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中間選挙後のアメリカ政治を展望する:共和党は猛反撃だが、膠着する2年間

前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授
ジョージア州での期日前投票(写真:ロイター/アフロ)

 (日本時間11月20日加筆)この記事は中間選挙直前の6日にまとめたものだが、選挙結果は下院は共和党が辛勝(20日現在、民主党212議席,共和党218議席、未定5議席)、上院は民主党が50議席で多数派維持(未定1)となった。

 記事で書いたように下院は共和党が多数派を奪還し、上院は接戦だったが、民主党から見れば「想定されていた最善の負け方」、一方、共和党からすれば「お通夜のような勝利」となった。選挙直日の7日にトランプ前大統領の「15日に重大発表をする」という演説が民主党支持者の危機感に火をつけたとみられる。

 いずれにしろ、来年1月からはこの記事で分析した分割政府の2年間が始まる。バイデン政権にとっては大きな転機となる。

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 中間選挙の結果を受け、上下両院のいずれかで共和党が多数派となった場合、新しい議会がスタートする来年1月からは政治の流れが大きく変わる。本稿は中間選挙の後のアメリカの様々な変化を展望する。

大統領にとっては鬼門中の鬼門

 過去のほとんどの大統領の政党はほぼ確実に議席を減らすのが中間選挙である。中間選挙の場合、投票率が低いのが何よりもポイントだ。中間選挙の投票率は前回の2018年は50%で、これはほぼ100年ぶりの高い数字であり、40%に到達しないことも多い。大統領選挙の投票率は例えば2020年には65%に達しており、その差は大きい。

 民主党支持者が3割、共和党支持者が3割、無党派3割で党派性が強ければ強いほど選挙に行く。それもあって大統領選挙は無党派の獲得が雌雄を決するが、中間選挙はコアな支持層をいかに棄権させないのかがポイントとなる。

 その中で現状に強い怒りを持つ、大統領の対立党の支持者が投票所に向かう数が大統領の政党の支持者よりも多いのが中間選挙の常識である。

 大統領にとってはまさしく鬼門中の鬼門でしかない。

 例えば、1994年のクリントン政権は下院で54議席減。2010年のオバマ政権は63議席も減らした。2018年のトランプ政権も40議席減だった。

 例外は、2002年のブッシュ政権でこのときは「テロとの戦い」の中での選挙となり、上下両院ともブッシュ大統領の共和党が議席を増やした。ただ、これは1854年の民主党と共和党の二大政党となって以来、たった2度目しかない。もう一度は1934年のルーズベルト大統領のときで世界恐慌からの回復時であるとともに、第二次大戦の影が既に広がっていた。つまり、例外は恐慌か戦争しかない。

 このように「中間選挙は大統領の中間テスト」という感覚は実態とは大きくかけ離れている。記事の見出しなどにある「バイデン政権に審判」というのは一見して分かりやすそうで、実態は「審判」を行うのは対立党である共和党支持者にだけ当てはまることでしかない。民主党支持者は「審判」をするというよりも、投票するかしないかという選択になる。

 バイデンはそれを見越して公約のほとんどを民主党主導議会と協力し実現した。それでも民主党の負けはほぼ確定しているようなものだ。

分割政府必至

 この原稿を書いている11月7日の段階で各種世論調査では下院(任期2年、435議席、全改選)は共和党が半数を超え多数派を奪還するのがほぼ確実視されている。現在の下院の民主党と共和党の差はわずか8議席差でしかない。第二次大戦後20の中間選挙で大統領の政党は平均して下院で26議席を失っている。そう考えると多数派が変わらないのがむしろおかしい。

 一方、上院(任期6年)の多数派争いは微妙だ。上院は100議席中、今回の中間選挙では35議席が改選であり、共和党候補がその半数以上の議席を勝ち取る見込みが高い。ただ、そもそも6年前の2016年の選挙では共和党側が優勢だったこともあり、35議席の中の半数を超える21が共和党の議席だ。現在、上院は民主党と共和党が50対50で並んでいるが、共和党が改選分だけでなく、上院全体の過半数を取るためには22議席を取らないといけない。

 ただ、下院で共和党が多数派を奪還となるだけでも、新しい議会がスタートする来年1月からは政治の流れが大きく変わる。

 アメリカの場合、大統領の政党と、上下両院の多数派の政党が一つでも異なることを「分割政府」という。日本では「ねじれ」という言葉がよく使われるが、日本の上下両院よりもねじれる対象が3つある分、簡単にねじれてしまう。

「立場がかけ離れていて数的に競っている」状態

 現在は、分極化現象が進み、アメリカの歴史の中でも南北戦争時に匹敵するほど党派対立が激しくなっている。しかも、現在の下院8議席差、上院差なし(副大統領が1票を投じるため民主党が多数派)という大僅差が示す通り、「立場がかけ離れていて数的に競っている」状態である。

 想像してみれば、すぐにわかる。

「立場がかけ離れていて数的に競っている」状態で「ねじれてしまう」場合には、議論が対立し、物事は全く進まない。

 2年ぶりの分割政府に戻ることで、どうしようもないような政治的な膠着状態に陥ることが考えられる。

下院での共和党の猛反撃

 下院ではバイデン政権が進めてきた一連の「大きな政府」的な政策のベクトルを共和党側は一気に変えようとするであろう。所得再分配的な政策の財源捻出のため富裕層や大企業への課税が民主党議会で進んだが、「無駄遣い」「財政均衡」という共和党側の激しい反撃が続く。減税や規制緩和など、バイデン政権の政策の流れと真逆の内容の法案を共和党側が次々に提出していくであろう。

 バイデン政権の公約の一つだった子育て・教育支援、気候変動対策などの政策はこれまで立法化した以上のものは全く動かなくなる。鳴り物入りだが、議会を通さず大統領令で進めた大学の教育ローンの徳政令の予算も付かないかもしれない。過去2年の一連の「大きな政府」的な政策は完全にストップしていく。下院の委員会で議論されていた反トラストの観点からのビッグテック(GAFAM)解体といった議論も止まる。

上院でのストップ

 しかし、このような様々な動きは上院でほぼすべてが止まってしまうはずだ。共和党がたとえ上院で多数派となっても同じである。単純過半数で決まる下院とは異なり、41票があれば59票の審議をいつでも止めることができるフィリバスター(合法的議事妨害)という制度が上院にはあるためだ。

 フィリバスターを止める「クローチャー」のためには60票がないと難しいが、共和党側が選挙結果で60議席に達するのは難しい。

 アメリカの場合には党議拘束がない。そのため、民主党からの離反を得て、60票以上を集めることができるかもしれない。

 しかし、それでも最後にはバイデン大統領というラスボスがいる。上下両院を通過しても大統領の署名がなければ法案は成立しない。大統領の拒否(拒否権=ビート)を覆すためには上下両院いずれも3分の2の賛成が必要だが、分極化の時代、それはどう考えてもありえない。

 バイデン弾劾も下院では過半数で上院に訴追できるが、上院での裁判の評決には3分の2の賛成が必要だ。アメリカの歴史で大統領の弾劾訴追は4回(南北戦争時のジョンソン、クリントン、トランプの2回)あるが、いずれも上院で3分の2の賛成は集まらなかった。

 つまり、下院で共和党は猛反撃するが上院、もしくは大統領のところで全く無力化されていく。

膠着するいつものパターン

 アメリカ政治に詳しい読者にとっては、どこかで何度か聞いた話だろう。

 1994年の中間選挙まではクリントン大統領、上下両院の多数派が民主党と民主党の統一政府だったが、選挙で上下両院が一気に共和党が多数派になった。特に下院の方は52年ぶりに共和党が多数派に復帰した。この大躍進を支えたギングリッチは下院議長になり、規制緩和や減税などの多数の法案を迅速に下院で通したが、上院でほとんどが阻止された。

 最近でもオバマ政権、トランプ政権のいずれも最初の中間選挙で統一政府から分割政府に転落し、対立党の猛反撃を受けたが、上院でその動きは止まった。

 ただ、クリントンにしろ、オバマにしろ、トランプにしろ、それぞれの政権の進めたい政策のほとんどは分割政府になることで全く動かなかった。このうち、クリントンとオバマは再選されたが、分割政府が続いたため、その後の政策は膠着状態だった。

 「オバマは何もしなかった」という、よく日本の保守派が言うせりふがある。これは間違いではない。ただ、最初の統一政府の2年間で大型景気刺激策、ウォール街改革、オバマケアと30年に一度といえるような大型の法案を上下両院の民主党多数派議会と進めたため、正確に言えば「中間選挙後の6年は分割政府になり、何もできなくなった」となる。

動かない政策

 バイデン政権が力を入れてきた各種の気候変動対策が止まることは、国際社会に協力を強く訴えてきたため、日本や欧州への国際的な衝撃も大きい。中間選挙で共和党が少なくとも下院を奪還すると新しい気候変動対策関連の法案はほぼ動かなくなる。政権側ができることは過去の根拠法を使って気候変動対策を行うことに限られるが、ただ最高裁は6月、大気浄化法をめぐり、環境保護庁規制を厳格に制限する判決を示したばかりである。この判決は発電所からの炭素ガス排出規制だったが、簡単に言えば「古い法律に明白に書いていないことは実行不可能」という判断だった。

 環境保護局は11月はじめ、大型トラックなど大型車向けの温室効果ガス排出規制を来年中に強化する計画を明らかにしたが、これなどは他の根拠法などを準備しないと同じように司法に覆される可能性もある。

 経済については、「インフレ+景気後退」というスタグフレーションが始まっているという見方も少なくない。ただ、インフレはそもそも政治がコントロールすることは難しい。サプライチェーンの破綻状況がいずれ収まっていけば、インフレは解消し、FRBは利上げをやめる。ドル高一辺倒も変わっていくだろう。

 一方でバイデン政権で進んだ所得再分配的な政策、増税、規制強化がこれ以上進まないとみれば停滞することを好ましく思う層もいるだろう。特に日本を含む金融セクターなどは好ましい停滞とみる見方もあるだろう。

 また、2021年1月6日の議会襲撃をめぐる下院の調査は共和党が主導権を握ることになり、トーンは大きく変わる。トランプ前大統領の関与についてのさらなる展開があるか、見えなくなる。

 逆にバイデン大統領の息子のハンターのウクライナでの事業についての脱税疑惑などの追及も下院で本格的に始まっていく。バイデン大統領の自身の関与について、弾劾訴追も下院で動いていく可能性もかなりある。

 そもそも、民主党支持者の95%に対し、共和党支持者の3分の1しか「バイデンは正統に選ばれている」と思っていないという驚きの最新の世論調査もある。

選挙否定派の動き

 各州の選挙結果を確定させる州知事や州務長官のうち、さらに中間選挙で勝利した複数の激戦州の州知事や州務長官が「2020年選挙は不当だ」と声高に叫ぶだろいう。その意味で中間選挙の結果が民主主義に与える影響は深刻だ。

 アリゾナ州は選挙否定派の震源地と言える州であり、州務長官に立候補している共和党候補のマーク・フィンチェムは2021年1月6日の連邦議会襲撃に加わった過激派グループ「オースキーパー(誓いの番人)」のメンバーだ。

 また、選挙否定派の共和党のミシガン州州務長官候補であるクリスティナ・カラモは2020年に「議事堂を襲撃したのは実はトランプ支持者ではなく、トランプ支持者を装ったアナーキストのアンチファだ」という主張で一躍有名になった。

 ネバダ州でも選挙否定派のジム・マーチャントが州務長官選挙で勝利する可能性が高いと言われている。マーチャントは「不正の温床である」とする期日前投票や電子パネル式の投票の廃止を訴えている。

 この3州の結果がどうなるか。大いに注目される。

大統領が唯一動けるのが外交安全保障

 一方で大統領にとって専有案件である外交安全保障は議会からの制約を受けにくい。大統領が進めやすい、はっきり言えばそれくらいしか動けないのが、外交安全保障政策である。

 分割政府後のオバマ政権はイラン核合意、TPPを進め、トランプ政権は対中強硬策を次々に展開し、イラン包囲網を築くためのイスラエルとアラブ諸国の関係改善である「アブラハム合意」なども進めた。

 バイデン政権も同じように外交や安全保障政策を進めるとみられる。最大の外交安全保障の課題である対中政策などは進んでいく。安全保障でも貿易でも中国の力ずくの現状変更の動きをさらに強く牽制するように舵を切るであろう。

 もし、万一、台湾有事となった場合にも上院外交委員会がまとめている「台湾政策法案」などに基づいて、当面は強く関与することになる。

 ただ、バイデンの場合、前の2人の大統領とは大きく状況が異なるかもしれない。というのも、予算を握っているのがあくまでも議会であり、ロシアのウクライナ侵略から既に8カ月以上たち、今後戦況を大きく変えるのは、ウクライナ支援予算の継続的な議会側の拠出だからだ。外交交渉などを通じたロシアへの制裁強化などを除けば、ウクライナ支援で大統領ができるのはその立法を運用する部分に限定される。

 下院共和党が多数派となった場合、下院議長になる確率が高いマッカーシー院内総務は既に「アメリカ国民は不況にあえぎ、ウクライナに白紙委任状を出すことはないだろう」「ウクライナは重要だが、同時にそれだけではいけないし、白紙委任状でもいけない」とアメリカ第一主義への回帰を予告している。

 これをもって共和党が多数派を取ったらウクライナ支援の増額要請が直ぐに困難になるわけではない。少なくとも23年9月末までのウクライナ追加支援123億ドルは議会が決めている。

 ただ、ロシアのウクライナ侵攻以来、米国はすでに600億ドル以上の経済・軍事支援を行い、その額から考えても何度か継続的に追加が必要となるが、その行方がこれまでよりも見通しが悪くなるのは間違いない。

 ロシアの侵略から8カ月以上たったが、その間、連邦議会でのウクライナ支援は、両院で圧倒的な超党派の多数派を獲得してきた。ただ、圧倒的と言っても反対者は一定程度はいる。その全てが共和党の議員だった。

 共和党議員の大多数やそもそもアメリカ国民の半数以上がまだ、ウクライナ支援に積極的なのでまだ分からないが、中間選挙後の「敵か味方か」の言説の中、アメリカ第一主義の声が予想よりも大きくなっていく可能性もある。

2024年に向けて

 ところで、分割政府になっても次の大統領選挙への影響は極めて限定的だ。投票率が戻る大統領選挙では、分極化でさらに僅差であるため、大統領の政党の支持者もしっかり投票に行く。中間選挙で自党の議席を大きく減らしても再選は可能であるという構造がある。

 クリントンやオバマが再選し、トランプは負けたが大接戦だったのは記憶に新しい。

 民主党は、バイデン大統領が高齢であるため出馬しない可能性があり、その場合、ハリス副大統領、ブティジェッジ運輸長官、ニューサム・カリフォルニア州知事、年齢的にはようやく被選挙権を持つ、左派のホープのオカシオコルテス下院議員が候補となる可能性がある。

 共和党は、トランプ前大統領も同じく高齢であるため、デサンティス・フロリダ州知事、アボット・テキサス州知事、ポンぺオ前国務長官、ヘイリー元国連大使も候補として考えられる。このほか、ペンス前副大統領、リズ・チェイニー下院議員、メリーランド州知事のホーガンあたりがトランプとは一線を画す候補として出馬する可能性もある。

 このうち、トランプ前大統領は14日にも出馬する可能性をほのめかしている。

 確かに早めに出馬すればそれだけ注目を集めることができる。これまで集めた献金は他の候補を応援するための政治団体のものだったが、出馬で支持者からの献金も潤沢になる。

 年齢的にも40歳台で保守派の次世代のエースとみられるデサンティスを筆頭に、他の共和党候補の立候補も未然に防ぐことができるという選挙戦略上のメリットもある。さらに中間選挙後に予想される司法省の訴追についても「大統領を弾劾できるのは議会であって、大統領選挙に出馬中の人物を司法手続きに乗せることができるのか」などと牽制するという意味もある。ただ、それを許していいのかという議論も当然ある。

 近年、分極化が進み、民主党と共和党の支持者の割合が拮抗していることから、次回2024年の大統領選挙は誰が候補となっても接戦となることが予想される。

 一方で上述の「2020年選挙は不当だ」と主張する激戦州の州知事や州務長官の存在がさらに大きくなる。民主党候補の勝利の確定を拒否する可能性が現実味を帯びていく。2024年選挙は今年の中間選挙の結果に大きく左右されることになる。

 いずれにしろ、中間選挙が終われば、すぐに大統領選挙だ。それがアメリカ政治のサイクルである。

上智大学総合グローバル学部教授

専門はアメリカ現代政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版,2011年)、『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著,東信堂,2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)等。

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