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G20大阪サミットの注目点:「共同声明」より各国の二国間会議、難しいかじ取りの日本

前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授
まもなく開催するG20大阪サミット。警備に余念がない。(写真:ロイター/アフロ)

 大阪市で28、29日に開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に文字通り、世界の注目が集まっている。G20大阪サミットの注目点を考えてみた。

(1)注目点

 米中首脳会談、日米首脳会談、米露首脳会談、日韓首脳会談(日韓に関しては有無を含めて)などの二か国間の交渉だが、全体として、議長国日本がリーダーシップを印象付け、どれだけ光るような存在となれるのかに注目したい。

 そもそもG20がG20としての各国共通の議論(例えば自由貿易体制の堅持など)ができなくなっているのは、トランプ氏の登場以降の「アメリカの変質」が直接間接要因であり、今回も「壊し屋」的な動きが見えるだろう。その背景に中国の台頭があるのは言うまでもない。安全保障、対中、対イランなどでの欧州とアメリカとの温度差にも注目したい。イランの場合には、核合意締結の米英仏独中露の6カ国、欧州連合がすべてそろう絶好の機会でもある。

 日本としては同盟国であるアメリカに寄り添いながら、米中いずれも抑えながら、どれだけ全体の議論をさせることが可能なのか。想像しただけでも難しいのだが、安倍首相の手腕に期待したい。

(2)二国間交渉

 米中、日米、米露、日韓、日露、中露、サウジと露・中・欧州など、今回の二か国間交渉は各国のおかれている立場や思惑が大きく異なり、実に興味深い。

 その中でも世界が注目するのはやはり米中首脳会談だ。対中貿易摩擦、南シナ海の海洋安全保障問題、北朝鮮問題、イラン問題、民主主義と人権(香港、ウイグルなど)などが話し合われるだろう。貿易摩擦・関税に関して進展があるかどうかは、なかなか難しいところ。大きな合意もないわけではないが、直近の動きをみるとなかなか難しいというのが現状かもしれない。

 一方でこれまでの米中首脳会談がそうであったように、トランプ氏は習近平氏と直接会う際には必ず習氏の面子を立てる傾向にある。景気への影響やトップが合うということでアメリカ側が計画している「第4段関税」の一時延期や農産物などの比較的小さな合意はあるかもしれない。また、民主主義と人権についてはどこまで突っ込んだ話となるかが注目される。

 トランプ大統領にとっては、米中首脳会談を含めて、様々なアメリカ関連の政策を動かす大きな機会である。ちょうどアメリカ国内では2020年大統領選挙の民主党予備選討論会の開始と重なり、アメリカ国内メディアの注目がそちらに一気に集中する中、外交手腕を見せつけたいところである。

 習近平氏にとってもロシアとの関係だけでなく、欧州などとの関係を通じて、アメリカに対抗する協力関係を各国と作る基盤としたいはずである。

 また、米露首脳会談も今後の世界を占う意味で重要だ。8月に失効する見通しのINF全廃条約に代わる新たな枠組みや、21年に期限切れとなる新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題、ベネズエラ情勢、イラン情勢などもロシアがらみであるのはいうまでもない。2016年と同じようなアメリカの2020年選挙の際にソーシャルメディアに偽情報を流すなどの組織的な介入をする可能性もある。こちらにアメリカが釘差しをするかどうかが、アメリカ国内的には大きな問題といえる。

(3)日米首脳会談

 安倍首相はこれまでG20を強く意識してしてきた。G20こそ、米露、イランなどの積極的な外交の総仕上げとなるはずだった(たとえば北方領土問題を含む平和条約交渉など)。ただいずれも直接的な成果につながったとはいいきれない。

 日米首脳会談では、北朝鮮、中国への対応、イラン問題、貿易摩擦など広範に議論されるだろう。トランプ大統領が日米安全保障の破棄を示唆したと一部報道についてもG20に潜在的に影を残す形となっている。インド太平洋戦略に代表される中国への包囲網などは日本が核となるため、日米同盟は欠かせないという日米の政府の公式見解とは異なり、日米安保の破棄や米軍撤退などをちらつかせて、揺さぶりをかけたいのがトランプ氏の狙いのようにみえる。ここ2日間の安保破棄についての言及報道で日本の世論はどうしてもざわざわしており、G20にもなんとなくの影ができている。ただ、これこそトランプ氏の狙い通りなのかと思われる。

(4)議長国・日本

 そもそも今回は特に議長国としては難しいかじ取りである。例えば、共同声明には何を盛り込むかも難しい。「保護主義に対抗」「気候変動対策」とした場合、アメリカに猛反発を受けるだろう。「WTO改革」を前面におけば、中国の強い反対が予想される。

 結局、共同宣言に盛り込まれるのは、巨大IT企業の租税回避、オフショア課税、海洋プラスチック問題など個別課題になるのかと想像される。どれも重要な問題であるのは言うまでもない。自由なデータのやりとりをするためのルールの「大阪トラック」の作成を目指すといわれている。ただ、自由貿易や世界経済浮揚、大きなグローバルイッシューを議論するはずのG20としては、争点の大きさとしてはやや小ぶりであるのは否めない。

 いずれにしろ、G20をきっかけにすでに大きく動いている大国間の攻防がさらに加速していく、そんなきっかけになるのは間違いない。

上智大学総合グローバル学部教授

専門はアメリカ現代政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版,2011年)、『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著,東信堂,2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)等。

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