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「へずまりゅう」に執行猶予判決 「保護観察」が付いた重要な意味とは?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:ロイター/アフロ)

 動画配信のため、スーパーで勝手に刺身を食べるなどしたとして、「へずまりゅう」と名乗る元ユーチューバーの男が懲役1年6ヶ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。重要なのは、保護観察が付けられたという点だ。

保護観察が付くとリスクあり

 保護観察とは、保護観察所の保護観察官や地域のボランティアである保護司の指導、支援を受け、社会内で改善や更生を図るという制度だ。

 保護観察の有無を問わず、何ごともなく執行猶予期間を経過すれば、刑務所に服役することがなくなるという点に変わりはない。しかし、保護観察が付いていると、そうでない場合に比べ、本人に次のようなリスクがある。

(1) 執行猶予中に再犯に及び、懲役刑や禁錮刑に処されると、もはや執行猶予はなく、必ず実刑に処される。前の執行猶予も必ず取り消され、長く服役することになる。

(2) 保護観察の際に遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いときは、執行猶予が取り消されることがある。

 現に保護観察が付けられた執行猶予者のうち、約25%が(1)の再犯で、約2%が(2)の遵守事項違反で執行猶予の取り消しに至っている。

 (2)の「遵守すべき事項」には、(a)一般遵守事項と(b)特別遵守事項がある。本人には書面で告知され、遵守の誓約も求められる。

 (a)は対象者全員に共通するものであり、法律に規定されている。例えば、再犯に及ばないように健全な生活態度を保持するとか、保護観察官や保護司の呼出しに応じて面接を受けるとか、定まった住居で生活するといったものだ。

特別遵守事項が重要

 これに対し、(b)は、保護観察の開始に際し、保護観察所長が裁判所の意見を聴き、これに基づいて対象者ごとに具体的に定める。犯罪の性質やどのような場合に再犯に及ぶリスクが高まるかといったことを個別に判断し、決定される。

 今回の男の場合、裁判所は動画の再生数を上げるための犯行だったとか、動画の公開により社会の注目を集めようとしたといった点を重視している。そうすると、仲間のユーチューバーやフォロワーにそそのかされたり、はやし立てられて承認欲求を満たすため、再び逸脱行動に出る危険性が考慮されるだろう。

 現に、親交のあるユーチューバーの動画に出演して復活を語ったとか、運営側に即停止されたものの新規にアカウントを開設したとか、ほかのチャンネルとコラボしようとしているといった報道もある。

 もし保護観察の不徹底で男が再犯に及べば、保護観察所が社会から厳しい批判を受ける事案なので、保護観察所も踏み込んだ調査を行い、次のような特別遵守事項を設定することが考えられる。

・いかなる名義であっても、ユーチューブなどの動画配信サイトやツイッターなどのSNSにアカウントを開設せず、動画の配信や投稿もしない。

・ほかのユーチューバーら動画配信者と接触せず、彼らの動画にも出演しない。

 弁護側は刺身に対する窃盗罪について「精算を行う意思があった」などと無罪を主張しており、控訴もあり得る。しかし、もしこの有罪判決が確定した場合、保護観察所がどのような特別遵守事項を定めるのか注目される。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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