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米10-12月期GDP、かろうじてプラス成長を維持-今後は強制歳出削減で成長鈍化へ

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
オバマ大統領=ホワイトハウスのウェブサイトより
オバマ大統領=ホワイトハウスのウェブサイトより

米商務省が1日に発表した昨年10‐12月期実質GDP伸び率(季節調整済み、前期比年率換算)は+0.1%と、速報値の-0.1%から0.2%ポイントの上方改定となったものの、依然として前期(7‐9月期)の+3.1%を大幅に下回っており、2009年4-6月期の-0.3%以来3年半ぶりの低い伸びには変わりはない。

しかもオバマ大統領は1日、ブッシュ前大統領が2001年と2003年に実施した1兆3500億ドル(約125.5兆円)もの大規模減税を打ち切り、強制的な歳出削減に踏み切る大統領令に署名したため、今後、歳出削減に代わる財政対策で議会と合意できない限り、今年の経済成長は伸びが鈍化する恐れが出てきた。

強制的な歳出削減は、2013年会計年度(2012年10月‐2013年9月)の場合、年度末までの残りの7カ月間に8500億ドル(約78.2兆円)、その後も2021年度までの9年間にわたって計1兆ドル(約92兆円)を強制的に削減しなければならない。

そうなると、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)の試算では、軍関係で約9万人の削減を含め、数十万人もの政府雇用が失われる。IMF(国際通貨基金)では今年の米国のGDP伸び率は0.5%ポイント押し下げられると試算しているほど悪影響が及ぶ見通しだ。

いわゆる“財政の崖”問題は1月の減税期限切れを2カ月間だけ一時棚上げすることで当面の危機は回避されたが、オバマ大統領と議会の野党・共和党との話し合いが不調に終わったため、オバマ大統領は強制的な歳出削減に踏み切らざるを得なくなったわけだ、しかし、第2弾の財政の崖問題は3月27日にやってくる。この日を過ぎても必要な予算措置が講じられなければ、政府機関の一部ではオフィスを閉鎖し、公共サービスの提供を停止せざるを得なくなり、深刻な社会的混乱を引き起こす恐れがある。

GDP上方改定、民間投資と輸出の改善が寄与

ところで、今回、昨年10-12月期GDP伸び率が上方改定されたのは、民間投資、特に住宅投資の伸びが速報値の+15.3%から+17.5%へと、伸びが上方改定されたこと、また、GDP押し上げ要因である輸出の減少幅が速報値の-5.7%から-3.9%に縮小したのが主な要因だ。

また、GDPの7割を占める個人消費も速報値の+2.2%から+2.1%へやや下方改定されたが、依然、昨年1-3月期の+2.4%以来の3四半期ぶりの高い伸びを維持している。企業の設備投資も+9.7%(速報値の+8.4%から上方改定)と、前期の-1.8%を上回り、2011年7-9月期の+19%以来の1年3カ月ぶりの高い伸びが続いている。

特に、実質最終売上高(GDP-外需・民間在庫投資)が速報値の+1.1%から+1.7%に上方改定されたのは明るい材料だ。可処分所得の伸びも速報値の+6.8%から+6.2%に下方改定されたとはいえ、前期の+0.7%を大幅に上回り、2010年4-6月期の+6.3%以来2年半ぶりの高い伸びとなっている。

このように経済をけん引する個人消費と設備投資が依然堅調なことから、多くのエコノミストは政府消費支出や輸出が低迷しているものの、今年1-3月期のGDP伸び率はおよそ+2%に持ち直すと見ている。

しかし、問題は今年4-6月期以降だ。懸念材料は社会保障税の2%減税が1月で終わったため、数百万人の給与所得の伸びが抑制されることに加え、オバマ大統領による強制的な歳出削減の開始で、ただでさえ減少傾向にある政府消費支出の減少幅が拡大し経済成長率が押し下げられることだ。

政府消費支出の中で大きなウエートを占める昨年10-12月期の軍事費は、速報値の-22.2%から-22%へやや上方改定されたものの、1972年以来40年ぶりの大幅減少となっている。しかも、行政管理予算局の試算によると、強制的な歳出削減で、国防省の今年度予算は年度末の9月末までに13%も削減される。

政府の職員数は270万人にも達するが、強制的歳出削減によって、このうち、国防省の職員80万人の労働日数が週1日削減されるため、その分、給与も下がる。さらには教育分野でも7200人もの教員と補助教員の雇用が失われる見通しで、政府消費支出は大幅減少は避けられず、経済成長の足を引っ張る恐れがあるのだ。

失業率の低下にはまだ時間かかる

また、今回の10-12月期GDP伸び率の改定値は、市場予想の+0.5%も下回り、健全な経済の伸び率とされる+3%超を依然として大きく下回っている。

特に経済成長と雇用との関係を見ると、+3%程度のGDP伸び率でも人口の自然増を吸収して失業率の上昇を食い止めるのが精一杯で、失業率を1%ポイント引き下げるためには+5%の成長率が必要といわれる。言い換えると、まだまだ雇用の改善にはつながらないほどの景気の弱さが続いているといえるわけだ。

労働省が先月発表した1月の失業率は前月の7.8%から7.9%へやや上昇した。失業率は昨年9月に8.1%から7.8%に低下して以降、7.8-7.9%で推移している。今後、景気が相当強まり、新規雇用者数が急増し続けなければ、失業率がこのまま低下し続けるのは難しく、多くのエコノミストは2015年末までに失業率が6.5%を下回ることはないと予想している。

新規雇用者数の増加ペースが大きくないと失業率が上昇する。1月の新規雇用者数は15万7000人増だったが、これは人口の自然増を吸収して失業率の上昇を食い止めるために必要な月平均12万5000人増を上回っているものの、失業率を短期間でかなり低下させるために必要といわれる25万人増を大きく下回っている。また、失業率が2013年末までに、リセッション(景気失速)前の2007年12月の5%の水準に戻るには月平均40万人増が必要といわれるが、それにも程遠い状況だ。

個人消費、+2.1%に下方改定=前期は+1.6%

昨年10-12月期の個人消費は速報値の+2.2%から+2.1%へやや下方改定されたものの、前期の+1.6%を上回っており、1-3月期の+2.4%以来3四半期ぶりの高い伸びとなった。

個人消費を財とサービスに分けると、財支出は+4.3%(速報値+4.6%、前期+3.6%)に下方改定されたが、6四半期連続で増加している。他方、GDPの約半分を占めるサービス支出は+0.9%(速報値+0.9%、前期+0.6%)と変わらずとなった。

また、財支出のうち、自動車などの耐久財支出は+13.8%(速報値+13.9%、前期+8.9%)に下方改定された。一方、非耐久財支出も+0.1%(同+0.4%、同+1.2%)と、下方改定された。

この結果、個人消費のGDP寄与度は1.47%ポイント(速報値+1.52%ポイント)に下方改定されたが、前期の+1.12%ポイントを上回っている。

今回のGDP統計では、個人消費に影響を与える実質可処分所得の伸びは+6.2%に下方改定されたが、前期を大幅に上回り2年半ぶりの高い伸びとなった。しかし、貯蓄率は前期の3.6%から4.6%(速報値4.7%)に上昇している。家計の消費が拡大した結果、債務も膨らんでいるため、今後は消費が抑制され貯蓄率は高まる可能性がある。

企業設備投資、+9.7%に上方改定=前期は-1.8%

企業の設備投資は+9.7%と、速報値の+8.4%から上方改定されGDP改定値の押し上げに寄与した。前期の-1.8%からは伸びが急速に回復しており、GDP寄与度も前期の-0.19%ポイントから+0.96%ポイント(速報値+0.83%ポイント)に拡大した。

設備投資の内訳は、機械装置やソフトウエアに対する投資は10四半期連続の増加となった。前期の-2.6%から+11.3%(速報値+12.4%)に急回復している。他方、工場やオフィスなどの非居住用建物などに対する投資額も+5.8%(速報値-1.1%)と上方改定され、前期の横ばいから拡大に転じ、企業の設備拡大意欲は強まっている。

在庫投資、+120億ドルに下方改定=前期は+603億ドル

一方、GDP押し上げ要因の企業在庫の変動額は、速報値の+200億ドルから+120億ドルへ、下方改定された。前期の+603億ドルを大幅に下回っており、その結果、企業在庫のGDP寄与度も前期の+0.73%ポイントから-1.55%ポイント(速報値-1.27%ポイント)に悪化、GDPを大きく押し下げた。企業在庫投資には第4四半期に生産されても同期中に販売されなかった製品が含まれる。

また、住宅投資は+17.5%(速報値+15.3%)に上方改定され、前期の+13.5%から伸びが加速し、7四半期連続の増加となった。この結果、GDP寄与度も前期の+0.31%ポイントから+0.4%ポイント(速報値+0.36%ポイント)に上昇している。

2012年全体の住宅投資も+12.1%と、前年の-1.4%から増加に転じ、1992年の+13.8%以来20年ぶりの高い伸びとなった。

政府投資、-6.9%に下方改定=軍事費は-22%

他方、公共投資である政府消費支出・固定資本形成(州・地方自治体支出も含む)は-6.9%(速報値-6.6%)に下方改定(悪化方向)された。前期(7-9月期)は9四半期ぶりに+3.9%と増加に転じたが再び減少に転じた。今後は強制的な歳出削減で政府投資は低迷が続く見通しだ。

内訳は、国は軍事費の減少で-14.8%(速報値-15%、前期+9.5%)と、再び減少に転じた。一方、州・地方自治体も-1.3%(同-0.7%、同+0.3%)と、再び減少に転じている。地方政府は景気低迷で税収増が見込めず、また、財政赤字による歳出削減が影響している。

国の内訳は、軍事費が-22%(速報値-22%、前期+12.9%)となった。一方、軍事費以外の支出は+1.8%(同+1.4%、同+3%)と、2四半期連続で増加した。

この結果、政府投資のGDP寄与度は-1.38%ポイント(速報値-1.33%ポイント、前期+0.75%ポイント)となっている。

GDP押し上げ要因の輸出、-3.9%に上方改定

また、外需は、GDPの押し上げ要因である輸出(サービス含む)が速報値の-5.7%から-3.9%に上方改定(改善)されたものの、前期の+1.9%から減少に転じている。その一方で、反対にGDP押し下げ要因である輸入は前期の-0.6%から-4.5%(速報値-3.2%)と、低下幅が拡大した。この結果、純輸出(輸出額-輸入額)は-3879億ドル(速報値-4040億ドル)となり、赤字幅は前期の-3952億ドルから縮小した。

前期と比べた純輸出の赤字幅の縮小はGDP全体を押し上げ要因となるため、純輸出のGDP寄与度は+0.24%ポイント(速報値-0.25%ポイント、前期+0.38%ポイント)となった。

コアPCEインフレ率、前年比+0.9%

また、インフレの度合いを示すPCE(個人消費支出)物価指数は、前期比年率換算+1.5%(速報値+1.2%、前期+1.6%)と、前期に比べ伸びが減速した。一方、値動きが激しいエネルギーや食品を除いたコアPCEも+0.9%(同+0.9%、同+1.1%)と、3年ぶりの低い伸びとなっている。FRBが望ましいとするレンジ+1.5~+2%を下回っていることから、金融緩和策を続けているFRB(米連邦準備制度理事会)にとっては、一段の積極的な景気刺激策をとりやすい状況になっているといえる。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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