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ノート(187) 基本は「辛抱・仮釈」 仮釈放に向けた手続の流れと実情

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

~工場編(15)

受刑106/384日目

基本は「辛抱・仮釈」

 ここで仮釈放に向けた手続の流れやその実情についてお話ししておきたい。まず、有罪判決が確定して刑の執行が始まると、年令や性別、国籍、罪名、刑期の長さや初めての服役か否か、暴力団関係者か否かなど様々な要素を考慮し、服役する刑務所が決まる。

 担当の刑務官は、各受刑者の日々の生活態度などを踏まえ、成績を付ける。所内のルールに違反せず、ごく当たり前の生活を続けていれば、1か月間に発信できる手紙の通数や面会回数が増えるなど、次第に制限が緩和されていく。その終着点が仮釈放にほかならない。受刑者のインセンティブと化しているわけだ。

 だからこそ、刑務所では、たとえ所内のルールや職員、他の受刑者らの言動を理不尽に感じても、無用のトラブルを起こさず、仮釈放に向けてひたすら辛抱を続けるようにと指導されている。これを獄中用語で「辛抱・仮釈」と呼ぶ。

 「我々が仮釈放に向けた『推薦権』を握っているよ」ということでもなければ、丸腰の刑務官が猛者ぞろいの受刑者をコントロールし、黙って指示に従わせることなど難しいだろう。限られた職員で効率的な運営を行うためにも、特に問題がない受刑者は早く出て行ってもらいたいというのが刑務所の本音だ。

 この点、被害者や遺族からすると、裁判所が宣告した刑期はもちろん、検察側の求刑ですら軽すぎ、到底納得できないはずだ。せめて裁判で科された刑期の最後まで刑務所に服役することで、罪を償うのが当然だと考えることだろう。

 しかし、現実には大半の受刑者が可能な限り早期の仮釈放を希求している。刑務所の「所内生活の心得」にすら、次のように記されているほどだ。

「仮釈放とは、所内での規則をよく守り、作業成績や行状がよく、反省の念が強く、身元引受人が決まっていること、また、出所後の生活設計もできている人について、刑期が満了する前に仮に釈放する制度です」

「刑の執行が開始されると同時に仮釈放を目指してまじめに一生懸命に努力することが大切です」

 罪の償い方として満期釈放が原則だという記載はない。刑務所では月2回の矯正指導日に被害者や遺族の「心の叫び」を録音したインタビュー教材の放送があるが、そのわりには彼らの心情を軽視している。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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