■財務省との戦場が決まった

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)対策で急浮上してきたのが、少人数学級である。公立小中学校で現在の学級上限は40人(小1だけは35人)だが、これでは新型コロナ対策で必要とされている3密(密閉、密集、密接)を避けるにはほど遠い。そのリスクを回避するには、少人数学級を早急に実現することが必要というわけだ。

 しかし、少人数学級が必要とされるのは、それだけではない。40人学級では、子ども一人に教員が割ける時間は少なすぎる。それでも学級全体を相手にするのでは教員の負担が大きすぎるし、指導にも支障がある。子ども一人ひとりに目配りのできる指導を実現するためには、40人の上限は早急に変更しなければならない。

 そこで来年度の予算編成に向けて文科省は、学級人数の上限を早急に実現するための予算要求を行っているのだが、そこには財務省という大きな壁が立ちふさがっている。少人数学級を実現するためには教員の数を増やす必要があり、それにともなう国の支出増を財務省は嫌っているのだ。

 文科省は来年度予算の概算要求で、少人数学級実現のために「事項要求」として予算請求に盛り込んでいる。具体的な目標を挙げず、必要額も示さないのが事項要求だ。これでは文科省が目指す少人数学級が、35人なのか30人なのか、または学校現場からは要望が強まっている20人なのか、はっきりしていない。これでは財務省も本気で対応する気になれないだろう。つまり、腰の引けた姿勢でしかないのだ。

 ところが11月13日の閣議後記者会見で、萩生田光一文科相が「30人学級を目指すべきだと考えている」と述べた。文科省として来年度予算で目指すべき目標が、「30人学級」であることを公に明らかにしたのだ。

 30人学級を実現するためには、いったい、いくらくらいの予算が必要になるのか。

 萩生田文科相が「30人学級」を公言したのと同じ日、市民団体「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」(小宮幸夫会長)が文科省内で記者会見を開き、少人数学級実現に必要な予算についての試算結果を明らかにした。

 その試算によれば、「30人学級」を実現するために必要な予算額は、国と地方を合わせて5087億円となる。これは年間額であり、1回かぎりの支出で済む話ではない。「30人学級」の導入が決まれば、毎年、これだけの予算が必要になってくる。小さな額ではなく、だからこそ財務省も必死に反対するわけだ。

■文科省と財務省の質が問われる非正規問題

 さらに、この試算額には現在の非正規教員を正規化するために必要な費用も含まれている。教員にかかる予算を安上がりにするため、非正規教員は増える傾向にある。正規教員1人を雇う予算で非正規なら2人を雇うことも可能であり、人件費を抑えるために教育現場でも非正規を増やそうとしているのだ。一般企業でパートやアルバイトを増やしてコストを抑えようとしているのと同じことが、教育現場でも起きていることになる。

 しかし非正規教員は、働き方だけは「正規並み」を強要されている。非正規でありながらクラス担任をさせられている例も珍しくない。飲食店でアルバイトに店長をやらせるようなものだ。

 いわば、「不当」な働き方をさせられているのだ。これでは働く側のモチベーションが上がるわけがない。それが維持できているのは、非正規教員が負担に耐えているからにほかならない。これで続くはずがない。それが、子どもたちにも良い影響を与えないのは言うまでもない。子どもたちのためにも、非正規教員を正規化する必要があるのだ。

「30人学級」を実現し、しかも質のともなった少人数学級を実現するためには、非正規教員の正規化も同時に考える必要があるのだ。それには、5000億円以上の予算が必要になる。

 ただ、予算を抑えようとすれば、逆に非正規教員を増やすことで「30人学級」を実現することも可能だ。財務省に妥協してもらうには、文科省としては「楽」な方法かもしれない。

 しかし、それでは「質」を考えないで、「30人学級」というカタチを整えたにすぎないことになる。財務省に負けたことにしかならない。

 文科省が教育の価値を重視するなら、教育の質をともなった「30人学級」にしなければならない。それには、非正規教員を正規化することも含めての「30人学級」でなければならないはずだ。

「30人学級」をめぐる今後の財務省との折衝では、萩生田文科相と文科省の教育に対する姿勢そのものが問われることになる。もちろん、財務省の姿勢も問われていることも忘れてはならない。