Yahoo!ニュース

ダイソン創業者、「大きな政府が経済を破壊」と政府を痛烈批判―世界貿易戦争の影ちらつく中で(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
英ダイソン・テクノロジーの総帥ジェームズ・ダイソン卿=ダイソンのウェブサイトより

世界的な掃除機ブランド「ダイソン」の創業者として知られる英ダイソン・テクノロジーの総帥であるジェームズ・ダイソン卿が英紙デイリー・テレグラフへの1月19日付寄稿文で、「大きな政府が英国経済を破壊している」と、スナク英首相の増税・緊縮財政路線を痛烈に批判、政財界に大きな波紋を広げている。

ダイソン卿は寄稿文で、スナク政権の経済政策を「近視眼的で愚かな経済的アプローチだ。コロナ禍の経済状況がそのまま続いている」と、一刀両断。その上で、「政府はコロナ禍中、企業の従業員に家に居るよう命令し、企業に干渉した。コロナ禍が過ぎ去った今でもまだ従業員に職場から離れて働くことを奨励している。今こそ、企業は成長を生み出し、経済を元に戻すために解放されなければならない」と述べ、経済再生に向けた取り組みを早急に開始するよう苦言を呈している。

また、ダイソン卿はスナク首相が1月4日、ロンドンでの新年講演会で、「変化には勤勉と犠牲が必要だ」と発言したことにも咬みついた。「変化」とは、より良い未来の創造のために今、高インフレの抑制を最優先にしなければ、英国経済の復活はありえず、それには国民の犠牲と努力が必要という趣旨だが、ダイソン卿は、「勤勉と犠牲(を強調すること)が次の選挙で(与党・保守党が負ける)負の資産になってはいけない」と一蹴。

さらに、ダイソン卿は、「スナク政権では成長という言葉は禁句も同然となっている。これは英国経済が低迷している理由や、この調子で行けば2030年までに英国の平均的な世帯がポーランドよりも貧しくなる理由をうまく説明する。急成長する企業が英国にとどまって繁栄して初めて経済を好転させることができる」と言い切る。

一方、スナク首相は1月19日、英国北西部のランカシャー州モアカムでの講演で、「国民はばかではない。減税できない理由を知っている」と発言、減税に否定的な見解を示し、保守党内の右派議員の怒りを買う羽目となっている。スナク政権はインフレ率を2023年に半減させることを目指し、2022年11月に発表した秋の予算で300億ポンド(4兆8000億円)の増税策を盛り込み、国民の税負担を1950年以来70年超ぶりの高水準(対GDP比36%)に引き上げている。

英国経済は昨年11月の月次GDP伸び率がマイナス予想に反し、前月比0.1%増と、10月(同0.5%増)に続き、2カ月連続で増加したため、2022年10-12月期のリセッション(景気失速)懸念が後退したが、英国経済の見通しは依然、厳しい。米金融大手シティグループは11月GDP伸び率が予想外にプラス成長となり、2022年10-12月期は2四半期連続のマイナスを回避、2022年はリセッションを回避した可能性が高いと指摘している。しかし、2023年前半にリセッションに入り、2023年の成長率は0.9%減と予想。英大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)傘下のシンクタンク「EY・アイテム・クラブ」も2023年を0.7%減と予想している。

こうした中、ダイソン卿は、「政府は春の予算を使って民間のイノベーションを奨励し、成長への野心を示す必要がある」と指摘、3月の政府予算の在り方に一石を投じている。この寄稿文をきっかけに、政財界では急速にスナク政権の増税・財政緊縮政策を批判し、トラス前首相の減税路線に回帰すべきとの論調が広がってきている。(『下』に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

増谷栄一の最近の記事