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日米首脳会談 4つのポイント

前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授
大統領就任後の初のアジア歴訪に出発するバイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)

 中国の現状変更の動きが加速する中、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核・ミサイル開発が急ピッチで進むという極めて重要なタイミングで日米首脳会談が開かれる。そのポイントを4つ挙げたい。

(1)危機を想定した日米同盟の再確認

 まず、何といっても安全保障が大きなテーマとなる。日本をめぐる安全保障環境の急激な悪化を受け、同盟国の存在の重要性の再確認がこれほど重要になる日米首脳会談はない。米国の「核の傘」で日本を守る方針継続の確認は当然のことだが、もし、日本で話題となっている核シェアリングなどの話にも言及があるかどうかにも注目したい。

 ウクライナの情勢を見ても自らの防衛が非常に重要である。尖閣などの日本の領土がもし攻撃されたらアメリカへの支援要請の前に日本として最大限に動いておく必要がある。反撃能力(敵基地攻撃)やミサイル防衛、原潜などの監視など、日本の安全保障を守ることは、アメリカのインド太平洋戦略を強化することにつながる。このような日本の具体的な取り組みがどれだけ明示されるのかも日米首脳会談のポイントにもある。

(2)対中戦略でのすり合わせ

 また、対中戦略でのすり合わせもポイントとなる。

 ロシアによるウクライナ侵攻で欧州に気をとられ、アジア太平洋に十分集中できなくなる事態が懸念されている。これについてはアメリカ側は強く否定し、アメリカの長期的な最大の関心事は中国の現状変更の動きであることを何度も強調してきた。

 その流れで首脳会談の後の首脳声明に「日米で中国を共同抑止」を目指すといったかなり突っ込んだ表現が入る可能性も既に議論されている。「日米共同抑止」の一環として、中国の核軍縮を求める言葉も共同声明に入ってくる報道もすでに出ている。

 実際は「日米共同抑止」であってもこれまでの日米首脳声明の中国についての表現はかなり抑制的で「インド太平洋の安定を目指すため、中国に現状変更の動きをしないように日米両国は協力する」といった程度の文言だった。

 例えば、昨年4月のバイデン大統領と菅首相との日米首脳会談の結果を受けての首脳共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と台湾への言及が声明に入ってきたのが目新しかったものの、中国に対しては次のような表現にとどまっていた。

「日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」

 今回、これがどう変わっていくのかも注目したい。また、アメリカによる「核の傘」で日本が守られながら、中国には核軍縮を求めるという矛盾ともいえる姿勢をどのように表現するのかも注視したい。

 また、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が日本にも事務所などの拠点を作ることも首脳会談に合わせて検討されていると報じられている。このあたりは中国発の第二、第三のコロナの可能性を考えると重要であり、専制国家である中国でなく、同盟国で価値観を共有できる日本をアジアの拠点とし、中国の動向を監視する狙いもあろう。

 アメリカ国内の新型コロナウイルスの死者は100万人を超えている。感染対応は安全保障の問題でもあることをアメリカは痛烈に感じている。

(3)経済安保の仕組みの強化:クアッド、IPEF

 首脳会談では安全保障を超えた経済安保の仕組みへの言及にも注目される。

 両首脳は日米豪印の「Quad(クアッド)」の首脳会談にも臨む。

 クアッドについては、インドの微妙な立場の違いがやはり大きく、インドをどう巻き込むのかが最大の焦点となる。ウクライナ侵攻があってもロシアからの原油輸入の状況は変わらず、そもそもインドは武器の半分をロシアから購入している。先日はウクライナ避難民支援のための自衛隊機派遣計画に関し、インドは人道支援物資の積み込み拠点となっていたのだが、自衛隊機の受け入れを拒否した。これは日本政府にとっても衝撃的でもあった。

 今回の会談もインドが参画できる形での議論がやはり中心となる。その中でロシアへの制裁をインドにどれだけ呼びかけることが可能かどうかが大きな焦点となろう。韓国がクアッドに参加する動きもあるが、今回の会談でどれだけ具体的になるかも注目される。

 また、日米首脳会談に合わせ、日米が中心となって新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の設立を表明すると指摘されている。アメリカが主導し、日本や豪州、インド、韓国や東南アジア諸国の参加を見込んではいる。データ流通のルール作りやサプライチェーン(供給網)で連携し、地域包括的経済連携(RCEP)に加わる中国への対抗を念頭に経済圏の構築を目指す。

 バイデン来日の大きな成果物の一つとしての位置づけがIPEFだが、日本側は「ならばTPP復帰を」と考えるのが常だろう。バイデン政権の対日政策関係者と話すと「私もそうは思うが復帰は難しい」という返事ばかりだ。「米国第一主義」の土壌が継続する現在、もし米国市場の開放につながる動きがでれば米国内からの大反対は必至である。

 現実問題としてアメリカ側がTPPに戻るのは相当大変である。アメリカの憲法では通商権限は議会が管轄するが、その権限を議会が大統領に委譲しないといけない。その委譲する「TPA(貿易促進権限)。別名・ファストトラック」が昨年7月1日に失効しており、そこからはじめないといけない。

 このTPAは「政権が交渉・合意した通商協定について、議会は個々の内容を修正せず、実施法案の賛否のみを審議する」というもので、オバマ政権時に非常に難儀をして議会で認めてもらったものだった。NAFTAに代わるUSMCA(アメリカ・カナダ・メキシコ協定)などがあったため、トランプ政権ですら議会に延長を求めたが、バイデン政権は延長すら求めなかった。

 IPEFはTPPのような自由貿易協定でなく、アメリカの市場を開放しないことで関税交渉などもない。議会を通さないという仕組みだ。

 逆に言えば、議会での話を迂回できる最大の妥協策がIPEFであり、中途半端の妥協の産物である。

 参加国にとってのメリットも微妙である。サプライチェーンやデータ流通ルール作りで「米と協力」ぐらいである。米市場へのアクセスが改善されるわけではない。その中でどのような形で各国にIPEFへの参加を呼び掛けることができるのかについての対応も首脳会談での焦点になっている。

 一方、議会側にもバイデン政権の狙いと、TPP復帰の難しさを理解している議員も少なくない。超党派の連邦上院議員52人がバイデン大統領に台湾のIPEF参加を要請した書簡を来日に合わせて送っている。もし、台湾がIPEFに参加することになれば、中国包囲網という色彩が一気に強く出てくる。

(4)ウクライナ支援

 日米両国によるウクライナ支援も大きな議題となる。

 日米両国の世論調査によると、日本のアメリカに対する好感度アメリカの日本に対する好感度もいずれも極めて高い。民主主義や自由主義など同じ価値観の日本にはバイデン政権だけでなく、アメリカ国民からも様々な連携を期待されている。その一環がウクライナ支援である。

 ウクライナ問題への関与はG7の枠組みでの経済制裁の強化を再確認することとなるが、これを超える日本独自の支援も今回の会談の議論に入ってくるだろう。特に戦後のウクライナの平和構築への日本の積極的な関与が期待される。

上智大学総合グローバル学部教授

専門はアメリカ現代政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版,2011年)、『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著,東信堂,2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)等。

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