重症化率が低くとも安心できないオミクロン株の感染力

世界中で猛威を奮い始めている新型コロナウイルスのオミクロン株。

重症化率が従来のウイルスより低下しているらしいことで、安心している方も少なくないだろう。しかし一方で、その感染力の強さから同時多発的に患者が発生して、病欠者が多く出ることで社会機能に影響が出る可能性が指摘されている。

白鷗大学教授の岡田晴恵さんは「オミクロン株は強い感染力を持つので、たとえ病気が軽症でも、病欠者が増える可能性があります。病欠者が同時期に増えると社会インフラに影響が出ることが心配です」と指摘する。

オミクロン株ウイルスの感染力の強さは十分に認知していると感じる読者も少なくはないだろう。しかしすでにオミクロン株が流行している地域のデータは深刻な状況を示している。

米社会インフラを苦しめ始めたオミクロン株

岡田さんによると、1月中旬には国内でもオミクロン株の感染が拡がり、1月下旬から2月には急増する可能性がある。その際の患者数は、これまでの株よりも急速なペースで増加すると考えた方がいい。感染者数の分母が増えれば、重症化する人も一定の割合で出てくる。

さらにたとえ重症化しなかったとしても、多くの患者が発生すれば医療機関が逼迫する。さらに同時期に多くの人が病欠すれば、社会機能や国民の生活に大きな影響が出てくる可能性がある。

京都大学の西浦博教授らで構成される厚生労働省に助言する専門家組織の会合では、感染者が新しい感染者を生み出す”実効生産数”がデルタ株の2.8〜4.2倍になるとのデータが示された。

海外の事例では感染者数が倍増する期間が2日を切っており、最も多く感染拡大する時期は毎日2倍のペースで患者が急増している。米ジョンズ・ホプキンス大学の統計によると、オミクロン株の流行が顕著な米国では、1日あたりの新型コロナウイルス症例が12月27日に51万例を超えた。

米国では国際便、国内便を問わず、人員不足での航空便欠航が相次いでいるという
米国では国際便、国内便を問わず、人員不足での航空便欠航が相次いでいるという写真:ロイター/アフロ

しかも、まだ流行の初期段階でしかなく、今後はさらに症例が増えていくことが予想される。こうした過去に例のない感染速度の速さが社会に与える影響は大きい。

たとえば日本の物流を支えているトラック運転手の方が1割、コロナを発症して病欠したらどうなるか。スーパーやコンビニから生鮮食料品が減り、生活必需品も品薄になるでしょう。そんなイマジネーションをもって事前に対応することが大切です(岡田さん)」

実際に米国に住む友人にホリデーシーズンの様子を尋ねてみると、国内航空便に欠航が増え始めているほか、ちょっとした公共サービスが予告なく休止するなど日常生活にもジワジワと影響が出始めているという。

理由はコロナ発症による人員不足。感染者数急増が社会インフラを直撃している。米国疾病統制予防センター(CDC)は27日、新型コロナウイルス感染者の待機期間を従来の10日から半分の5日に短縮すると発表した。

専門家の”予測”と表層に顕れている現実のギャップ

さて、テクノロジー系ジャーナリストである筆者が、新型コロナウイルスに関連した記事を書いていることに疑問を持つ方もいるかもしれない。

このコラムを年末に書いている理由は、岡田さんと話をする中で、感染症の専門家から見えている世界と、いわゆる一般的な世論の温度差、認識差を痛感したからだ。

長年、感染症のパンデミック対策を仕事としている岡田さん、あるいは数理モデルで感染拡大を予測する京都大・西浦教授のアプローチなど、専門家は予想しているのではなく”現在得られている事実”から、少し先の状況が見えているのだ。

もちろん、我々は専門家ではない。専門家の元にはより多くの情報が集まり、その情報をどのように分析すべきか承知しているが、なぜ少し先の未来が見えているのかを理解しないまま、結果だけを伝えられると、そこには反発を産んでしまう場合もある。

筆者自身、テクノロジーを専門としているが、一般消費者向けにダイレクトに業界の情報を伝えても誤解が生まれる。そこで可能な限り咀嚼しながら、誤解を生まない範囲で平易な文章にしてきた。

この場で取材という形でコラムを書いているのは、ジャンルは違うものの、「公衆衛生学」という一般的な医療とは異なる視点の学問に関して、同様の役目を果たせないかと考えたからだ

岡田晴恵さんと初めて会ったのは、同氏が新潮社から出版した『秘闘・私の「コロナ戦争」全記録』の内容について取材を申し込んだのがきっかけだ。

しかし岡田さんは開口一番に「本そのものの売れ行きや書かれている内容のことよりも、今起きていること、これから起きようとしていることなどを知ってほしい」と、直近の新型コロナウイルス関連情報について話をしはじめた。

直接、岡田さんからレクチャーを受け、その背景となる考え方などを伺っていると、岡田さんだけではなく、多くの専門家が指摘する理由が見えてきた。話は多岐にわたったが、中でもこの年末年始、今後の行動や自身の備えのために必要となるだろう情報を抜き出したのがこのコラムである。

オミクロン株の流行が、すべての人にとって”自分ごと”となる得る理由

西浦氏を中心としたチームがデルタ株の2.8〜4.2倍の実効生産数と算出したように、オミクロン株は感染力が極めて高い。英国や米国の事例にもみられるように、多くの地域で毎日、倍々ゲームで症例が増えていくのがオミクロン株である。

西浦氏のチームの試算では、年末時点で、オミクロン株の症例が3割の大阪において、1月中旬には9割がオミクロン株に置き換わると予想している。これは岡田さんが予想している1月中旬からオミクロン株の患者が急増するという予測とも一致している。

つまり1月中旬から、流行地域では同じ時期に多数の患者が出ることになる。

現在の日本は第5波のデルタ株流行が急速に収束し、平穏な年末を迎えて安心している状況だ。しかし、安心している現在だからこそ、オミクロン株の急峻な流行が懸念される。”オミクロン株は重症化しにくい”という情報も、流行を加速させる要因となるかもしれない。

労働人口のうち一定割合が働けない状況に陥ったとき、社会機能がどうなるかという想像力を働かせることは重要だ。

たとえば、今働いている職場で、全ての職種の担当者が同時期に1割出勤できなくなるとどうなるだろうか。2割に達するとどうなるのか。生産の現場、物流、さまざまな場所で単に生産が下がるだけではなく、重要な権限を持つ社員が全員出勤できず、組織が機能不全になってしまう場合も考えられるだろう。

効率化が進んだ現代の社会システムには、余剰の在庫や労働力などが削減されている。社会機能は細分化されており、一部が機能を失うとドミノ倒しのように社会的な影響が広がっていく。そしてそれは、ライフラインや治安の維持、国民生活に直結する。

オミクロン株が全ての人にとって「自分ごと」である理由だ

三密でなくとも感染する可能性、オミクロン株・大流行への備えを

さて、これまで新型コロナウイルスの流行、とりわけデルタ株の流行に関しては欧米に比べて軽く、収束も早かったこともあり「日本はコロナに強い」と考えている読者も多いのではないだろうか。

このことについて、デルタ株流行への警鐘を鳴らし続けていた岡田さんは、どのように見ているのか。

「日本はワクチン接種の開始が遅れたので、東京五輪の前後に2回目の接種を終えたという方も多かったと思います。そして、その頃にちょうどデルタ株での5波がやってきた。日本は現場が強いですから、ワクチン接種のペースも早く、1日に100万回をという総理の目標を上回るペースで接種がされました。これは偉業です。こうして、ワクチンで免疫をもった人、罹って免疫をもった人、ワクチンを接種後に感染してさらに強い免疫をもった人、これらのコロナに免疫を持つ人が日本社会で急激に増えて、ウイルスの感染伝播が切れて、急峻に感染者が下がったとも考えられます。もちろん、いろいろな要因もあるとは思いますが。(岡田さん)」

では、我々はどのように市中感染のはじまったオミクロン株と向き合うべきなのだろうか。政府はオミクロン株に有効とされるワクチンのブースター接種を前倒しにしようとしているが、他国での感染データを見るかぎりブースター接種はオミクロン株の大流行に間に合いそうにない。

自分たちにできることは何なのか。オミクロン株の感染ペースを少しでも鈍らせ、時間稼ぎをすること。そのぐらいしかないのだろうか?

「まずは、検査体制の拡充、さらに大規模施設での集約医療施設の設置などの医療確保を危機管理として、早急に準備するということです。そして、個人の対策としては、より換気の励行を行うこと。三密でなくとも感染する可能性があると思ってください」(岡田さん)

岡田さんは著書の中で、田村憲久元厚生大臣とコロナ専門の大規模医療施設の設置について議論していた。デルタ株の収束で立ち消えになっているように思えるコロナ専門の臨時病棟案だが、オミクロン株が急速に拡大している日本で、今こそ、実現に向けての決断を下すべきタイミングなのかもしれない。

岡田さんの最新著書では過去2年にわたってコロナ対策に関わったさまざまな人物とのやりとりなどが実名で記録されている
岡田さんの最新著書では過去2年にわたってコロナ対策に関わったさまざまな人物とのやりとりなどが実名で記録されている