英国のメイ首相はEU離脱協定案を貫き通せるか?(上)

 

1月29日の下院議会でEUとの再協議を宣言したメイ首相=BBCテレビより
1月29日の下院議会でEUとの再協議を宣言したメイ首相=BBCテレビより

英国のEU(欧州連合)離脱協議(第1段階協議)は、EUへの離脱清算金390億ポンド(約5.6兆円)の支払いやEU市民の在留権の継続、北アイルランド国境のハードボーダー回避で双方が合意した離脱協定案と「EUとの将来の関係(自由貿易協定)」の大枠を示す政治宣言案が昨年11月25日のEUサミットで承認されたものの、英議会が1月14日、テリーザ・メイ首相が提出した離脱協定案を否決したため、暗礁に乗り上げたままだ。

 メイ首相は同14日の否決を受け、直ちに最大野党の労働党を除く野党各党の党首らと会談。政府の離脱協定案に対する要望や代替案を聞いた上で、同21日に代案(プランB)を議会に再提出した。しかし、プランBはEU離脱後も北アイルランドにEUルールを合致させることでハードボーダーを避けるという解決方法、いわゆる、バックストップ条項を修正するというだけで基本は原案(プランA)のままだったことから、プランBを審議する同29日の議会には与野党の議員から7本の修正動議が提出され、うち2本で政府が敗北している。

 1月29日の議会で審議・採決された7本の修正動議をみると、メイ首相の離脱協定案(プランB)に対する議会の考え方が分かりやすい。7本の修正動議は次の通りだ。

(1)最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首はノーディール・ブレグジットを回避するため、EUの関税同盟に残ることや2度目の国民投票の実施を求めたが、僅差で否決

(2)スコットランド国民党(SNP)のイアン・ブラックフォード議員はリスボン条約第50条の延長(3月29日のEU離脱日延長)とノーディール回避、スコットランドをEU離脱の例外とすることを求めたが、大差で否決

(3)議会の「意味ある投票」の修正動議の可決で名を馳せた与党・保守党のドミニク・グリーブ議員は議会で2-3月に6日間、メイ首相の離脱協定案の代替案を審議・採決し最も支持を集めた案を離脱案とする、いわゆる、「Indicative Votes」(政府案に対する法的拘束力のない修正提案に対する投票)を求めたが、僅差で否決

(4)労働党のイベット・クーパー議員は2月26日までにEUと最終合意しなければ50条を延長し協議を続けるとしたが、僅差で否決

(5)労働党のレイチェル・リーブス議員も2月26日までにEUと最終合意した離脱協定案と政治宣言案が議会で可決されなかった場合、50条を2年間延長しノーディールを避けるとしたが、僅差で否決

(6)保守党のキャロライン・スペルマン議員と労働党のジャック・ドロミー議員は政府がノーディールで将来の関係の枠組みもなしの離脱合意を禁じる修正動議を提出し、318票対310票の僅差で可決

(7)また、保守党の重鎮グラハム・ブレディ議員の修正動議(今のバックストップ条項では議会は承認しないので、ハードボーダーを回避し、EUとの最終合意を可能にする代替案を採用すること)も317票対301票の僅差で可決した。

 結局、修正動議の採決では「ノーディール・ブレグジットの禁止」と「バックストップ条項の修正」の2つが可決されたが、これに対する英メディアの論調はさまざまだ。前者の修正動議については、ガーディアン紙(1月29日付)は、「メイ首相はスペルマン議員らの修正動議の可決で、ノーディール・ブレグジットの選択肢が封じられたように見えるが、修正動議には法的拘束力がないのでメイ首相には何の影響も及ばない」と指摘する。しかし、その一方で、テレグラフ紙(同日付)は、「ノーディール禁止動議に法的拘束力はないが、政府は多くの議員の意見を尊重しブレグジット戦略を柔軟にさせる圧力がかかる」とみる。

 また、後者のバックストップ条項の修正については、テレグラフ紙(1月30日付)は、「オリバー・ロビンズ氏(EU離脱担当省の事務次官)はメイ首相にバックストップ条項の修正をEUに要求しても法的拘束力のある修正に応じるとは思えないと警告した。かえってノーディールの可能性が高まるとみている」とし、メイ首相の側近で事実上のEU交渉責任者であるロビンズ氏の話を引用している。(「下」に続く)