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部活動の地域移行、支援の前倒しというが、実現への具体策がまるで見えてこない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 第2次補正予算で、部活動の地域移行を支援するための経費が計上された。政府と文科省が本気で地域移行にとりくもうとしている姿勢だともいえそうだが、不安は消えない。

|じゅうぶんでないものばかり

 11月8日夕、政府は第2次補正予算案を閣議決定した。そこに部活動の地域移行を支援する経費として19億円が計上されている。地域移行は2023年度から段階的に実施されることになっているので、補正予算案での計上は、費用の前倒しといっていい。地域移行の準備を急がせたいのだろう。

 補正予算案では、文科省関連としては他に23年度からの新たな教員研修の体制構築に25億円、園児の置き去りを防止する安全装置の財政支援として78億円も計上されている。これらに比べて、地域移行のための19億円が妥当なのか少なすぎるのか、議論は分かれるところかもしれない。

 ともかく、政府も文科省も部活動の地域移行に積極的なのはまちがいない。教員の多忙化が問題視され、それが教員志望者を減らしている現在、特に中学校教員を多忙にしている〝元凶〟のようにいわれているのが部活動である。

 政府も文科省も解決策にとりくまないわけにはいかず、そして浮上してきたのが部活動の地域移行である。地域に移行すれば教員の負担は少なくなるだろう、というわけだ。

 それがスンナリいけば、たしかに教員の負担は減ることになる。しかし、そうそう簡単な問題ではないのも事実なのだ。

 これまでも「部活動指導員」の導入を試みてきてはいるものの、じゅうぶんに配置できていないのが現状である。だからこそ教員の多忙は、少しも解消されていない。

 部活動指導員の報酬はじゅうぶんなものではなく、多くが時給1500円から2000円弱のようだ。それも毎日の仕事ではなく、週何日か1日数時間の勤務でしかない。もちろん、こうした待遇では生活が成り立つわけがない。つまり、部活動指導員はボランティアが前提ということだ。これでは担い手が増えるわけがない。

|地域移行のモデル事業を断念

 国のモデル事業として昨年から部活動の地域活動の可能性を探っていた北海道の紋別市が、運動系部活動の地域移行を今年2月に断念していた、と『北海道新聞』(10月2日付)が報じている。紋別市教育委員会は、「関係者の意識に大きな乖離があり、課題を共有する機会の設定から始める必要がある」との報告書を国に提出したという。

 断念について、紋別市内の公立中学校で運動部の顧問をしている教員に訊いてみると、「新聞で知りました。学校現場には教育委員会からの相談はなかったとおもいます」との答が戻ってきた。さらに、「紋別市で運動部の地域移行はできる可能性はあるとおもいますか?」と聞いてみた。それに対する答が、以下だ。

「無理だとおもいます。まず、指導できるだけの知識や技術をもった人が少なすぎます。知識や技術があっても、自分の仕事があって、とても部活動の指導をする余裕があるはずがありません。たまたま指導の補助をしてくれる定年退職の方がいて、『全面的に指導を引き受けてくれないか』とお願いしたこともありましたが、即座に『無理』と断られました」

 このケースが特別なのではなく、おそらく日本全国、同じような状況なはずだ。指導するだけの力があって、それでもボランティアのようなわずかな報酬で、事故のさいの責任まで負って、自分の仕事をしながら時間を割いてくれる、そんな貴重な存在がどれくらいいるのだろうか。

 その貴重な存在を確保しないかぎり、部活動の地域移行は実現しない。補正予算で費用を計上したところで、そういう現実的な問題の解決方法を示さなければ、教育委員会も学校も動きようがないのではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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