マイクロソフト新CEO、iPad版Officeを発表。事業改革を加速

CEO就任後、はじめての新戦略発表に登場したサティヤ・ナデラ氏

マイクロソフトの新CEOに就任したサティヤ・ナデラ氏が、就任後はじめての大規模なプレスカンファレンスを27日、サンフランシスコで行った。

記者会見を行うナデラ氏
記者会見を行うナデラ氏

この記者会見でナデラ氏が表明したのは、昨年来、前CEOのスティーブ・バルマー氏が表明してきたマイクロソフトの「トランスフォーム」を確実に実施するための具体的なプランだった。マイクロソフトはソフトウェア・パッケージを売るビジネスモデルから決別し、新たなビジネスモデルを確立すべき大胆に動いている。

この講演後、もっとも大きな話題となるのは、Office 365ユーザー向けにiPad版Officeの提供が開始されたことと、iPad/Android版Officeが無償化されることだろう。実際、iPad版Office提供の噂が出始めて以降、マイクロソフトの株価は上昇している。

しかし、”iPad版のOfficeが出た”ことは、マイクロソフトが新たなビジネスモデルへの転換を始めた結果起きている事象のひとつにしか過ぎない。

注目はiPad版Officeではなく、それが提供される背景

iPad版Word
iPad版Word
iPad版Excel
iPad版Excel
iPad版PowerPoint
iPad版PowerPoint

マイクロソフトが目指しているのは「デバイス&サービスの会社」への転換だ。その一環として、看板商品のひとつであるOfficeはソフトウェアパッケージから、月々の支払で利用する購読型製品への転換を図り、ソフトウェアとクラウド型サービスを一体化した製品へと変貌した。

iPad版Officeはその副産物として生まれたものだ。パッケージ製品ではなくサービスならば、いつ、どこでも、どんなデバイスからも”Office”との接点を持てる方が、製品としての価値が高まる。Officeがパッケージ販売という従来のパラダイムから抜け出し”サービス”となった象徴がiPad版Office。これをマルチプラットフォーム化の一環として捉えると、彼らの戦略を見誤る。

「マイクロソフトのクラウドは、モバイルデバイスをクラウドとの接点としてあらゆるデバイスと繋がる。現代においてユーザーはひとつのデバイスではなく、多様なデバイスを組み合わせて使っている」とナデラ氏。

また、昨今はBYOD(Bring Your Own Device:個人保有の携帯用機器を職場に持ち込んで業務に使用すること)が一般的になってきており、多種多様なデバイスを使って生産活動を行う中で、持ち込みデバイスが使われることも少なくない。

クラウドを中心に、あらゆる製品を再配置、再設計し、クラウドを前提にモバイルデバイスを含む利用者との接点を作っていく。これがマイクロソフトに基本的なやり方だ。Windows AzureからMicrosoft Azureへと名称変更が行われたクラウドサービス、Officeのサービス化、それにノキア買収や自社製ハードウェアへの注力など、あらゆる歩みは”新しい会社”への変化の過程で起きていることに過ぎない。

「コンピュータ業界は変わった。半導体技術の進歩などがコンピュータを大幅に小型化した。さらにタッチパネルUIに代表されるように、ヒトとコンピュータの関わりが大きく変化し、世の中の情報は容易にデジタル化可能になっている。またユーザー、デバイス、アプリが協調することで、クラウドが大きな価値を持つようになってきた」とナデラ氏はいう。マイクロソフトの戦略は、こうした変化に対応したものなのだ。

この記者会見でナデラ氏がiPad版Officeを発表したのも、強力な競合相手でもあるアップルの、しかもマイクロソフトのドル箱であるPC市場を侵食していると言われるiPadを引き合いに出すことで、”デバイス&サービス”の会社に変わることを強調したかったからに他ならない。

今回の発表により、Office 365はPC、Mac、各種スマートフォン、各種タブレット、それにWebブラウザ。これらすべてに対して完全な機能を提供することになる。ナデラ氏は、BYOD、マルチデバイス対応、データ保護といった企業ニーズを満たすため、エンタープライズ向けのモバイルアプリケーションセット(スイート)を提供するとも話した。

もっとも、クラウドとモバイルデバイスを中心とはしているものの、”Windows”に関して改良の手を弛めるつもりはないようだ。Windowsをフックにすることで、さらにイノベーティブなソリューションが提供できるという。

ナデラ氏は「我々は顧客価値の視点に立って、モバイルファースト、クラウドファーストで作られた新たな提案を用意している。来週開催される開発者会議のBUILDに注目して欲しい」と話し、4月2日からのイベントへの含みを残した。

日本向けのiPad版Office提供は先送りに

最後に発表された新製品についての情報をまとめておこう。

マイクロソフトは昨年、すでに提供済みだったiPhoneおよびAndroid向けのMicrosoft Officeに加え、iPadの画面に最適化した新開発のアプリの提供開始をアナウンスした。アプリのダウンロードは無償だが、Office 365の購読者IDを入力しなければ利用できない。また、iPhone版と同様に日本のApp Storeには提供されず、日本向けのOffice 365の購読者IDを入力しても利用できない。

ただし、海外でOffice 365に加入しているIDであれば、同じく海外登録のApple IDを用いることでiPad版Officeを入手することはできる。日本語化も完璧に行われており、いずれ日本市場向けにも提供されることが予想される。

ただし、iPhoneおよびAndroid向けのMicrosoft Officeは無償化され、Office 365の契約者でなくとも使用することが可能になる見込みという。この際、アップルApp Storeの国別制限もなくなり、日本のIDからもiPhone版Microsoft Officeがダウンロード可能になるそうだ。

”日本向けだけ提供されない”とう点が引っかかっている読者もいるだろうが、これは日本市場だけパーソナル版のOfficeが作られ、パソコンへのプリインストールが実施されていることと無関係ではない。海外では”購読型”に一斉に移行されたOfficeだが、日本ではプリインストール版があり、その代わりに家庭向けのOffice 365が存在しない。

現在のOfficeは購読型のサービスモデルへと移行する過渡期で、あくまで”コンピュータにインストールするソフト”の存在感が、ユーザーのマインドシェアとしては高い。しかし、今回の発表を見る限り、コンピュータにインストールするソフトウェアは”ユーザーとの接点”を生み出すためのもので、製品としては”サービス”を販売する方向性が明確となった。現在はプリインストール版が好まれる日本において、購読型サービスへの移行が遅くなっているが、今後は海外との足並みが揃うとかんがえられる。

そろそろ次期Officeの噂も囁かれ始める季節となったが、次はいよいよクラウドに機能・価値を湛えたサービス指向のOfficeに、各デバイスプラットフォームごとに最適化したフロントエンド……という組み合わせに製品は変化していくだろう。そうなれば、日本でもデバイスの区別なく、あらゆる端末のOfficeを購読契約だけですべて利用可能になる。

もちろん、この技術・マーケティングトレンドはOffice分野だけにとどまるものではなく、マイクロソフトのすべての事業領域に及ぶものだ。まずは米国時間4月2日、BUILDにおけるナデラ氏が行う最初の基調講演に注目したい。