英紙ガーディアンのラリー・エリオット経済部デスクは7月16日付のコラムで、「上院経済委員会の報告書では、BOEの国債買い入れは財務省による国債発行ペースと密接に符合しており、BOEが主に政府の優先順位の高い歳出の資金調達にQEを使用しているという認識が高まり続ければ、インフレ抑制や金融市場の安定を維持するBOEの能力を破壊し、信頼を失う可能性がある」と苦言を呈している。

また、同報告書は、「BOEが量的緩和政策に依存しすぎて、資産価格を押し上げることで貧富の差を拡大している」とし、新たな問題を提起している。英紙デイリー・テレグラフのコラムニスト、リーアム・ハリガン氏は、「上院経済委員会はQEが金融資産や不動産の価格に影響を及ぼし、不平等の悪化(貧富の格差拡大)がQEのメリットを凌駕することを懸念している。また、ますますぜい弱となっている金融市場はQEへの依存が強まっているため、BOEは金融市場の混乱を引き起こさずに出口戦略を実行できないと懸念している」とした上で、「最大の懸念はBOEの『政治化』だろう」と指摘する。

英国は深刻な労働者不足による賃金上昇(4-6月期週平均賃金は前年比7.8%増)や原油高、サプライチェーンのボトルネック(制約による品不足)によるインフレの急加速(8月は前年比3.2%上昇)で、景気刺激を緩めるべきとの論調がある一方で、デルタ株感染拡大により、7月の経済成長率が前月比0.1%増(6月の1%増の10分の1)と、景気回復がいったん停止し、消費低迷(8月小売売上高は前月比0.9%減)と、スタグフレーション(景気後退にもかかわらず、インフレ率が上昇する状態)の様相が強まっている。英紙ガーディアンのラリー・エリオット経済部デスクは8月23日付コラムで、「英国で今起きている1970年代半ばのスタグフレーションのミニ版は今後ますます悪化していく」と警戒している。

こうした状況について、ハリガン氏(上出)は8月29日のコラムで、「今の英国の経済状況は50年前の1970年代半ばに酷似しており、今後、英国の生活水準が悪化する可能性が高い」とし、「不満の冬」の再来を警告している。同氏は、「当時、英国は揺りかごから墓場までという手厚い社会保障が仇となって景気が悪化し、いわゆる英国病に陥った。IMF(国際通貨基金)の金融支援による経済再建が失敗した3年後、「不満の冬」(1978年から1979年のイギリスの冬に公務員による賃上げストが多発し、公共サービスが止まり、社会の不満が広がったためこう呼ばれ、インフレ抑制のため、賃上げに否定的だった当時のキャラハン首相が率いる労働党と労組が対立した)を迎えた。その後、サッチャー首相(1979年5月4日-1990年11月28日)が政権の座に就くと、英国経済の抜本的な改革が始まり、高インフレ、ストライキの激化、行政の混乱が政治の混乱を引き起こした。必要なことだったとはいえ、多くの人々にとって間違いなく苦痛だった」という。

こうした中、ジョンソン首相は9月7日、2019年総選挙の「増税なし」の公約を破り、来年4月から国民保険料の引き上げや配当課税の導入により、総額360億ポンド(約5.4兆円)の税収増を狙った、いわゆる「コロナ増税」計画を発表した。これを受け、与党・保守党内からも景気回復の足を引っ張るとし、景気刺激を維持すべきとの真逆の論調が起こっている。

リチャード・ドラックス下院議員はテレグラフ紙(9月10日付)で、「増税によって富を築き上げる人々を攻撃することは税収減につながる。これでは保守党政権はミニ労働党だ」とし、その上で、「EU(欧州連合)を離脱したとき、世界中の人々や企業が英国に来て投資するよう、シンガポール流の税金の安い経済に向かうビジョンを実現できるチャンスをまだ生かしていない」と苦言を呈する。

他方、英国のシンクタンクであるアダム・スミス・インスティテュートのマット・キルコイン副所長もテレグラフ紙(9月10日付)で、「労働者と投資家に対する税金が引き上げられると、成長がさらに鈍化し、景気の最悪期に必要なこととは真逆になる」という。ハリガン氏(上出)も、「ジョンソン首相の最大の賭けは経済とパンデミックからのより広範な回復が非常に脆弱な時期に、大幅増税を断行することだ。首相は政治戦略の中で最も重要なのは経済であることを知るべきだ」と言い切った。(了)