Yahoo!ニュース

永岡文科相「通知は何だったのか」発言に感じる〝違和感〟

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 静岡県の幼保連携型認定こども園の送迎バス内に3歳の女児が取り残され、死亡した件で永岡桂子文科相は、「極めて遺憾で、断腸の思い」と述べ、「いったい(昨年の)通知は何だったのか」と語っている。通知で事故は防げて当然のような発言に聞こえてしまうのだが、はたして通知だけで防げるものなのだろうか。

| 「園だけの責任」にしていいのだろうか?

 送迎バスに取り残されてしまっていた女児が死亡する事故が起きたのは、今月5日のことだった。18人乗りの送迎バスで6人の園児を迎え、降車させたあとは駐車場に止めていたが、帰宅時に職員がバスを移動させるさいに女児が取り残されているのに気づいた。女児は約5時間にわたって車内に取り残されていたとみられ、搬送先の病院で死亡が確認された。

 この事故について永岡文科相は、「痛ましい事案が再度起きてしまった」と語っている。昨年7月に、福岡県で5歳の保育園男児が取り残された送迎バスの車中で熱中症で亡くなる事故が起きたばかりだったからだ。同じような事故が繰り返されたことに、永岡文科相も無念の思いだったのだろう。

 福岡県での事故が起きた翌月、2021年8月25日付で厚生労働省、文科省、内閣府の関係部署の連名で、「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について」という「事務連絡」が各都道府県・市町村保育主管課などに宛ててだされている。永岡文科相が「通知は何だったのか」と語った「通知」は、これを指しているらしい。

 そのなかで、文科省が「学校の危機管理マニュアル作成の手引き」(以下、「手引き」)で幼稚園等における留意点を示していると強調されており、それを踏まえて安全管理を徹底するよう求めている。そして、送迎バスを運行する場合の事故防止のための留意点を以下のように念押ししてもいる。

・運転を担当する職員の他に子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましいこと。

・子どもの乗車時及び降車時に座席や人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有すること等に留意いただくこと。

 上記のことが徹底されていれば、今回の静岡県での事故は防げたのかもしれない。永岡文科相が「通知は何だったのか」と言ったことにも頷ける。

 しかし、上記のことを現場で徹底させるために、文科省や厚労省、内閣府は何をやったのだろうか。送迎バスに同乗させる職員を確保するためには、職員数が不足している園も少なからずあるはずである。適切な職員配置を実現するために、文科省などは策を講じたのだろうか。

「通知は何だったのか」との永岡文科相の発言からは、「通知」以外に文科省をはじめ厚労省も内閣府も動いたとはうかがえない。もし具体策を講じていれば、「あの対策は何だったのか」という発言になっていたはずである。

 つまり、「『通知』はだしたのだから、あとは現場でやれ」ということでしかなかったのか。それで問題が起きたら、「何だったのか」と責めるような言い方である。

 それよりも、文科省自らが反省すべきは反省し、事故防止のための具体策を講じる決意を語ってほしかった。永岡文科相の発言に、そうおもうのは筆者だけだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事