策の引き締めが続く中、今後数カ月で激化する可能性があり、銀行の範囲を超え、さまざまな機関で構成される広大な金融セクターを理解し、保護することが特に重要になる」という。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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