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米1月小売売上高、わずか0.1%増をどう読むか?

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
2010年1月から2013年1月までの小売売上高の推移=商務省提供

米商務省が13日発表した1月の小売売上高(季節・営業日調整後)は、主に自動車販売が減少に転じたため、前月比わずか0.1%増の4166億ドル(約38.7兆円)と、前月(昨年12月)の0.5%増の5分の1という低い伸びとなった。

市場予想でも前月比0.1%増だったので、予想通りの結果だった。なぜ、予想通りだったかというと、1月はブッシュ前大統領が2001年と2003年に実施した1兆3500億ドル(約125.5兆円)もの大規模減税が打ち切られ実質増税となるという、いわゆる“財政の崖”の悪影響が及ぶのは必至の情勢と見られていたためだ。

結局、財政の崖問題はオバマ大統領と議会とのぎりぎりの協議の末、1月2日から予定されていた強制的な歳出削減を2カ月延長することで決着し、当面の危機は回避されたものの、単身で年収40万ドル(約3700万円;夫婦世帯で45万ドル=約4200万円)以上の高額所得者にだけ増税が実施され、また、社会保障税の2%減税措置も1月から予定通り打ち切られたため、その悪影響が1月の小売売上高に及んだわけだ。

問題はこの前月比0.1%増をどう読むかだ。つまり、米国のGDP(国内総生産)の70%を占める個人消費の先行き懸念と見るのかどうかだ。

最近の小売り売上高の動きをみると、昨年9月は前月比1.2%増と高い伸びとなったが、10月は同0.2%減と、減少に転じ、その後は一進一退の動きが続いている。11月は同0.5%増に反発し、12月も同0.5%増と持ち直しの兆しを見せ始めたものの、1月はかろうじて増加を維持した格好だ。

1月の全体の売上高が4100億ドル(約)を超えたのは昨年9月以降、これで5カ月連続となり増勢を維持している。また、前年比も4.4%増と、依然前年水準を上回っており、また、過去3カ月(2012年11月‐2013年1月)も前年比4.5%増と、底堅い動きとなっている。

1月のように前月比の伸びが弱くても底堅い動きが続いているのは、所得が減少しても消費者は貯金を崩してでも財やサービスを購入したいという傾向があるためと見られているからだ。

増税で所得減少でも消費は底堅い

この点について、クレジット・ユニオン・ナショナル・アソシエーション(米信用金庫連合会)のシニアエコノミスト、スティーブ・リック氏は13日付米経済情報サイト、マーケット・ウォッチで、「通常、消費者は増税になると貯蓄を使う傾向がある。(そう考えると)1月の小売売上高が微増となったのは、あまり貯蓄が大きくない低・中所得者層への風当たりが強まり、やや買い控えた可能性がある」と述べている。通常は、所得が減少すると消費も落ち込むものだが、貯蓄がある限り、増税で所得が減っても個人消費は持ちこたえる傾向があるということになる。1月の小売売上高も微増にとどまったのも貯蓄の取り崩しが下支えしているわけだ。

米金融大手BMOキャピタル・マーケッツのエコノミスト、サル・グアティエリ氏もマーケット・ウォッチで、「社会保障税減税の打ち切りで給与が2%減少したことを考えると、1月の小売売上高はもっと悪くなってもおかしくなかった。しかし、前月比0.1%増となったことで、今後、個人消費が大きく後退する懸念はなくなった」という。同氏によると、1月の小売売上高の増加ペースは、今年の個人消費が年率2%をやや下回る伸びになることを示しているという。

また、グアティエリ氏は、「米国経済が緩やかながら回復しているので、家計の借金も3-4年前に比べ1兆ドル(約93兆円)も減っているので、再び借金する余裕ができている。特に、自動車購入で借り入れが始まる可能性がある」と指摘している。1月の統計では、自動車の売上高が前月比0.1%減となって小売り全体の売り上げの足を引っ張ったことを考えると、今後、自動車販売が持ち直せば小売り全体も伸びが高まるといえる。ちなみに1月の自動車を除いた小売売上高は同0.2%増と全体の伸びを上回っている。

リック氏も「雇用市場の改善が持続安定的に進んでいること、また、企業の設備投資や輸出が改善を示していることから、社会保障税などの実質増税の悪影響は相殺される」と楽観的な見方だ。

実際、労働省が1日に発表した1月の雇用統計では、新規雇用者数は前月比15万7000人増と、2カ月連続で伸びが鈍化したものの、2010年10月以降、27カ月連続でプラスの伸びを続けている。企業は財政の崖問題や国債発行上限枠の適用を延期するかどうかといった予算をめぐる議会の混乱に加え、増税や世界景気の低迷など国内外の要因で、新規雇用の拡大に思った以上に慎重だったが、全体的には、昨年の雇用拡大ペースをほぼ維持しており、1月の結果は許容の範囲内と見られている。

また、クレジットカードや自動車ローン、教育ローンなどを含めた消費者信用残高は、昨年11月と12月はそれぞれ159億ドル増と146億ドル増となったように、10月の139億ドル増や9月の117億ドル増から着実に増大する傾向にある。これは消費意欲が強くなっていることを示す。

2月以降、“財政の崖”の悪影響が本格化か

しかし、その一方で、今後、2月以降の小売り売上高は、財政の崖の悪影響が本格化し、減少に転じる可能性があるという悲観的な見方もある。米経済分析サイト、ブリーフィング・ドット・コムはその根拠として、「1月中は財政の崖問題の決着で社会保障税の減税が打ち切りとなったことがあまり消費者に浸透していなかった。そのため、1月もこれまで通りの高い消費を維持した」と見ている。

また、「社会保障税の減税打ち切りと富裕層増税の導入で最終的には今年の1世帯当たりの所得は平均で約1000ドル(約9万3000円)の減収となるが、こうした所得の減収も今後じわじわと消費者に押し寄せてくる。このため、2月以降は増税感を強く感じて財布のひもを締め、小売り売上高は減少に転じる」と予想しており、専門家の見方は分かれている。

自動車・同部品除く小売売上高、0.2%増

1月の小売売上高の詳細は、月毎に変動が激しい自動車と同部品を除いた売上高は前月比0.2%増と、前月の同0.3%増から伸びが鈍化した。このことから1月の場合、いかに自動車・同部品が小売り全体にブレーキをかけたかが分かる。

また、自動車・同部品とガソリン、建築資材を除いた、いわゆる、コアの小売売上高は同0.2%増と、昨年12月の同0.6%増を下回った。これは最近のガソリン価格の上昇でガソリン販売が昨年12月の同1.7%減から1月は同0.2%増と、増加に転じたため、堅調の売り上げとなったガソリンを除いたコアの小売り売上高は自然と伸びが鈍化してしまう。ちなみに、コア売上高はGDPの計算に利用され、長期の個人消費の動向を見る上で有効とされているものだ。

1月の小売売上高は、全13業種中、ガソリン(前月比0.2%増)や家電(0.2%増)、一般小売(百貨店・スーパーなど、1.1%増)、住宅資材・園芸用品店(0.3%増)、スポーツ用品・趣味(0.6%増)、インターネット・通信販売(0.9%増)と、6業種で増加したのに対し、食品(横ばい)とレストラン(横ばい)は変わらずとなった一方で、自動車(0.1%減)と家具(0.2%減)、ヘルスケア(1%減)、衣料品(0.3%減)、どのカテゴリーにも入らない、その他小売り(2.6%減)の5業種で減少した。

自動車・同部品販売、0.1%減

小売り全体の増加の足を引っ張ったのは自動車・同部品で、前月比0.1%減と、前月の同1.2%増から3カ月ぶりに減少に転じた。ただ、前年比は8%増と堅調になっている。自動車・同部品のうち、自動車ディーラーも同0.1%減と、前月の同1.4%増から減少に転じている。前年比は9.4%増だった。

他方、米調査会社オートデータが1日発表した1月の米新車販売台数は、低金利の自動車ローンや緩やかな景気回復を背景に、前年比14.2%増の104万3103台と、20カ月連続の増加と好調が続いている。また、この販売ペースで1年間続くと仮定した年率換算では1529万台となっており、2012年の前年比13.4%増の1449万台を上回る。ただ、前月比では23.1%減となっている。

ガソリン販売、0.2%増=価格上昇で

一方、月毎に変動が激しいガソリン販売は前月比0.2%増と、前月の同1.7%減から3カ月ぶりに増加に転じた。これは、ガソリン価格が前月に比べて上昇したためだ。また、前年比は0.8%増(12月も1.8%増)と、依然高水準になっている。

ガソリン価格は、EIA(米エネルギー情報局)によると、1月28日までの週のレギュラーガソリンの全国平均価格は1ガロン当たり3.357ドルで、1カ月前(12月17日終了週)の3.254ドルから3.2%上昇している。また、月平均でも1月は3.319ドルと、12月の3.310ドルから0.3%上昇している。

最新の2月11日終了週のデータは3.611ドルと、さらに上昇している。直近では2012年10月上旬のピーク時(3.850ドル)から2012年12月中旬まではじり安傾向だったが、今年1月初めからじり高傾向に変わっている。

百貨店、前月比1%増

個人消費を見る上で重要な百貨店の1月の売上高は、前月比1.0%増の152億ドル(約1.4兆円)と、前月の横ばいから増加に転じた。ただ、前年比は0.6%減と、前年水準を下回った。

これらの数値はいずれも季節・営業日調整値だが、調整前では12月歳末商戦要因の剥落で1月は前月比54%減の118億ドル(約1.1兆円)に急減したが、前年比は0.7%増と、前年を上回っている。

また、百貨店にスーパーなど量販店を加えた一般小売販売も前月比1.1%増と、12月の同横ばいから増加に転じた。前年比は1%減だった。季節・営業日調整前では前月比36%減、前年比は横ばいとなっている。

インターネット・通信販売も前月比0.9%増と、3カ月連続で増加した。伸び率は前月の同0.9%増と同じとなったが、11月の同3.7%増を下回っている。

一方、ICSC(ショッピングセンター国際評議会)が7日に発表した1月の米小売各社の既存店売上高指数は、前年比4.5%上昇(小売大手ウォルマート・ストアーズは除く)と、12月の2.7%上昇を上回った。ただ、この数字は季節調整前なので、政府の小売り統計の季節調整後のデータとの整合性はない。同指数は主要な百貨店や量販店、ドラッグストア、衣料品店の売上高で構成。

この内訳は、百貨店が前年比11.4%上昇と、前月の4.5%上昇から伸びが加速した。また、高級品店も同11.4%上昇(前月8.6%上昇)、衣料品店も同6.7%上昇(同4.1%上昇)も伸びが加速している。ディスカウントストアは同3.1%上昇(同1.5%上昇)、また、ドラッグストアは同2.9%上昇と、前月の同5.2%低下から上昇に転じた。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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