非正規を固定化するだけで絵に描いた餅でしかない「同一労働同一賃金ガイドライン案」
12月20日に政府は、働き方改革実現会議を開き、非正規労働者と正規労働者の待遇格差を是正するための「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)案」を示した。非正規と正規で賃金に差をつける場合と差をつけない場合とを政府が初めて具体的に示したもの、と報じられている。
同時に、ほんとうに格差是正が実現するかについては、疑問視する見方が多いようだ。実現会議に出席した経団連の榊原定征会長も、指針案について「妥当な内容」としながらも、「施行にあたっては産業界のほうで相当準備期間が必要になる」と語っている。つまり、「正論だが実現は難しいよ」と言っているにすぎない。
同一労働同一賃金を本気で実現するなら、非正規と正規という枠組みを撤廃するしかない。同じ仕事なら非正規も正規も関係ないわけだし、同じ仕事に対して同様の賃金を払うのは当然すぎることだ。非正規と正規に分ける必要などない。
「指針」を示さなくてはならないのは、非正規と正規に分ける前提を変えるつもりがないからだ。「指針」を示すということは、非正規と正規を固定化しようとしているからにほかならない。
企業が非正規を雇うのは、賃金を低く抑えたいためである。だから企業は、非正規をなくして正規だけにするつもりはないし、むしろ正規を減らして非正規を増やしたいのが本音である。
「指針」をつくることは、非正規雇用を固定化することにほかならない。では、なぜ産業界の代表である榊原会長が「難しいよ」と言うのか。
それは、「同一賃金」にされるのが困るからだ。例えば「指針」では、基本給を同一にしなければならない場合を「経験や能力、実績などが同じ」としている。現在は、経験や能力、実績があっても、採用が非正規なら正規より低い賃金に抑えられている。「指針」をそのまま実施すれば、企業にとっては賃金コストアップとなって好ましくない。だからこそ、榊原会長は「難しいよ」と答えるしかない。
産業界にとって「指針」は、非正規を固定化するには好ましい政府の姿勢であっても、厳密に実施されると困る、という存在のようだ。非正規を増やすことで賃金コストを抑えるためには、非正規と正規の枠組みを固定化しながら、「同一賃金」はあやふやにしたいのが産業界の本音である。
それには「指針」は非正規を認める政府の姿勢を明らかにしただけでじゅうぶんであり、厳密な実行までにはもっていきたくない。だから、榊原会長の言うように「産業界のほうで相当準備期間が必要になる」わけだ。「指針」は非正規を固定化するだけで、同一賃金については「絵に描いた餅」になる。