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ユーロ圏危機、キプロスの次はスロベニアか?

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

地中海の小国キプロスの債務・金融危機は、最終的には、いわゆるトロイカ(EU(欧州連合)とECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)の3国際機関)による100億ユーロ(約1.3兆円)の緊急金融支援とキプロスの自助努力分130億ユーロ(約1.7兆円)の計230億ユーロ(約3兆円)の救済資金を準備することで当面のデフォルト(債務不履行)は回避される見通しとなった。しかし、次のユーロ圏債務・金融危機は中東欧の小国スロベニアという憶測が市場に飛び交い始めた。

スロベニアのブラトゥシュク 首相(左)とファンロンパウEU大統領=EU理事会提供
スロベニアのブラトゥシュク 首相(左)とファンロンパウEU大統領=EU理事会提供

ECBが、トロイカによるキプロス救済策がまとまらない場合には、キプロスへの緊急資金の供給を停止すると発表してキプロス危機が最高潮に達した3月下旬、スロベニアの短期国債(2年債)の利回りが1.2%から4.26%へ一気に3.5倍に急伸。長期国債(10年債)も経済通貨同盟(EMU)発足以来の最高水準となる6.25%を記録し、ギリシャ債務危機の引き金となった7%台という異例な高水準に急接近した。しかも、スロベニアもキプロスと同様、銀行資産は対GDP(国内総生産)比130%と高く、銀行破たんの懸念が強い。スロベニアの銀行は景気悪化と建設業界の破たんで不良債権が増大し、国内大手3行の不良債権比率は昨年時点で20.5%に達した。特に、企業向け融資の不良債権が3分の1を占めるほど、経営内容が悪化している。

デンマーク金融大手ダンスケ銀行のエコノミスト、ラース・クリステンセン氏は、英紙デイリー・テレグラフの3月28日付電子版で、「スロベニアは2007年にユーロ圏入りして以降、国際競争力を失い、ゆっくりと経済崩壊に向かっている。銀行は自己資本増強が必要となっているものの、今の経済環境下では資金調達も容易ではない」と危機感を募らせる。IMFの最新調査で同国の今年の経済成長率は前年の2.3%増からマイナス2%になると予想。スロベニアは財政難から緊縮財政に走り、その結果、企業のバランスシートが悪化するという悪循環に陥り、リセッション(景気失速)が長引く恐れがある、と警告している。

スロベニアの銀行セクターの脆弱性を端的に示す事例がある。米信用格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスが4月5日に国営電話会社テレコム・スロベニアの無担保優先債務の格付けをジャンク級の「Baa3」に格下げした。その理由は、同社は1億ユーロ(約130億円)の現・預金の大半を国内大手行に預け、その見返りに7000万ユーロ(約90億円)の準備資金を確保しているが、スロベニアの大手行は相次ぐ企業倒産で不良債権が増大しているため、同社が流動性資金を潤沢に借り入れることが難しくなったためとしている。また、今年2~3月に、ムーディーズはスロベニアのアバンカ・ビパ(ABKN)とノバ・リュブリャンスカ・バンカ(NLB)、ノバ・クレディトナ・バンカ・マリボル(KBMR)の3大銀行の預金格付けを引き下げている。

ムーディーズのアナリスト、イワン・パラシオス氏は4月5日付の自社サイトで、「これら大手行の格下げは自己資本比率が最低基準を常に上回るようにするため、今後、外部からの資金調達が必要になる可能性が高いことを意味している」と指摘し、いかに同国の銀行セクターの先行きが不透明かを強調している。同じムーディーズのシニアアナリスト、シモーネ・ザンパ氏は4月17日、米経済通信社ブルームバーグのインタビューで、「スロベニアとルーマニア、ハンガリーの中東欧3カ国の銀行セクターはユーロ圏金融危機が終わるまで、当分の間、赤字経営が続く」との予想を示している。

また、4月5日には米英大手信用格付け会社フィッチ・レーティングスもスロベニアの銀行の格付けを引き下げた。さらに4月9日には、OECD(経済協力開発機構)がスロベニアの経済情勢報告書を公表。その中で、「スロベニアは深刻な銀行危機に直面している」とし、「景気悪化が長期化し、金融市場での資金調達が困難になるリスクがある。それを回避するために直ちに銀行システムの改革と財政の持続安定を強化し潜在成長率を高めるような構造改革など15項目の追加対策を断行すべきだ」と警告している。特に、再建可能な国営銀行の民営化を急ぎ、再建不可能な銀行は破たんさせ、銀行の自己資本を増強、さらには、銀行の債権者にもベイルイン(株主に加えて債権者にも損失負担を求め、債権の元本を削減すること)を求める必要があると提言している。

英金融コンサルティング会社スピロ・ソブリン・ストラテジーを率いるニコラス・スピロ氏は、デイリー・テレグラフ紙の4月9日付電子版で、「スロベニアが国債を買ってくれる投資家が見つかるうちは救済を求めなくてもいいが、綱渡りの状態が続いており、経済の先行きは暗い。従って、スロベニアがユーロ圏で救済を受ける5番目の国になる確率は高い。その結果、ウクライナやハンガリーなど東欧の各国まで危機に追いやる可能性も高まる」と指摘している。スロベニアは過去4年間で2回目のリセションにあり、2014年まで経済成長が回復しないと見られている。特に、米証券大手バンクオブアメリカ・メリルリンチによると、スロベニアの銀行救済には60億~80億ユーロ(約7800億~1兆円)の資金が必要になるとの試算もある。これはスロベニア政府が年初に試算した10億ユーロ(約1300億円)を大幅に上回る。

ただ、OECDのイブ・ルテルム事務次長は、当面、スロベニアは自力で問題を解決することができるとし、直ちに救済を求める必要はないとしている。同国のアレンカ・ブラトゥシェク首相も4月9日のジョゼ・マヌエル・バローゾEC(欧州委員会)委員長との会談後、記者団に対しては、銀行の不良債権の一部が6月からスタートする不良資産を管理・処理するバッドバンク(不良債権買い取り機関)に移転できるのでEUに対し救済を要請する考えは否定する。

バローゾ委員長も4月9日、ブリュッセルでブラトゥシェク首相との会談後、記者団に対し、「スロベニアとキプロスの銀行セクターを比較するのは不適切だ。スロベニアの銀行資産規模はキプロスの対GDP比7倍に比べてはるかに小さい」という。しかし、テレグラフのアンブローズ・エバンス・プリチャード記者は3月28日付で、「キプロスの銀行資産が7倍といっても、その大半は外国銀行が占めているので読み違えられやすい」のも事実で、その意味で国営銀行が主力のスロベニアの銀行セクターの対GDP比1.3倍という数値は決して小さくはないといえる。

ただ、スロベニアは4月17日の国債入札で13億ドル(約1300億円)超の資金調達に成功したことから当面、救済要請の切迫感は薄れたように見える。しかし、南アフリカのスタンダード銀行のロンドン駐在エコノミスト、ティモシー・アッシュ氏は、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの4月17日付電子版で、「国債入札の成功で救済要請の切迫度は緩んだが、今後、海外で国債を発行しようとするときには、外国の投資家はスロベニアの銀行は国営中心から民間商業銀行中心の業態への転換を求める」とし、銀行改革と経済回復という難題が消えたわけではないと指摘する。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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