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鼻は強くかみすぎないで 耳を傷める危険性、医師が教える正しい鼻のかみ方

前田陽平耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医
鼻のかみ方について知っておきましょう(写真:イメージマート)

花粉症の季節がやってきました。花粉症の人は鼻をかむ頻度がぐっと増えるかと思います。そこで今回は、正しい鼻のかみ方を解説します。

「正しい鼻かみ」があるのでしょうか

鼻をかむということは皆さん日常的に行うと思います。医学的に正しい鼻かみについて少し考えてみます。

大事なこととしては「片鼻ずつかむ」ことと、「強くかみすぎない」ことです。

片鼻ずつかむのは効率よくかめることが一番大きい理由かと思います。両鼻一気にかもうとすると十分な圧がかけられません。一方で、強くかみすぎないということもとても大事です。これは、耳を傷めないためです。強く鼻をかむとなぜ耳を傷めるのでしょうか。耳の奥で耳管という管で中耳と鼻はつながっています。(下の図)強く圧をかけると、中耳に圧がかかります。鼓膜にも圧がかかりますので、まれですが、鼓膜が破れてしまうこともあります。また、場合によっては中耳に鼻側から汚いものが入ってしまい、中耳炎を起こしてしまうこともあります。一つの目安として、鼻をかんだときに耳が痛くなるようであれば強くかみすぎであると言えると思います。

耳管を通じて中耳と鼻(鼻咽頭)が交通している 筆者作成
耳管を通じて中耳と鼻(鼻咽頭)が交通している 筆者作成

なぜ鼻をかまないといけないのか

このように、鼻を正しくかむことはとても大切です。そもそも、なぜ鼻をかまないといけないのでしょうか。鼻をかまないと不愉快で鼻をすすってしまうということがあります。鼻をすすると耳管を通じて中耳にも陰圧がかかってしまい、鼓膜がへこんでしまったり、貯留液が溜まったりして、滲出性中耳炎という病気の原因になります。滲出性中耳炎は鼓膜の奥に貯留液が溜まる病気で、耳のつまり感や難聴などの症状を起こします。大人であれば耳のつまり感を自覚するので耳鼻咽喉科に受診しますが、基本的に痛みはないので、子供の場合は耳鼻咽喉科に受診してはじめてわかるということもある病気です。

鼻かみを教えることが必要な場合も多い
鼻かみを教えることが必要な場合も多い写真:イメージマート

お子さんの鼻かみのコツ

お子さんでもきちんと鼻をかんでもらうことは大切です。お子さんに鼻をかんでもらうためには、鼻をすすらずにかむように指導することとともに、鼻をかむ練習が必要になったりもします。たとえば顔にティッシュを当てて片方ずつ鼻を押さえてあげて、鼻をかむように言うことでうまくいく場合もありますが、なかなかコツをつかめないお子さんもいます。その場合に、片鼻にゆるくティッシュを挿入し、逆の鼻を押さえてティッシュを飛ばすようにしてもらう、などの方法も良いのではないかと思います。

鼻をかめないぐらいの低年齢のお子さんでおすすめの「鼻吸引」

では、もっと低年齢の、鼻をかめないお子さんの場合はどうしたらいいでしょうか。この場合には鼻を吸ってあげるといいでしょう。鼻を吸うにはいろいろな方法があります。もちろん耳鼻咽喉科に受診していただいて吸ってもらう場合もありますので、医師から指示があればそれに従ってください。しかし、診療の合間で吸ってあげたい、あるいは受診するほどではないが少し鼻水があるときに吸いたい、というケースもあるかと思います。そのような場合にはご家庭で吸っていただけるといいかと思います。鼻の中に管を入れて大人が口で吸ってあげるような簡易のものでもいいですし、電動吸引器も市販されています。金銭的に許せば電動吸引器の購入も個人的にはおすすめです。また、うまく吸えないときには生理食塩水のスプレーも市販されていますので、こういったものを鼻にスプレーしてから吸引するとうまく吸えることもあります。

ご自宅でできる鼻洗いについて紹介します
ご自宅でできる鼻洗いについて紹介します

ご自宅でできる鼻洗い

また、ご自身で鼻を洗っていただくのも有効な場合が多いです。海外のガイドライン(※1)では、副鼻腔炎に対して安全で効果的な治療の一つとして提示されています。鼻を洗う、鼻洗浄や鼻うがいとも言われたりしますが、何となく痛そう、というイメージを持つ方も多いようです。この痛みは実は浸透圧による部分が大きいのです。簡単にいうと、水道水で洗うと痛いのですが、生理食塩水で洗えば痛くないです。市販の鼻洗い用の器具であれば、水に溶かすための粉が添付や別売されています。これによって、生理食塩水と同じ浸透圧になります。他にも爽快感が得られる成分などが入っていることがありますが、重要な点はこの浸透圧です。いずれにせよ、生理食塩水と同様の浸透圧を得ることで「痛くない鼻洗い」が可能になります。先ほど、お子さんの鼻吸い前に生理食塩水のスプレーを使用するという方法を紹介しましたが、このスプレーも同じ理屈で痛くないのです。さて、さまざまな器具が市販されていますが、鼻から洗浄水(生理食塩水など)を入れて逆の鼻や口から出すことができれば上手に洗えていると考えていいです。鼻腔は一番奥で逆の鼻腔やのどとつながっていますから。

鼻洗いのときに注意すること

時々質問されるのが、鼻洗いをするとその後しばらく経ってから水が垂れてくることがある、というものです。鼻の周りには副鼻腔という空間が広がっていて、ここに水が溜まると後から出てくることになるわけです。ですから、後から水が出てくるのはむしろうまく洗えている証拠、と考えてよいでしょう。鼻洗いの後に強く鼻をかみすぎないことも大事です。

実はアメリカでは水道水を用いずに湯冷ましを用いるように指導されています(※2)。これは水道水の中にはわずかにアメーバが含まれていることがあり、これにより致命的なアメーバ症を起こすことがあるからです。本邦でも、特に免疫抑制状態の方では湯冷ましから洗浄液を作ることを個人的には推奨しています。洗浄用具を清潔にすることも気を付けておく必要があります。

正しく鼻をかむこと、そしてご自宅でセルフケアとしてできる鼻洗い、いずれも鼻の病気を軽くする、あるいは予防に役立つことです。これを機会に知っていただけると幸いです。もちろんセルフケアで治まらない鼻の症状は耳鼻咽喉科でご相談ください。

※1 https://epos2020.com/

※2 https://www.cdc.gov/parasites/naegleria/sinus-rinsing.html

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医

2005年大阪大学医学部医学科卒業。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。医学博士。市中病院勤務、大阪大学医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教を経て現在JCHO大阪病院耳鼻咽喉科部長。雑誌取材・メディア出演多数。臨床・研究の専門領域は鼻副鼻腔疾患・アレルギー疾患・経鼻内視鏡手術など。一般耳鼻咽喉科についても幅広く診療している。耳鼻咽喉科領域や診療に関わる医療情報全般の情報について広くTwitter(フォロワー4万人)などで発信している。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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