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「聞く力」があるのか?全国学テで英語スピーキングテスト

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 来年度からの全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)で、中学英語の「話す」(スピーキング)テストをオンライン方式で実施することを文部科学省(文科省)が決めた。東京都が今年初めて導入した都立校入試での内申点にくわえられる英語スピーキングに、さまざまな問題が指摘されているにもかかわらず、それを無視するような文科省の姿勢である。

| 英語スピーキングテストは疑問だらけ

 文科省は12月5日に開いた専門家会議で、英語のスピーキングテストをオンラインで実施することを示した。

 スピーキングテストについては、東京都が1回目を11月27日に実施している。それについて、実施環境や採点の公平性などについて、さまざまな疑問が示され、実施反対を求める動きも活発だった。それを無視して東京都は強行し、さらに疑問と反発を呼んでいる。

 にもかかわらず文科省は、全国の中学生約100万人を対象にする全国学テストで英語スピーキングテストを実施しようとしているのだ。東京都の英語スピーキングテストは、都内の公立中生徒約8万人を対象にしている。それでも隣の声がジャマになるといった受験者の声もあるし、フィリピンで行われる採点で公平性は確保できているのか、などの指摘も多くある。そうした疑問を払拭したかたちで10倍以上もの受験者を対象にする、全国学力テストでの英語スピーキングテストの実施が可能なのか不安でしかない。

 東京都の英語スピーキングテストに関しては、出題された問題の一部に中学校の学習指導要領を超える表現が含まれていたことを、『教育新聞』が独自取材で指摘している。それに都教育庁では「問題ない」と答えているようだが、学校現場からは疑問視する声があがっているのも事実だ。

 全国学力テストでの英語スピーキングテストでも、公表されたかぎりでも疑問がある。全国学力テストは来年4月18日に実施されるが、英語スピーキングテストでは当日の受験校は約500校だけになる。残りの約900校については、翌日以降に日程を分散して行われるという。ネットにいっせいにつなげば通信が不安定になる恐れがあるとの理由らしいが、問題が流出する可能性がある。それで公平なテストになるのだろうか。東京都のケースより、さらに悪い状況になる可能性がある。

「人の話を聞くことが信頼の原点だ」と「聞く力」をアピールして、首相になったのが現在の岸田文雄首相である。その岸田政権下で、東京都の英語スピーキングテストに対して起きている疑問の声を無視して、文科省は全国学力テストで英語スピーキングテストを実施しようとしている。「聞く力」が問われている。 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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