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ブレグジット:英世論調査でジョンソン首相待望論高まる(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
事実上の首相指名選挙となる保守党の党首選挙でテレビ討論に臨んだジョンソン前外相(左)と対立候補のハント外相=7月9日のBBC放送より
事実上の首相指名選挙となる保守党の党首選挙でテレビ討論に臨んだジョンソン前外相(左)と対立候補のハント外相=7月9日のBBC放送より

英国のテリーザ・メイ首相が昨年11月にEU(欧州連合)と最終合意した英EU離脱協定案の議会承認が今年に入って3度も拒否されたことから、メイ首相は与党・保守党内での求心力を失い、ついに5月24日、政治責任を取り、6月7日付で党首を辞任すると発表した。これに伴い、事実上の次期首相を選ぶ保守党の党首選挙が6月13日から10人の候補者が乱立する中でスタートし、通算5回目の予備投票(6月20日)の結果、ようやく大本命とされるEU強硬離脱派のボリス・ジョンソン前外相と、自ら「負け犬」と公言しながらも一発逆転を狙うEU残留支持派のジェレミー・ハント外相の一騎打ちとなることが決まった。

保守党議員313人が参加した5回目の予備投票では、ジョンソン氏が160票と、断トツでトップとなり、次いでハント外相が77票で次点となった。もう一人の有力候補のマイケル・ゴーブ環境相は75票と、惜敗し党首選から外された。今後は上位2人のうち、全国の保守党16万人の党員投票で過半数の支持を獲得した者が勝者となる。新党首は7月22日に発表され、翌23日にはメイ首相に代わる新首相が誕生するが、最近の世論調査ではジョンソン首相の下でのEUからのノーディール(合意なし)離脱待望論が高まっている。

英国の政治情報サイト「ポリティコ(Politico)ヨーロッパ」は6月20日付の記事で、党首選の見通しについて、「さまざまな世論調査でジョンソン氏が次期党首、また、首相として最も望ましいとなっている」と指摘し、ジョンソン氏の勝利に太鼓判を押す。英紙デイリー・テレグラフも同18日付で英市場調査会社ユーガブの世論調査(6月11-14日実施)を引用し、「保守党の党員はジョンソン氏が最も望ましいリーダーとしている。次期党首は喜んでノーディール(合意なし)でもEUから離脱することは間違いない」と報じた。この世論調査では離脱支持の党員の83%が、また、残留支持の党員でさえ68%がノーディールを支持した。これは16万人の党員が上位2人の決選投票でジョンソン氏に軍配を上げる根拠となる。

ポリティコはジョンソン氏とハント氏のブレグジット(英EU離脱)の立場の相違について、「ジョンソン氏はEUと協議しディール(合意)を目指すが、ノーディールでも10月末に離脱するとしている。一方、ハント氏はEUと何らかのディールに近づけば、10月末の離脱日を延長するというのが立場だ。両者ともメイ首相の離脱協定案についてEUと再協議すると公約しているが、焦点となる北アイルランド国境のハードボーダーを回避するための、いわゆる、バックストップ条項の破棄については、EU首脳は完全否定している」と指摘する。これは英国がEUと再協議しても再びバックストップ条項がネックとなりディールが難しいことを意味する。そうなれば、ジョンソン氏はノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)を選択し、他方、ハント氏は離脱日をなし崩し的に延期し、最後はEUが渇望しているノーブレグジット(離脱取り消し)になりかねない。(続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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