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「校則のない学校」が教える校則のなくし方

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 校則をめぐる論議が盛り上がっている。寒くてもマフラーを禁止したり、靴下の色は白と決められたり、頭髪の色や長さ、はたまた下着の色までもが校則で決められたりしている。これだけ並べてみただけでも、「変だ」としかおもえない。

 そして8月23日には、学校現場での不合理な校則やルールをなくすことなどを目指してきた有志の集まりである「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」が、「ブラック校則」をなくそうと募ってきた署名6万筆以上を、柴山昌彦文科相宛に提出した。各教育委員会や学校にも、校則の見直しを求めた。

 これが、意味のない校則が消えていくきっかけにつながることを期待したい。一方で心配なのは、「校則なら、なんでもかんでも廃止しろ」という単純な流れになっていきかねないことだ。

「校則のない学校」として拙著『学校の面白いを歩いてみた~公立だってどんどん変わる~』で紹介した世田谷区立桜丘中学の西郷孝彦校長は、「理由が分からないのに校則で決めること自体がおかしい」といっていた。理由も分からないのに教員は、「校則だからダメだ」と子どもを叱りつけるのだ。まさに、「頭ごなし」でしかない。それでは、教員と子どもたちのあいだの信頼関係を壊すことにしかならない。

「校則のない学校」を紹介した『学校の面白いを歩いてみた』:著者撮影
「校則のない学校」を紹介した『学校の面白いを歩いてみた』:著者撮影

「なんでもかんでも校則はなくせ」と、西郷校長がいっているわけではない。桜丘中学では、ひとつひとつの校則について、理由があるのか、説明して子どもたちが納得できるのか、と議論を重ねていったというのだ。その結果、桜丘中学では校則がなくなった。どれも理由が分からないし、子どもたちが納得するものではなかったからである。

 校則が問題になっている現在、この桜丘中学の姿勢を見習う必要がありそうだ。廃止か存続か、単純な議論をするのではなく、「理由」を徹底的に考えて議論してみることが大事なのではないだろうか。教員が理由を理解したうえでの校則であれば、それを楯にしての「頭ごなし」の指導にはならない。説明すればいいからだ。

 もしかしたら、その議論には子どもたちも入ってくるかもしれない。互いの考えを一方的に主張するのではなく、ちゃんとした議論をすればいい。まさに「主体的・対話的で深い学び」の場である。

 校則の見直しは、大人の子どもに対する「頭ごなし」の見直しでもある。そして、大人にとっても子どもにとっても、「主体的・対話的で深い学び」を実践できる機会でもある。

 たいした議論もせずに「廃止か存続か」といった結論を急ぐのではなく、前向きな議論につながっていけばいい、と切におもう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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