“アップルは次にどこへ向かうのか?”を知る上で必要な、たったふたつのポイント

WWDC基調講演会場に集まったアップル向けアプリの開発者たち(筆者撮影)

WWDCで講演するティム・クックCEO(筆者撮影)
WWDCで講演するティム・クックCEO(筆者撮影)

米カリフォルニア州サンノゼ市で始まっているアップルの開発者向け会議「WWDC2019」。年末商戦に向けてほとんどのアップル製品が向かう方向を示すイベントとあって、開発者だけではなく、デジタル製品、パソコンに興味あるさまざまな人たちの注目を集めています。

しかしながら、以前からある噂話やウェブキャストで流れていない情報などから、誤解あるいは曲解されたブログなども多く、現地で取材する立場からすると、戸惑っている部分も少なからずあります。

しかし、実はふたつのポイントを押さえるだけで、今年のWWDCの方向性は見えてくるのです。

そこで、可能な限りシンプルに、一連の発表について情報を整理し、なぜ各製品向けのOS(iOS、iPadOS、macOS、watchOS、tvOS)に変化……今回は特にmacOSの変化が大きい……が起きているのかを紐解いていきましょう。

●事前に押さえておくべきポイントは、たった”ふたつ”だけ

iTunesはなくなるのではなく不要になるだけ(筆者撮影)
iTunesはなくなるのではなく不要になるだけ(筆者撮影)

たとえば、事前にリーク報道があった“iTunesがなくなる”という報道を元に、実際にiTunesが次期macOS(コード名:Catalina)から削除されると発表されると、iTunesが削除されることを「すなわち音楽ダウンロードビジネスの終焉」とする記事や意見が目立ちました。

実際、米国などでは7割がストリーミングへと移行していると言われていますが、実際にはWWDCでの発表とは“まったく”関係がありません。

アップルは過去数年、macOS上でiOSアプリを動かすプロジェクトを進めてきました。これは「Project Catalyst」という名称で呼ばれているもので、昨年はmacOS Mojaveに搭載するアプリとして成果(Newsや株価、録音など)がお披露目され、今年3月にはApple TVアプリを同じ仕組みで開発すると発表していました。

過去1年を通じて実際の製品にProject Catalystの成果を用いた経験から、Catalinaでは一般の開発者もProject Catalystを用いて、自分で開発したiOSアプリをmacOS向けに簡単に移植可能になります。

実際のアプリ開発では、ユーザーインターフェイスの設計や画面サイズなどはかなり大きな要素なので、それなりに手間は必要ですが、同じアプリをiPhone、iPad、Macに展開出来るようになるわけです。

これがひとつめ。

アップルは全OSを整理した上でUI構築用にSwift UIを開発・提供(筆者撮影)
アップルは全OSを整理した上でUI構築用にSwift UIを開発・提供(筆者撮影)

もうひとつは、開発者以外には“地味”に見えたでしょうが、ユーザーインターフェイス設計ツールの「Swift UI」が大きな役割を果たすことになるはずです。

このツールは、すべてのアップル製コンピュータ製品(iPhone/iPad/Mac/Apple TV/Apple Watch)用アプリのユーザーインターフェイス設計を行うためのもので、極めて簡潔に設計できる上、スマートウォッチからパソコンまでをカバーする優れもので、アプリ開発者たちがiPhone以外の製品に対応するための大きな手助けになります。

●“ふたつのポイント”を押さえておけば「iTunes削除」から見える景色が変わる

さて、これらについて把握した上で、iTunesの話題をふり返りましょう。

今回のWWDC基調講演で発表されたのは「iTunesが次期macOSから削除される」ということですが、同時に「Apple Music、Apple Podcast、Apple TVの3アプリが追加される」ことも発表されています。

これまでは、iTunesの中にこれらの3つのアプリが提供する機能が含まれていましたが、それぞれ独立するということなのですが、これらのアプリはiOS向けに提供されていたものと同じです。

つまり、Project Catalystの成果により、iOS向けに開発されている最新の“音楽”、“映像”、“Podcast”アプリがMacユーザーにも提供されるということです。従来はなんでもかんでも、新しいメディアサービスのサポートはiTunesを建て増しすることで対応してきましたが、iOSの設計にならって”コンテンツの種類ごと”にフロントエンドとなるアプリを設計するという、実に真っ当なことをしているだけに過ぎません。

「いやぁ、ちょっと待て。iTunes Music Storeはどうなるのか?」と思うかもしれませんが、Catalinaがリリースされる時期にはiOSも13になっていることを忘れないでください。iOS13のホーム画面からはiTunes Storeアプリが消えています。iTunes Music StoreはApple Musicというアプリの中に統合されることを示唆しています。

このあたりはアップル自身のアナウンスが、少々、舌っ足らずなところも理由としてはあります。“Apple Music”はもともとは、アップルが始めた音楽ストリーミングサービスの名称でした。ところが、ここで言っているのはApple Musicというアプリのことなのです。

そして次のリリースでへはApple Musicに、各デバイスで使う音楽関連の機能が集約されるということですね。

こうした構造は、Apple TVでも同じなのです。

Apple TVは元々ハードウェアのブランド名でしたが、現在はiOS向けにアプリとして提供されています。加えてApple TV向けのサービスをApple TVあるいは有料のものはApple TV+と呼称しています。実にややこしい。

でも音楽ダウンロードサービスがなくなるとか、iTunesが提供していた機能がなくなるという話ではありません。長期的に音楽ダウンロード事業が縮小する可能性は高いでしょうが、今まである機能が削除されるわけではありません。

なお、iPodやiPhoneをMacに接続する機能は、ファイル管理を行うFinderに統合されるので、むしろ便利になるはずですよ(Windows版は、このストーリーとはまったく無関係なのでこれまで通り)。

●”次へ”のステップを踏み始めたiPadとApple Watch

Apple Watch用のwatchOSも第6世代になり、いよいよ単体アプリが解禁に。開発環境の充実でアプリの大幅増加なるか?(筆者撮影)
Apple Watch用のwatchOSも第6世代になり、いよいよ単体アプリが解禁に。開発環境の充実でアプリの大幅増加なるか?(筆者撮影)

同様にiPadとApple Watchに関連するニュースも、先に挙げたふたつのポイントから派生する話題と言えます。

iPadはiPhoneから派生した、大画面iPhoneとも言うべき製品でした。しかしそれは過去のことで、さまざまなハードウェアとソフトウェアの強化の結果、より生産性の高い製品へと変化してきています。Apple Pencilの存在も、iPadを変えた要素のひとつと言えるでしょう。しかし進化の方向はiPhoneとは異なる方向であったため、基本ソフトとなるiOSを共有していることには矛盾も生じてしまいます。

今回の決断でiPadが独自の道を歩み始めれば、iPadが適応出来る用途も広がっていくでしょう。

一方、Apple Watch用基本ソフトであるwatchOSに関しては、新たなデザインと機能を持つウォッチフェイス(盤面デザイン)やコンプリケーション(アプリの情報を表示する機能性部品)が盛り込まれ、健康に関わるふたつのアプリが追加されましたが、やはり注目されるのは、Apple Watch内でアプリを購入出来るApp Storeが組み込まれたことです。

これまではiPhoneにインストールしたアプリがApple Watchに対応している場合、Apple Watchにアプリがインストール可能になりましたが、watchOS 6以降はApple Watch単体でアプリを探し、インストールすることができるようになります。

関連することがないふたつの話題ですが、このようにハードウェアのタイプごとに異なるOSを作り、それぞれに作りやすい環境を作っている一方、ユーザーインターフェイスを構築するツールはSwift UIを提供することで一本化していき、アプリの核となるプログラムコードは(Macを含め)共通化しようとしていることがわかります。

“いま、この瞬間”で言えば、Apple WatchにはiPhoneやiPadと同じようなコンピュータとしての能力はありません。

しかし、それはiPhoneが登場したときも同じでした。まだ独り立ちはしていませんが、iPhoneがMacなしに単体のコンピュータとして成立するようになったように、Apple Watchも単独のパーソナルコンピュータとなっていく道筋がほんのりと見え始めています。

●開発者にとっての“心地よさ”

WWDC会場で取材しながら、この記事を書いていますが、実際にProject Catalystの成果が、どのぐらいのレベルなのかは現時点ではわかりません。

Xcode(アプリ開発ツール)上で、1日カスタマイズにつとめれば、充分にiOSアプリをmacOSに移植でき、Swift UIを用いて同じコードベースのアプリを異なるデバイスのユーザーインターフェイスに移植できると話していますが、実際にはハードルが高く感じられるケースもあるかもしれません。

しかし、“スマートフォンとパソコン”、あるいは“パソコンとスマートウォッチ”、“タブレットとスマートテレビ”、それ以外にも様々な組み合わせがあるでしょうが、これまでならば、それぞれ別々に開発せねばならなかったところ、まとめて開発出来る利点は大きいと言えます。

iPhoneという強力な、そしてアプリ開発者なら最初に検討するプラットフォームにアプリを開発すれば、そのコードをより多くの異なるジャンルの製品にも応用範囲を拡げていける点は、開発者にとって心地よい環境ではないでしょうか。

開発者にとっての心地よい環境を用意するため、全体を見直した成果が、今回のWWDCに現れていました。なぜなら、開発者にとって心地よい場を提供することこそが、アップルが現在、製造業としてナンバーワンでいられる理由だからです。

そして、ここでプラットフォームを“整地し直し”たことが、秋以降に発表されるだろう新しいハードウェアに繋がっていくのだと予想しています。