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ジョンソン英首相、総選挙に踏み切れば保守党単独過半数の可能性(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
ノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)でも10月末にEU離脱の達成を目指すボリス・ジョンソン首相(右)=英BBCテレビより
ノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)でも10月末にEU離脱の達成を目指すボリス・ジョンソン首相(右)=英BBCテレビより

テリーザ・メイ前首相の後継者を決める事実上の“首相選挙”となった7月の保守党党首選挙で、ノーディール・ブレグジット(合意なきEU離脱)を公約に掲げ、約16万人の党員投票(7月22日実施)で圧勝したボリス・ジョンソン首相は、10月31日のEU(欧州連合)離脱日まであと2カ月に迫る中、短命政権で終わるかどうか占う意味で最初の試練となった下院補欠選挙に満を持して臨んだ。

しかし、結果は保守党の敗北に終わり、保守党と北アイルランドの民主ユニオニスト党(DUP)の連立政権の下院での過半数越えは2議席からわずか1議席となり、ジョンソン政権の議会運営は綱渡り状態となった。10月末のEU離脱計画に狂いが生じかねず、早期の解散総選挙の可能性が一段と高まっている。

こうした苦境から脱出するため、ジョンソン首相は8月28日、EU残留支持派が多い下院の動きを封じ込める作戦に打って出た。首相はテリーザ・メイ前首相のEU離脱協定案に代わる新協定案の作成と離脱後の法整備の準備に着手するためだと主張して、エリザベス女王に10月14日まで議会を閉会すると宣言させたのだ。これによって、EU離脱に関する下院での実質審議は離脱日直前の10月21-22日の2日間に限定されることになったが、EU残留支持派は一斉に「憲法違反の暴挙」と強く反発し、政局は混迷の度合いを増し始めた。

しかし、最新の世論調査結果によると、こうした強気姿勢を崩さないジョンソン首相が総選挙に打って出れば、首相のノーディールでもEU離脱という“一か八か戦略”が有利に働くとの論調が出始めた。

補欠選挙は8月1日にウェールズのブレコン・ラドナーシャー選挙区で行われたもの。現職の保守党のクリス・デービス議員が議員経費の虚偽報告で有罪判決を言い渡されたことから1万8000人もの地元有権者が選挙のやり直しを求めた出直し選挙だった。結局、選挙前から当選確実とみられていた自民党のジェーン・ドッズ氏が43.5%の得票率で勝利。デービス氏は苦戦が予想されていたとはいえ、39%の得票率で次点に終わった。

英紙デイリー・テレグラフの複数の政治部記者は投票日の8月1日付で、「下院での与党の過半数超過議席が2議席からわずか1議席になれば、(ノーディール阻止を狙った)たった1人の造反議員によって、政府提出の(ノーディール・ブレグジット対策関連)法案がことごとく否決され、また、ジョンソン首相への不信任動議が可決される恐れが出てきた」と指摘。同紙のチャールズ・ハイマス内務省担当デスクも、「早期の総選挙の可能性を高める」とみる。

英調査会社コムレスが最近実施した世論調査(7月26-28日、2004人の成人対象に実施)によると、ジョンソン首相が政権安定のため、解散総選挙に出た場合、条件付きで保守党が下院で単独過半数を勝ち取る可能性があることを示した。

条件とは、ジョンソン首相が10月末にノーディールによるEU離脱後に総選挙を実施((シナリオ1))すれば、保守党の得票率が36%、労働党29%、自民党15%、ブレグジット党8%と、保守党が労働党を7ポイント押さえ単独過半数を占めるというもの。ただ、それ以外のシナリオでは保守党のリードは僅差となり単独過半数は難しい。「10月末のEU離脱前に総選挙」(シナリオ2)では保守党28%、労働党27%。「EU離脱日延長後の総選挙」(シナリオ3)では保守党22%、労働党28%。「メイ首相の離脱協定案でEU離脱後の総選挙(シナリオ4)では保守党26%、労働党29%となる。

英投票リサーチ大手ブリテン・イレクツのベン・ウォーカー代表は、この世論調査の結果について、「ノーディールで10月末にEU(欧州連合)から離脱すれば、いかにEU離脱支持の有権者が総選挙で保守党1党への忠誠心を強め一つに団結するかを示すもので、保守党の単独過半数を約束する」と分析した。また、ハイマス内務省担当デスクも「この調査結果は、ボリス・ジョンソン首相がノーディール対策費を前政権の2倍の21億ポンド(約2700億円)に拡大し、ノーディール・ブレグジットの準備を加速させた上で、EUに譲歩を迫り、10月末にEU離脱するという、一か八か(do―or―die)戦略に有利に働く」と指摘する。(「下」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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