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住民の生活道路になっている「私道」に大量の放置自転車 強制撤去できる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 京都大学の近くで飲食店も多い京都市の学生街で、商業ビルなどが所有する「私道」に大量の放置自転車があふれ、生活道路をふさがれた住民らが迷惑を被っているという。

なぜ自転車が放置される?

 報道によると次のような事案であり、私道の所有者や管理者、住民らも打つ手がなく困っているという。

「ビルの駐輪場から自転車があふれだして、道を埋める形になっているため、管理会社は、あちこちに貼り紙をして敷地外に自転車を置かないよう呼びかけていますが、効果はみられません」
「自転車を置いていくのは『近くの飲食店に行くため』など、このビルを利用するわけではない人が大半で、路地が”無料の駐輪場”になってしまっている」
「車いすの人が道路を通れなかったり、救急車が路地に入れなかったりする問題がすでに起きている」「町内には高齢者が多く、火事や地震のときに避難するための経路がふさがれた状態になっていることにも不安を感じている」
「住民やビルの管理者から撤去してほしいという要望はありますが、あくまで『私道』なので、原則、行政が手を出すことはできません」
関西テレビ「newsランナー」5月17日放送

管理会社が移動させたらダメ?

 警察に通報して盗難自転車だと分かれば、警察が証拠品として引き取ってくれる。しかし、そうでない場合、私道の所有者や管理者が自ら対応しなければならないというのが基本だ。

 私道とはいえ私有地だから、通行の邪魔になる場所に停められていれば、その土地の管理権に基づき、邪魔にならないところに少し移動するといった程度のことはできるだろう。それでも、自転車の所有者や使用者が見つけられない場所まで移動したり、勝手に処分したりすれば、損害賠償を請求されるなど、トラブルに巻き込まれるかもしれない。

 現に自動車の例だが、裁判ざたになったこともある。マンションの住民が、マンションの前に3ヶ月にわたって放置駐車していた自動車の持ち主に再三にわたって移動を求めたにもかかわらず、無視されたことから、故意に放置しているとして処分したところ、損害賠償を請求する訴えを起こされた。

 裁判では「やむを得ない特別の事情があった」として請求が棄却されたものの、なぜ簡単に住民側に軍配が上がらなかったかというと、最高裁がこうした「自力救済」と呼ばれる解決策を「原則として法の禁止するところ」と述べているからだ。「緊急やむを得ない特段の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」という。

 そこで、一般には私道の所有者や管理者が「ここは私道です。この自転車の所有者は、直ちに移動してください。指定の期限までに移動しない場合は撤去します」といった警告文を貼り、写真撮影するなどして記録に残したうえで、その期限を経過してから撤去すべきだとされている。

 ただ、それでもトラブルに発展する可能性が残る。裁判を起こし、勝訴判決を得たうえで、法に則った正規の執行手続をとって処分するのが望ましい。地主や管理会社、住民らにとっては理不尽極まりない話だろう。

写真:イメージマート

私道でも強制撤去できる?

 そうすると、直ちに強制撤去するためには、自治体の条例にすがるほかない。京都市自転車等放置防止条例は、京都市が自転車や原付バイクを強制撤去できる場合として、次の3つのケースを挙げている。

(1)「撤去強化区域」に放置されている。
(2) それ以外の「公共の場所」に放置され、その機能に障害が生じている。
(3)「公共の場所」に放置され、京都市によって移動警告の標章が取り付けられた日から7日を経過。

 「公共の場所」とは「国又は地方公共団体が公共の用に供する道路、公園その他の場所」を意味するから、私道だと(2)(3)にはあたらない。これに対し、(1)の「撤去強化区域」とは次の3つだ。

(a) 都市計画法の市街化区域内にある「公共の場所」(第1種・第2種低層住居専用地域を除く)
(b) 自転車等が放置されることにより、機能に障害が生じ、または良好な都市環境が損なわれるおそれがあるとして市長が指定した「公共の場所」
(c) 自転車等が放置されることにより、機能に「著しい」障害が生じ、または良好な都市環境が「著しく」損なわれるおそれがあるとして市長が指定した「公共の場所以外の場所」

 私道は(a)(b)の対象外だが、(c)は「不特定かつ多数の者が利用する道路、公園その他の場所」を意味する。そうすると、私道でも不特定多数の者や車などが自由に通行できる状態であれば道路交通法の「道路」にあたるので、市長は私道の所有者や占有者の同意を得たうえで、(c)の指定を行うことができる。

 全国のほとんどの自治体の条例では私道における放置自転車は強制撤去の対象外とされているから、京都市は良好な都市環境の形成を特に重視しているということになる。今回の私道についても、(c)の「撤去強化区域」として指定されれば、京都市は放置自転車を強制撤去することができる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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