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英国メアリー・ローズ博物館―ヘンリー8世が率いた英国艦隊の旗艦、約500年の眠りから目を覚ます

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
メアリー・ローズをすっぽり覆い尽くすドーム状の博物館=Kallaway提供
メアリー・ローズの船倉(3階建て)=筆者撮影
メアリー・ローズの船倉(3階建て)=筆者撮影

今から468年前の1545年に、英仏両国の艦隊が英国南西部ポーツマス沖で激突した「ソレントの海戦」で、英国テューダー朝のイングランド王、ヘンリー8世(1491-1547年)が率いたイギリス艦隊の旗艦「メアリー・ローズ」が炎上し沈没したが、今年5月31日から英国有数の軍港として知られるポーツマスにメアリー・ローズの“”遺跡“を丸ごと展示した巨大な博物館が一般公開された。

筆者は一般公開に先立って、5月30日に開かれたメディア向けのお披露目に参加して、沈没から500年近い長い年月からようやく目を覚ましたメアリー・ローズの壮大な姿を目の当たりにした。

メアリー・ローズは遠洋航海を前提に開発され、高波でも船体を安定に保つための巨体と広い船倉を持つキャラック船と呼ばれる種類に入り、全長はなんと32メートルで、艦載砲の数は実に91門に達した。1545年の7月19日にポーツマス沖に沈没したあと、1971年にダイバーによって発見され、その後1982年に437年ぶりに陸上に引き揚げられ修復作業が続いていた。

メアリー・ローズの模型=筆者撮影
メアリー・ローズの模型=筆者撮影

引き揚げたあと、船体が木造のため、長い間、海水に浸かっていたため、最初の4年間は特に何もせずにひたすら水分を飛ばし乾燥させるという作業を行ったという。

ロンドンからメアリー・ローズ博物館に行くには、ビクトリア駅から歩いて数分のバスセンターからポーツマス行きのコーチ(大型バス)が出ているので、これに乗って約2時間で到着する。バス代は大人一人往復で12ポンド(約1840円)と安い。午前10時にロンドンを出発して12時くらいには到着、帰りは夜8時のバスで戻ればビクトリアには10時には着くので日帰りも簡単だ。

目印となるのはポーツマス・ハーバー駅で、そこから北へ数分歩いたところに海軍の艦船が停泊しているポーツマス・ヒストリック・ドックヤードに入り、また、まっすぐ北に向かって数分歩くと、楕円形をした黒い巨大なドームが目に入ってくる。それがメアリー・ローズ博物館だ。メアリー・ローズをすっぽり覆い隠すような形をしたドーム状の建物という感じだ。

ヘンリー8世の等身大と筆者=筆者撮影
ヘンリー8世の等身大と筆者=筆者撮影

正面入り口を入ると、向かって右側が入場口、左側は土産品の販売やカフェがある。入場口付近には正装したヘンリー8世の等身大の人形が待ち構えており、一緒に記念撮影するにはもってこいだ。そこから館内に入ると中はかなり暗いが、ドームの中心部にメアリー・ローズの朽ちた木造の船倉内部が3層に分かれて見ることができる。船倉内部はほとんど壊れて骨組みだけとなっているものの、その材木の大きさには圧倒される。

館内の様子=Kallaway提供
館内の様子=Kallaway提供

また、館内の通路には船内で実際に使われていた調度品や大砲、武器、衣装、金や銀の食器類などが展示され、たくさんのモニターでは当時の乗組員の船内での生活が再現ドラマ化されているので分かりやすい。調度品といえば、取っ手が付いた日本によく見られる木桶もあって、変な親近感を覚える。

博物館では、メアリー・ローズの引き揚げから34年間も一筋に修復にかかわってきたという海洋考古学者のクリストファー・ドッブス氏から直接話を聞くことができた。日本人にとっては英国史の専門家以外はヘンリー8世といわれてもあまり関心が涌かないと思うが、なにしろ3500万ポンド(約54億円)もの巨額の費用をかけて博物館を建設したというだけに、この博物館が英国人にとってどんな意味があるのかを聞いてみた。

海洋考古学者のクリストファー・ドッブス氏=筆者撮影
海洋考古学者のクリストファー・ドッブス氏=筆者撮影

同氏は、「英国戦列艦「HMSヴィクトリー号」や英国博物館などといった他の多くの博物館と違い、メアリー・ローズ博物館は政府の予算を一銭も使わずに、すべて民間のお金を集めて作った博物館という意味は大きい」という。同氏によると、船だけで800万ポンド(約12億円)、博物館自体は2700万ポンド(約41億円)だが、それ以外の費用も含めると合計で4000万ポンド(約61億円)に達しているという。同氏は、「これらのお金は大半がくじを購入した資金(ヘリテージ・ロッタリー・ファンド)だが、それ以外は企業や個人有志の献金でまかなっている。多くの人たちの心が込められた博物館という意味でかけがいのない価値がある」という。

ヘンリー8世は最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンとの離婚が当時のローマ・カトリック教会から許されなかったため、カトリック教会を離脱し、現在の英国国教会を自ら起こして、その後5人もの妃と結婚したほどの精力家で、英国人にはなじみの深い国王だったこともあり、メアリー・ローズに親近感を覚えるようだ。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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