フランス厚生大臣のOlivier Veran氏が、解熱鎮痛薬のイブプロフェンやコルチゾンが、新型コロナウイルスの症状を悪化させる可能性があるとツイートしたことが話題になっています。

果たして今回のこの情報は本当なのでしょうか?

筆者は医療従事者でも医者でもありませんが、ジャーナリストとして極めて多くのフェイクニュースに接してきました。今回の件については、とても重要な情報でもあるため、関連する情報について追いかけてみることにしました。

背景情報の少なさから、確度の低い情報を背景情報なしに拡散させてしまった、勇み足ではないか?と感じたからです。

【背景が伝わり始めているため文末に追記をしています】

新型コロナウイルスに感染しているか否か、わからない中で、発熱したときに飲んで良いかどうかを確認する必要が出てくるからです。

とりわけ、イブプロフェンは、幅広くさまざまな市販薬に使用されてるため、本当であれば大変にやっかいなことです。

筆者自身、この情報をみたときは驚きました。Yahoo!ニュース個人でも、オーサーの今井佐緒里さんが大臣の発言を引用する形で注意喚起してらっしゃいます。

確かに非ステロイド系消炎鎮痛薬を、重篤な感染症患者に使うことに否定的な意見は多いと感染症専門医の忽那賢志さんも言及していますが、同時に「新型コロナウイルス感染への影響はわからない」と、現時点での有力な情報がないことを強調しています。

つまり、まだ証明されていないよね、ってことななのですが、わたしが気になったのは、今井さんの記事にある以下の一節です。

ツイッターのコメントで、筆者が一番「むむむむむ」と思ったのは、「セカンドオピニオンが必要」というものでした。

フランスの厚生大臣の発表に対するセカンドオピニオン・・・どの国の厚生大臣に聞くのがいいでしょうか。ほとんど国の信頼度の踏み絵になるなと、感じました(国の信頼度=民主主義度なのかもしれません)。

また「先進国にコロナが広がって、やっとまともな議論ができるようになった」というコメントにも、うなずかせるものがありました。

出典:コロナウイルスにかかったら飲んではいけない薬:フランスの厚生大臣が発表

いやいや、それほど単純じゃありません。

なぜなら、イブプロフェンは長年、頭痛薬や解熱鎮痛薬として広く使われてきたこともあり、多様な薬に含まれているからです。本当ならばその影響は計り知れません。「おちおち、そのあたりの風邪薬を飲ますことさえできない」といっても言いすぎじゃないでしょう。

みんなが新型コロナウイルスの情報に過敏になっている現在、下手をすると市販薬の買い占め騒ぎにもつながりかねません。

セカンドオピニオンは必要です。

ということで調べてみると、イブプロフェンが新型コロナウイルスを重症化させるという意見に対して、否定する情報も数多く存在するのです。たとえばウィーン大学の公式アカウントは、次のように注意喚起を行い、数度にわたって「フェイクニュースである」と訴えています。

ハーバード大学も、やはりコロナウイルスを疑われるケースにおいて、解熱鎮痛のためにアセトアミノフェンと並んでイブプロフェンが有効であると掲載(3月16日のアップデートです)されていますし、シアトルで看護師を務める友人に尋ねても、発熱する患者にはアセトアミノフェンかイブプロフェン、いずれかの投与がすすめられていると話していました。

つまり、新型コロナウイルスによって引き起こされている肺炎で、解熱のためにイブプロフェンが処方されることは多く、アセトアミノフェンとともに”一般的な処方例”だと言えるでしょう。これは患者数、全快例の多い中国でも同じでアセトアミノフェンかイブプロフェンが処方されています。

そうした処置によって解熱、鎮痛効果が得られたという情報は、公式、非公式ともに大量に見つかります。

ところが、イブプロフェンが重症化を引き起こすという情報は、フランス厚生大臣の発言(さらにそれを伝えるル・モンドなどの記事)意外には見つかりません。

もちろん、薬にはさまざまな副作用もあり、組み合わせによる禁忌も存在することは皆さんもご存知でしょう。

今回、話題にのぼってるイブプロフェンは、インフルエンザの際に用いるとインフルエンザ脳炎を引き起こすため、解熱にはアセトアミノフェンが用いられます。しかし新型コロナウイルスとの関連性を示す情報はありません。

新型コロナウイルスが全世界的に拡がる中で、情報が錯綜しているが故の行き違いもあるのでしょう。

たとえばこちらの記事では「ドイツ連邦保健省もイブプロフェンが新型肺炎を重症化させるという情報を否定した」とありますが、執筆時点でドイツ連邦保健省が否定した情報はありません(偽情報と思われます)。

いずれにしろ、現時点では「イブプロフェンを含む非ステロイド系鎮痛薬が重い感染症患者の症状を悪化させる事例がある」ということに過ぎません。

また、アセトアミノフェンは副作用が禁忌が極めて少ないことで知られている薬品ですが、薬である以上、用量の上限や副作用が存在する点は同じです(国によって制限されている用量などが異なる場合もあるので、海外の情報を参照する際には注意してください)。

また「よく解らないからイブプロフェンは避けよう」というだけならばまだしも、アセトアミノフェンのみで構成されている市販薬の買い占めなどが起こる可能性も否定できません。

いずれにしろ発熱した場合、解熱の必要性を感じた場合は、自分の判断で市販薬を飲むのではなく、病院で医師の判断を仰ぐという、至極当たり前の対応が望ましいということですね。

この情報は引き続き追いかけたいと思いますが、現時点で積極的にフランス厚生大臣の発言を積極的に肯定する情報はないため、落ち着きましょう、とだけお伝えしておきたいと思います。

【追記】

やっとフランス厚生大臣の発言背景が伝わってきました。

新型肺炎にはイブプロフェンの服用避けて、症状悪化させる恐れ WHO

ただしこの記事のタイトルはミスリード。WHOは積極的に注意喚起をしているわけではなく、医師の判断で処方されているならば、そのまま飲んでもいいが、自己判断ならば(仮説を否定する材料も、肯定する材料もないため)アセトアミノフェンを服用してください」と述べているに過ぎません。

要約すると「イブプロフェンなど抗炎症薬が新型コロナの症状を促進させる可能性を指摘した”仮説”が医学誌に掲載されたためアセトアミノフェン推奨と発言。WHOは未確認・未判断の状況だが自分で判断ならアセトアミノフェン」ということです。

つまり、通常の頭痛で抗炎症薬を避ける必要はないということ。しかし、TwitterのTLを見ているとヒステリックな反応も多いようです。

明らかに話の背景を誤認していたり、市販薬の成分を誤解していたり、あるいはイブプロフェンもアセトアミノフェンもダメという話になったり、処方された薬を飲むのが怖いという人がいたり、アセトアミノフェンで副作用が出る人は、どうすればいいんだ……という悲鳴も。

短文のTwitterは拡散力はありますが、背景情報は失われがち。センシティブな話題は気をつけて、その背景を追いかけることが重要ですね。