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ロシア中銀、ハト派寄りに舵を切る―政策金利を据え置きでも

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

ロシア中銀は15日の理事会で、主要政策金利であるリファイナンス金利を現行の8.25%のまま据え置いた。市場の予想通りだった。また、資金吸収のための預金金利(翌日物、1週間物、1カ月物)も現行の4.50%、資金供給のための翌日物通貨(ルーブル)スワップ金利も6.50%のままに、それ以外の資金供給のための各種の公開市場操作(オペ)金利も据え置いた。

同中銀は会合後に発表した声明文で、据え置きは、「インフレと景気の両方のリスクを検討した結果だ」としているが、前回2月の会合と比べると景気に対する懸念が一段と強まり、バイアス(金融政策に対する姿勢)はインフレに対しハト派(景気リスク重視の金融緩和派)寄りとなった。

インフレリスクについては、同中銀は声明文で、「2月のインフレ率は(前月比引き続き)前年比7.3%上昇と、物価目標(5-6%上昇)の上限を大幅に上回った。これは食料品などの物価上昇によるものだが、今年上期(1-6月)のインフレ率は物価目標を上回るとの中銀予想と一致した動きとなっている。長期にわたって物価目標を上回ればインフレ期待に影響を及ぼしインフレリスクとなる」と、前回2月会合と同様にインフレ懸念を示している。前回2月会合時との違いは「上期のインフレ率は物価目標を上回るとの中銀予想と一致した動き」の文言が追加されている点だ。

他方、景気リスクについては、前回2月の会合時では、「GDP(国内総生産)は潜在成長率に近い水準を維持しており、依然として銀行貸し出しの伸びが比較的高水準となっていることを考慮すると、(過去に実施された)金融引き締めの影響で景気が今後著しく後退するリスクは小さい」とし、景気の先行きについて楽観的に見ていたが、今回は、「潜在成長率に近い水準」や「景気が今後著しく後退するリスクは小さい」という文言が削除され、インフレに対しハト派寄りとなっている。

また、中銀は声明文で、「現在の政策金利はインフレと経済成長の両リスクのバランスを維持する上で適切な水準だ」とし、その上で、「インフレリスクと景気後退リスクを引き続き注視し、金融政策決定はインフレ目標と経済成長見通しの両面で判断して行われる」としている。

ロシアのプライム通信(電子版)によると、この点に関し、6月に任期満了に伴い退任する同中銀のセルゲイ・イグナチェフ総裁は2月に、インフレ率は今後数カ月以内に低下すると見られ利下げに転じる可能性があると指摘しているが、アナリストはインフレ率が6月までに相当程度低下する可能性はないとし、早期の利下げには否定的に見ている。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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