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僕がアイスバケツチャレンジを受諾した理由、”次”を指名しなかった理由

本田雅一フリーランスジャーナリスト

このところ毎日のように各種紙面を飾っている「アイス・バケツ・チャレンジ」を知らない者は、このコラムを読んでいる方の中にはいないことだろう。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療研究を支援する活動として広まっているチャリティ運動のひとつだ。

詳細はWikipediaの「アイス・バケツ・チャレンジ」を参照頂きたいが、氷水はアメリカのスポーツ界では「祝福」を意味するのだとか。その氷水をALS患者でもある著名な元スポーツ選手がかぶる動画が注目されたことが、爆発的に拡がっていくきっかけになったという。

米国の著名人が別の著名人を指名しながらSNSを通じて爆発的に拡がり、8月中旬には日本にも伝搬。実施した人は次の三名を指名するという仕組みで、多くの人が”より影響力のある人”を指名しようする傾向もあってか、とうとう芸能人でも著名人でもなく、社会的地位が高いわけでもない私(本田雅一)のところまで、そのバトンが渡ってきた。

意義を理解しつつ、支援先は自分で考えよう

治療方法がない難病で、発病から3〜5年をかけて徐々に運動能力を低下させながら、最後は呼吸不全でなくなるというALSのことを、筆者はこれまでほとんど知らなかった。このチャリティ運動によって治療研究が少しでも進むのであれば、そのこと自身は応援すべきことだ。また、運動によってより多くの人がALSという病気に対する理解を深めることができるならば、それもまたポジティブなことだと思う。

しかし、一方で不治の病と呼ばれる病気はALSだけではなく、世の中には名前を聞いたこともない難病が数多く存在する。それら全てを、個人の力で助けていくことはでできない。またALSに対しての支援も、一時的な流行だけで問題は解決しない。これは難病支援というテーマだけの話ではなく、たとえば東日本大震災の復興支援なども同じ。必要なところに継続的な支援が届く仕組み作りが大切だろう。

ALSの発症確率は1年間に人口10万人当たり、一人から二人とのこと。私の身の回りには患者はおらず、ALSで亡くなった友人もいない。だからこそALSの認知を広げたいという気持ちが自然に発生したのかもしれない。その趣旨には賛同する部分もあるため、日本にあるALS支援団体に寄付を、身の丈に合う金額の範囲で筆者もさせていただく。米国のALS支援団体には巨額の寄付が集まったそうだが、日本ではそこまでの拡がりがなさそうだ……ということで、寄付先は活動内容を吟味した上で日本のALS支援NPOから選びたい。

それと同時に膵臓ガン患者の支援団体「パンキャンジャパン」にもALS支援と同額を寄付する(こちらはすでに寄付を実行した)。身近にALS患者はいないが、膵臓ガンで亡くなった知人は過去に数名いたためだ。多くが30代の若さで、発覚後はあっという間に衰弱していった。過去にも膵臓ガンをきっかけに亡くなったスティーブ・ジョブズ氏の追悼記事依頼が数多く集まったとき、その原稿料を寄付をしていたのだが、ALSを支援するならば、さらに身近な自分にとって大切な人を奪った病気と対峙している団体にも支援したいと思ったからだ。

難病の数だけ支援の必要性があり、また難病だけでなく貧困や自然災害(つい先日も広島での土砂災害があったばかりだ)なども含め、ありとあらゆる支援の可能性がある。その中で、支援先については”誰かに頼まれたところ”ではなく、自分自身の考えや経験、支援先の活動内容によって決めた。

善行であっても、”チェーンメール”という仕組みは許容しない

ただし、次の3名を指名することは明確に拒否したい。

実はチャレンジを受けるにあたって、何人かにメールで指名しても良いかと打診をした。その誰もが寄付に関しては快く引き受ける準備があると話していたものの、この仕組みそのものに賛同できないという人が多かった。自分が引き受けることで、誰か親しい”次の3名”を指名しなければならないからだ。

実際のところ、このシステムはチェーンメール以外のなにものでもない。それなりに”自分自身の名前”を出して仕事をしている人が、ネット上で名指しされた場合、断ることは難しい。断ったとしても、そこに明確な理由を示す必要がある。しかも、チャリティ運動そのものは悪行ではなく善行なのだからなおさらだ。

この3名指名システムは、ネット時代の”不幸の手紙”といってもいいだろう。チェインメールとしての連鎖性は、むしろ不幸の手紙よりも強いのではないだろうか。”不幸の手紙と同じじゃないか”とは、筆者の知人がぼくにアドバイスしてくれたものなのだが、なるほどそういう視点で考えると(それが善行であったとしても)システムとしての支持はできない。

僕レベルのところにまでアイス・バケツが回ってきた時点で、ALSの認知を広げて支援者を募るという当初の目的は充分に達していると思う。今後は認知の拡散よりも、継続的な支援を受けるためにどうすべきかを考える段階ではないだろうか。そのためにチェーンメールシステムが適切とは思わない。

しかし、もし今回のチャリティ運動によって、困っている人を支援することに興味を持ったならば、まずはどのようなジャンルに、どのような支援団体が存在するかを調べてみてはいかがだろうか。その中には自分のこれまでの生活に照らし合わせて”ここならば”としっくり来る支援先があるかもしれない。

まず興味を持ち、なぜ彼らがその問題に立ち向かおうとしているのか。それを知ることだけでも支援へと手がかりとなるはずだ。

最後に……「古川さん、一日も早い回復を!リハビリ頑張れ!」

最後に氷水をかぶる理由。もちろん、バケツが手元に回ってきたということもあるが、もうひとつ、元・米マイクロソフト幹部で日本のパソコン業界の発展、日本企業とマイクロソフトの協業関係支援などに尽力し、現在は慶應義塾大学の教授として教鞭を執っている古川享さんが快復することを願っての願掛けとしたい。

つい先日、パソコン、IT業界だけでなく、さまざまな業界の人間が集まり、その還暦を祝う誕生会を元気に開いたばかりだったのだが、脳梗塞を発症して現在、左半身不随の状態にある。幸いにも命に別状はないようだが、これから長いリハビリに取り組まねばならない。

サム・古川さん、がんばって!みんな応援しています。はやく元気になって、また美味しいものをたくさん食べましょう!

フリーランスジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について解説および品質評価を行っている。夜間飛行・東洋経済オンラインでメルマガ「ネット・IT直球レポート」を発行。近著に「蒲田 初音鮨物語」

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