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インフレ高騰で分かった英中銀の無力さ=政府のペットとの批判も(下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
英下院公聴会で証言する英中銀のベイリー総裁=英スカイニュースより

一方、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のアンドリュー・ベイリー総裁は政財界からインフレ阻止で出遅れたとの批判の矢面に立たされている。5月のインフレ率は前年比9.1%上昇に達したが、まだ、ピークを迎えていない。BOE批判は究極の独立性の欠如が原因だ。事の発端はベイリー総裁が5月の下院公聴会で、「(BOEは)物価高騰を抑えることに対して無力だ」と発言。この発言でインフレ期待が急激に高まったからだ。

英シンクタンクの経済問題研究所(IEA)のニール・レコード理事長(元BOEのエコノミスト)は英紙デイリー・テレグラフ紙の5月29日付コラムで、「なぜBOEは利上げに頑ななのか?答えは金利だ。BOEが(インフレ阻止のための)利上げに消極的なのは、(利上げにより)短期金利と長期金利が上昇すれば、BOEの金融資産買い取り機関(APF)のバランスシートが悪化し、BOE、ひいては政府に苦痛が及ぶためだ」と指摘する。

同理事長は、「長期金利の3%上昇(4月のインフレ率9%上昇を考えると妥当な上昇率)は、APFの国債保有価値(時価)が少なくとも20%低下することを意味する。2012年のBOEと政府の合意で、APFを介してBOEのバランスシートに1700億ポンド(約28億円)の穴が空き、財務省はこれを損失補填する義務が生じる(事実上のBOEへの救済資金の支出)」という。

BOEはコロナ禍の経済を支援するため、量的緩和(QE)措置として、国債を買い取り、つまり、政府に約8700億ポンド(約144兆円)の固定金利の長期ローンを貸しているからだ。

その上で、同理事長は、「APFはBOEを経由しているが、事実上、独立性のない財務省のプードル(ペット)だ」と揶揄し、「BOEと財務省の間に築き上げられたバランスシートの緊密な関係は、BOEの独立性を弱体化させている」と指摘する。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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