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電話回線さえ増やせない働き方改革では、教員は疲弊するばかり

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

「電話の回線を1本増やしてもらえるだけでも、だいぶ違うとおもうんですけど」と、ある地方の公立中学校の教員が言った。行政は、本気で教員の働き方改革をすすめるつもりがあるのだろうか。

| 出欠確認で電話がパンク

 教員の働き方改革について公立中学校の教員に訊いているなかで、「せめて電話回線くらい増やして欲しい」という意見がでた。

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)での「まん延防止等重点措置」は全国的に終了したとはいえ、まだまだ「終息」と呼べる状態ではない。学校でも児童・生徒の陽性が確認される例は、減っていない。

 そうしたなかで、児童・生徒の出欠確認が学校側にとっては重要な仕事になっている。ICT活用を文科省や各教育委員会はさかんに口にしているが、出欠確認のシステムを導入している学校はまだ少数派なのが現実だ。

 従来どおりの電話での出欠確認を行っている学校も多い。話を聞いた教員の学校も、そのひとつというわけだ。

「学校の回線は2本しかありません。体調の悪い生徒が多いと、朝の限られた時間に電話が集中することになります。繋がらないものも多いので、授業が始まりそうになっても全員の出欠確認がとれない状態が続いて、それだけ教員の負担は重くなります」

 そして、その教員は「せめて、もう1本回線を増やして欲しいんですが、教育委員会にはその気はないようです」と続けた。

 そこの教育委員会が教員の働き方改革に無関心かといえば、そんなことはない。「働き方の改善について、いろいろ考えてくれてはいます」と、先の教員。彼が続ける。

「たとえば、教員が電話対応で勤務時間が長くなってしまわないように、学校で電話を受ける時間の制限を教育委員会で決めてくれました」

 その時間外であれば、もしも学校に教員が残っていたとしても対応する必要はないそうだ。教育委員会が決めていることなので、保護者も納得しているそうだ。

 とはいえ、時間外でも大事な要件の連絡もあるはずだ。そうしたときのために、留守番電話になっていれば便利にちがいない。連絡がつかなかった処理をあとでするよりも、とりあえず要件を把握しておくことで処理が早くなる可能性はある。それを訊ねたら、その教員は笑いながら言った。

「学校から教育委員会に要求はしたみたいですが、『無理』と言われたようです」

 教員の働き方改革と本気で取り組むのであれば、電話回線を増やしたり、留守番電話を設置するくらいのことはやってもいいのではないだろうか。にもかかわらず、「無理」のひとことで片付けられてしまうのだ。

 退校時間を早めるなど、おカネをかけずに教員の努力でやれることには積極的に取り組もうとする。ところが、少しでもおカネがかかるとなれば、極端に消極的になってします。それが、教育委員会もふくめた行政の姿だ。

 教員の働き方改革を前進させるには、おカネをかけることも必要である。少しの出費にも弱腰で口先だけの働き方改革では、学校が働きやすい環境になる日は遠い。教員の働き方改革が言葉としてはさかんに飛び交ってはいるが、教員は疲弊していくばかりだ。まず必要なの、改革にはお金が必要という意識改革かもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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