ソニーのトップが自ら語る”モノ作りの魂”。平井一夫社長インタビュー

”心に刻まれる感動を呼び起こす製品を生み出していく”と話した平井一夫ソニー社長

ソニーは昨年より多くの印象的な製品を発売。それまで長く続いたスランプを脱し、再び心躍らせる新しいアイディアを生み出す企業になったかのように思える。まだ、それが業績へとストレートには反映されていないという声もあるが、ソニーのトップはどのように今のソニーをとらえ、舵取りしようとしているのか。

”エレクトロニクス製品を生み出す会社”としてのソニーについて、International CES 2014の基調講演を終えた平井一夫社長兼CEOに話を伺った。

平井氏は、筆者がエレクトロニクス業界を取材し始めた90年代半ば以降、はじめて”エレクトロニクス製品が好きで、良い製品を作ることに情熱をかける”ソニーの経営者だ。同氏の話は、製品に興味を持たず、コストカットとバランスシートの調整ばかりに明け暮れた経営者に蹂躙された暗黒時代が、もはや過去のものであることを如実に示していた。

感動を伝えることが最優先事項

International CES 2014の基調講演は、昨年のIFAを超えるような怒濤の新製品の連発を期待していた人たちには肩すかしになっていたかもしれない。

念のために申し添えれば、基調講演で紹介された新製品ひとつひとつは、ひじょうに興味深いものだ。たとえば超短焦点のキャビネット型4K映像プロジェクター。壁にぴったりと密着させ状態で最大104インチの映像を投影可能な製品で、14センチ壁から離すだけで140インチまで投影サイズを拡大できる。

PlayStation Nowはクラウドサービスを通じてゲームを提供し、同社のテレビBRAVIAと携帯ゲーム機PlayStation Vitaで楽しめる。またテレビ放送とその録画、再生といった仕組みにソーシャルコミュニケーション機能を組み合わせ、これまでのテレビ視聴スタイルをそのままクラウドへと落とし込んだサービスを、Sony Entertainment Nerworkで提供する。

さらには映像技術、映像認識技術、イメージセンサーといった、AVメーカーとして蓄積してきた技術やノウハウを活かし、医療や健康管理、農業、都市インフラといった新たな事業領域に収益源を拡大する意思も基調講演の中からは読み取れた。

しかし、全体を通しては「感動を生み出す企業であり続ける」というメッセージが込められていた。それは平井社長自身の原体験から来ているメッセージである。自分自身の幼少期の写真をプレゼンテーションの中で巧みに使いながら、”感動を生み出すこと”がソニーのミッションであり、平井・ソニーの戦略軸となっている。

インタビューに応じた平井一夫・ソニー社長
インタビューに応じた平井一夫・ソニー社長

--- 基調講演では新製品も紹介したが、基本的なトーンは企業ビジョンを強くアピールするものでした。どのような意図で講演のプログラムを組み立てたのでしょう?

「私が社長になって、直接関わった製品が昨年後半にまとまって出すことができました。それを受けて、今のソニーがどんな製品を消費者に届けたいかを伝えるために基調講演を引き受けました」

--- 基調講演で伝えようとしていたメッセージの背骨は、購入者が製品を体感した時に得る感動を最重要視する企業になる、だと感じました。そのメッセージの本質を改めて語るとするならば、どんなものになるでしょう?

「講演のプレゼンテーション冒頭、私の子供時代の写真を多用しました。あの写真は私が父親と一緒に遊んでいる写真なんですが、実は背景にあるのはソニー製のオープンリールテープレコーダです。録音を回し、父は私をくすぐり倒して笑わせ、その様子を”キュルキュル”っと巻き戻すと、自分が笑い転げている音が生々しく聞こえる。今考えればなんてことはない話だけど、子供心に感動した体験でした。さらに自宅にあったソニーのラジオで世界中のラジオ局を聴き、遠く離れた国のラジオ局からベリカードを集めたり。ソニー製品で育ち、そこで感動を得て育ちました」

「そうした自分自身が得た感動を引き出す製品をソニーで生み出し、消費者に届けたい。それこそが我々が目標とし、製品作りの中でこだわっているところです」

--- 昨年来、全くブレることなく言い続けている”五感に訴える製品作り”というコンセプトですね

「もう何度も離しているので聞き飽きたかもしれませんが、人間の五感に訴える部分にこそソニーの価値、おもしろさがあると思うからです。自分自身で社内の製品開発部門を回り、研究所を巡り、そこで感じたこと。それは、画質に対するこだわりであり、音質に関するこだわりであり、使いやすさやデザインに対するこだわりです。ばらばらだけれど、それぞれに他社よりも価値のある技術やノウハウは確実に内在していました。そうした埋もれていた技術、付加価値を新しい商品に持ち込んでいます。価値がクラウドに吸い込まれていると言いますが、なんでもクラウドできるわけじゃありません。音の良いクラウドや質感の高いクラウドなんてないじゃないですか」

平井氏の考える”コスト削減よりも重視すべきこと”

過去の多くの失敗があるからこそイノベーションが得られると話した平井氏
過去の多くの失敗があるからこそイノベーションが得られると話した平井氏

平井氏は「ソニーはエレクトロニクス製品の会社。投資をして製品力を高めることが優先される」と話した。その上で過去に失敗したさまざまなソニー製品の写真を出し「しかし、失敗があるからこそ、成功する製品もある。失敗のリスクを恐れるようではイノベーティブな製品は決して生まれない」とも話す。

確かに平井氏が社長になって以来、従来ならば商品化どころか、開発プロジェクトの承認すら下りなかったのではないか?と思われる製品が多数出ている。

別途行われた共同記者会見では、25万円の単焦点カメラDSC-RX1の事例を出し「あまりに極端な設定のカメラでしたが、そのカメラが生み出す映像に、素直に感動しました。これだけ感動的な高画質を出せるなら、どこよりもソニーが出すべきだと考えました。深く心に刻まれる感動を得るには、ある意味極端なスペックが必要な場合もあります。従来になかったからといって安全策に行くのではなく、リスクを取ってこの感動を伝えよう。そう考えて製品化してみると、これが予想以上に良い反応を得ました。そしてローパスレスのRX1Rが生まれ、レンズ交換式カメラのα7までシステムが広がりました」という事例を出していたが、”コスト”や結果としての価格に対する考え方も、昨今の日本メーカーとはかなり異なっている。

--- これまで出てこなかったようなユニークな製品が増えました。何が今までと違うのでしょう?

「ものごとの考え方の順序を変え、各製品を束ねる責任者も含めて共通認識を得られるようになってきています。たとえばWalkman ZX1ですが、これまでなら薄く軽くが求められていました。しかし、厚みという制限を取り払うと明らかに良い音にできる。それならば、多少いびつな形状になっても、部分的に厚くなった形状にしてしまおうと考えました。大きく出っ張りがあっても、それが”音の良さの象徴”として納得できるものなら、それで満足できるものです」

「むしろ、その形状の製品を使っていることや、高音質イヤホン、あるいは外付けのポータブルヘッドフォンアンプを使うことが、自分自身をこだわりを示すスタイルになればいい。これはポータブルオーディオだけでなく、カメラでも映像機器にも共通する考え方です」

--- 過去10年ぐらい、電機製品に限らず極限までのコストダウンが製品力を下げていたように感じていましたが、しかしZX1の開発では、”最終的にいくらになってもいいから、自分たちで納得するものを作り切れ”と担当者たちに言ったそうですね

「どんな商品なのか、カテゴリや位置づけにもよります。また効率化をして可能な限り価格を下げる努力は必要です。しかし、商品ごとに求められる一定の体験レベルは追求しなければなりません。ところが、少しでも利益をと考えて、目を離すとすぐにコスト制限をかけてしまいます。せっかくすばらしい梱包で、製品と初めて出会う時の感動が得られていたのに、翌年になるとパッケージコストを下げて感動の度合いが減じてしまう」

--- 昨今はどの製造業でも、コストダウンが開発者の身に染みて、いち消費者としては”行き過ぎ”と感じる場合もありますね

「コストを下げれば提供価格も下げられます。しかし、本当にそのコストダウンがユーザーにとって良いことなのかどうかをまず考えなければなりません。ユーザーの感動につながる鍵となる部分には、むしろコストをかけなければならない。何度も話をしているのですが、条件反射的にコストを下げてしまうので、きちんと目を光らせて無用なコストダウンをさせないようチェックしています」

--- ”ちょっとやり過ぎ”感のある製品というと異論があるかもしれませんが、”エクストリームな商品”を今は平井さんが”作らせている”印象を感じています。しかし、これが定着すると、当たり前のように様々な部署から、”オッ?”と思わせる製品が出てきそうです。このあたり商品に直接関わる際、どのような話をしているのでしょう?

「エンジニアは音であり、映像であり、あるいはスマートフォンかもしれませんが、みんな専門で開発をしていて、自分自身がやりたいことを持っているはずなんです。自分自身がやりたいことに対し、強いこだわりをもって取り組むからこその、ちょっとした”やり過ぎ”が、その製品の評価される部分になる。お客さんの中には、若い子たちも含めて、こだわって製品を選ぶ人が増えていると実感しています。そういう消費者にとって”やり過ぎ”はありません。言い換えれば、エンジニアが普段考えているアイディアをきちんと商品化できるところまで引き出すことが重要と考えています」

「私は音楽業界、ゲーム業界と、クリエイターと仕事を一緒にする時間が長かったので、そうした人たちが長い時間をかけ、作品として練り込んで世に問うたものが評価されることが作り手として一番うれしい。だから、私はエンジニアではないけれど、技術開発や商品開発の報告を受けるとき、必ずその商品・技術に対して積極的に発言して関わっています」

「一生懸命に作ったものに対して関心を持たれなければ、モチベーションは当然下がりますよ。満を持して役員にプレゼンしたのに、”そうか、なかなかいいね。がんばって”としか言われなければ、関心を持たれていないと感じるはずです。製品を作る会社の経営者なのだから、製品と製品を生み出す源泉である技術に興味を持ち、強いこだわりを持った開発者、研究者ときちんと対話し、時には駄目出しもしなければなりません」

「たとえば大ヒットになったデジタルカメラのDSC-RX100。第二世代のRX100 IIでは液晶にチルトメカを組み込み、アクセサリを取り付けるシューを装備したいという。やりたいならそれもかまわないが、あれだけ世界的に支持されたRX100の世界観を壊すようなデザイン、サイズ、使い勝手であってはならない。顧客に支持されているのに、たった1年で前のモデルを否定するような商品ならやらせないと釘を刺しました。これはRX1に対してRX1Rを出した時も同じです。デザインを変えたがるので、シンプルに”R"をロゴに追加するだけでいいと指示しました。商品を作る人間は、目先を変えたくてすぐに見た目を変えたがります。しかし自分たちが創り出したものを守ることも必要です。良いもの、支持されているものならば、それを無理に変える必要はないんですから」

--- 基調講演で紹介した超短焦点の4Kプロジェクターが話題ですね。これは社長直轄プロジェクトのひとつだと伺っていますが、どのような経緯で生まれたのでしょう?

「厚木の研究所で様々な技術をレビューしているとき、これはスゴイと思ったんですよ。壁際に置かれたサイドボードから、140インチの4K大画面が映るんですから。ところが担当者に”これはどういう形で商品化するんだ?”と訪ねたら、もう技術としては完成しているけれど、どの事業部からも必要ないと言われたというんです。そこで、自分から”これは平井扱いにしてくれ”を申し出て、商品化プロジェクトをスタートさせました」

「試作機が上がってから、実際に品川・港南の本社で、ソニービルから写す銀座の町中の風景4K映像を中継したのですが、まるで自分がその場にいるような錯覚を受けました。海岸風景を映し出すと、まるで海に行った気分になれる。4Kがもたらすリアリティと大画面が、これまでにない現実感を引き出していました。今日、明日にヒット商品になるものではありませんが、コレを世に問うのがソニーの文化だろうと。事業としてすぐに利益を生まないからといってやらないのでは、何のためにソニーで働いているんだと。さらに4Kプロジェクターをブレンディングで並べていくと、それこそただ者じゃない臨場感です。そういうワクワク感、英語でWOW!というファクターを提供することに、ソニーの価値があります」

「顧客に驚きと感動を呼び起こす製品を提供していきますので期待してください」