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「私立の闇」という「告発」

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

「『私立の闇』について話したい」という連絡があった。話を聞いてみて、深い問題を投げかけられた気がした。

|公立より私立は質が上なのか

 熊本市で2019年4月に中1の男子生徒が自殺した問題を調べていた同市の第三者委員会が、報告書を公表したのは今年10月24日のことだった。報告書は、同生徒が市立小学校6年生のときの担任による不適切な指導が抑うつ状態の発症に強く影響した可能性が高く、自殺の一因になったと考えられると指摘している。担任教諭は自殺した生徒の胸ぐらをつかみ、「バカ」「アホ」などの暴言を繰り返していたという。

 この報道を、「やっぱり公立には問題がある」と受け取った保護者は少なくなかったのではないだろうか。その根底には、「公立は質が悪い」という思い込みがある。だから、我が子を私立に通わせたいと願う保護者が多い。それが「有名私立」ともなれば、保護者の安心感も大きくなるらしい。

 しかし「告発」の内容は、そんな保護者の思い込みを大きく揺るがしかねないものだった。

「告発」してきたのは、ある私立高校の元教員だった。その学校は東京都内でもかなり知られた存在で、まちがいなく有名私立である。元教員は次のように語った。

「ある学年の担当教員たちでクローズドなSNSグループをつくっていました。そこで積極的に発信しているのは学年主任です。そこで彼は、特定の生徒を名指しで『あいつはバカだ』とか『退学させてしまえ』と口汚く非難・中傷を繰り返していました。それに、全員ではありませんが尻馬に乗る教員もいました。学年主任ですから、逆らうわけにもいかないし、ご機嫌をとっているつもりなのかもしれません」

|言葉や行動にならなくても教員のイジメ

 元教員は、「生徒に対するイジメだ」と指摘する。ただし、誹謗・中傷はSNS上のことであり、そのSNS上での発言が生徒や保護者の目にふれることはなかった。生徒に直接、暴言がぶつけられるわけでもない。だからこそ、問題化しなかったともいえる。

 表面化していないのだから問題ない、といってもいられない。元教員が続けた。

「言葉にしなくても、学年主任から目を付けられているとなると、教員はその生徒を気遣うわけにはいかなくなります。気遣えば、学年主任に睨まれて自分の立場が悪くなりますからね」

 結果的に、その生徒は教員たちから無視されたのと同じ状態におかれてしまうことになる。

「その生徒に学年主任が問題にするようなことがあれば、そこを指導するのが教員の役割ではないでしょうか」

 と、元教員。その生徒には問題をあらためる機会も与えられず、教員も「自らの義務」を放棄したままの状態が続いた。結果、その生徒は退学してしまったという。

「これが教育の現場だとは、とても私には思えませんでした。名門私立だからと保護者は安心して子どもを預けているかもしれませんが、そんなことはありません」

 元教員も、学校を辞めてしまった。教育現場の現実に失望したからである。

 その名門私立高校のケースが、すべての私立で行われているといっているわけではない。それは熊本市の問題が、すべての公立に共通することではないのと同じだ。

 ただ、特定の学校だけの問題ということでは済まされないのではないか、という気もする。私立にしろ公立にしろ、教員の生徒に接する姿勢について、いまいちど考えてみる必要を感じさせた「告発」だった。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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