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大手企業の英国離れ進む―企業投資インセンチブ競争で米・EUに出遅れ(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
英国商工会議所(BCC)のアレックス・ベイチ政策担当理事=BCCサイトより

英国商工会議所(BCC)が3月初め、ショッキングな経済予測を発表した。英国の2023年GDP成長率が0.3%減、2024年に0.6%増と、かろうじてプラス成長に戻るものの、2025年でもまだ0.9%増と低成長が続くというものだ。BCCのアレックス・ベイチ政策担当理事は3月9日付の英紙デイリー・テレグラフで、「英国は今年、リセッション(景気失速)は回避する見通しだが、成長は鈍化、2024年10-12月期までコロナ禍の水準に回復しない」と断言した。

英国経済の不透明な見通しについて、ベイチ氏は、「企業による積極的な投資が困難なことが最大の理由だ」と指摘。「4月から法人税の税率が19%から25%に引き上げられ、今年は(英中銀の利上げ継続による)借り入れ金利も2023年末で4.25%に上昇する。資金を新しいプロジェクトに投資するリスクを冒すだけの(政府の)インセンチブ(奨励策)もほとんどない」と、政府の無策ぶりを厳しく批判する。

同氏は、「英国企業は今後1年でかなりの苦境に陥る。雇用が悪化、失業率は今年4.5%、2024年は4.8%に達する」と、危機感を募らせる。「昨年末、コロナ禍前の水準に回復した企業投資は、今年はわずか0.2%増にとどまる。政府は企業に投資を奨励するインセンチブを講じなければ、英国は他国から取り残される」と悲観的だ。

英国はEU(欧州連合)や米国に比べ、企業投資を促すためのインセンチブ競争、特に、世界経済の潮流となっているグリーンエネルギー(環境保護や省エネ)投資分野で大きく出遅れている。米経済通信社ブルームバーグのトッド・ギレスピ記者は3月9日付コラムで、「英国の気候変動委員会のトップであるクリス・スターク氏は9日発表した最新の報告書で、政府の時代遅れの政策が英国を迅速に電化するためのインフラ整備を遅らせていると警告した。この警告の背景には、米国がグリーンエネルギー補助金を大幅に拡大、欧州連合も多くの再生可能エネルギーを構築する計画を加速する中で、英国が競争に乗り遅れることへの懸念がある」と指摘する。

EU(欧州連合)は2015年以降、毎年720億ユーロ(約10.2兆円)の再生可能エネルギー補助金を支出。米政府もEUに対抗するため、2022年10月にインフレ削減法(IRA)を導入、グリーンエネルギー投資のため、今後10年間で補助金と税額控除で計3690億ドル(約48.3兆円)の財政支出を可能にしている。

グリーンエネルギー投資の影響を受けるのは再生可能エネルギーだけではない。最も影響が大きいのは電気自動車だ。ブルームバーグのリチャード・ブラボー記者は2月26日付コラムで、「米国ではバッテリーの原材料の価値の少なくとも40%が米国由来であれば、北米で組み立てられた電気自動車に対し、最大7500ドル(約100万円)の税額控除が消費者に提供される。米議会の推測ではこのインセンチブだけで約75億ドル(約1兆円)の価値がある」という。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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