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コロナ休校の小学校教師、まさかの「デリヘル盗撮」で逮捕 その罪と罰は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 ホテルにデリバリーヘルスを呼び、女性(21)の接客をスマートフォンでこっそり撮影していた小学校教師(45)が逮捕された。女性に気づかれ、警察に通報されたという。その罪と罰は――。

「盗撮処罰法」はない

 この教師が所属する静岡県沼津市の小学校は、新型コロナ騒動で休校中だった。教師は、犯行当日の3月11日、午後4時半に学校での仕事を終え、沼津市内のホテルにデリヘル嬢を呼び、午後5時ころに犯行に及んだという。女性は裸だった。

 逮捕を受け、教育長は「児童の健康と安全確保を最優先に全国的な臨時休校を行っている中で、学校教育に対する信頼を失わせる、きわめて重大な事態として深刻に受け止めており、誠に遺憾」などとコメントした。

 とはいえ、客の性的好奇心に応じてその客に接触するサービスを提供するデルヘルは、風俗営業法が定める無店舗型性風俗特殊営業の一つにほかならず、勤務時間後である以上、その利用自体に違法性はない。

 問題は盗撮だ。相手が裸で性的サービスをする風俗嬢だからといって、その盗撮が許されるはずもない。ところが、いまだにわが国には盗撮を全国一律で処罰する法律がない。

 軽犯罪法が「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としているものの、刑罰は拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)か科料(千円以上1万円未満の金銭罰)と軽い。

 盗撮のためにトイレや更衣室に入り込んだ点をとらえ、最高刑が懲役3年である刑法の建造物侵入罪で立件されることもあるが、今回のように正当にチェックインした客室で盗撮に及んだ場合には適用できない。

迷惑防止条例でカバー

 そこで、盗撮を含めた卑わいな行為を罰則付きで禁じる各都道府県の迷惑防止条例の出番となる。

 しかし、もともとこの条例は、繁華街などをうろついて暴行やゆすり、たかりをする不良集団など、パブリックな場所や空間で公衆に迷惑をかける行為を防止するために制定されたという経緯がある。

 原則として「公共」の場所や乗り物、すなわち不特定で多数の人が出入りする場所や乗り物に限るなど、プライベートな場所や空間を除外し、自らその適用範囲を制限しているわけだ。

 ただ、そうなると、会社や飲食店の社員用更衣室や事務所、学校の教室など、同じ顔ぶれの者しか出入りしていないところや、タクシーなど不特定でも一度に少数の者しか乗れない乗り物での盗撮を処罰できないという問題が生じる。

 ホテルだと、ロビーや廊下などの共用部分は含まれるが、客室は対象外ということになってしまうわけだ。

 そのため、昨今では、頻発する盗撮事件の実情に合わせて条例を改正し、「不特定または多数の者が利用するような場所」など、規制する空間を拡大する自治体も出てきている。

 多数であっても特定の者しか出入りしないところや、逆に少数であっても不特定の者が出入りしているところでの盗撮をも処罰しようとしたものだ。

 例えば、今回の静岡県であれば、浴場、更衣室、便所のほか、住居など通常衣服の全部・一部を着けない状態でいるような場所で盗撮のためにカメラなどを設置したり、人の身体に向けること自体を禁止している。ホテルの客室もこれに含まれる。

 違反の場合の最高刑は懲役6か月、常習犯だと懲役1年だ。今回の教師も、女性の通報を受けてホテルに駆けつけた警察官に条例違反で現行犯逮捕されたというわけだ。

 容疑を認めているが、手慣れており、教師のスマホやパソコンを解析することで、余罪についても捜査が進められるはずだ。

規制にバラつきあり

 ただ、こうした都道府県の条例は、自治体ごとに規制内容のバラつきがある。いまだに「公共」の場所・乗り物での盗撮しか処罰しないといった自治体も現にある。今回の教師がそうした自治体にあるホテルで同じような盗撮に及べば、条例違反にはならないわけだ。

 2018年に京都府の「鳥貴族」で店長が従業員用更衣室にスマホを設置し、女性店員の着替え姿を盗撮した事件があったが、この時も条例違反には問えなかった。

 当時の京都府の条例では、盗撮が規制されていたのは「公共」の場所・乗り物のほか、「公衆」の目に触れるような場所とか、「公衆」が通常着衣の全部・一部を着けない状態でいるような場所に限られていたからだ。

 従業員用更衣室は社会一般の人が使えず、店の同じ顔ぶれの店員しか出入りしない場所なので、「公衆」という要件を充たさないとされたわけだ。

 そこで京都府は、その後、宿泊施設が多い観光地の実情をも踏まえて条例を改正し、「公衆」という要件を外した上で、住居や更衣室などのほか、宿泊施設の客室まで規制の範囲を広げている。

 ただ、条例は法律と違ってその自治体内でしか効力がない。同じ盗撮をやっても、ある自治体なら処罰されるのに、別の自治体だと処罰されないというのは不均衡だ。

 盗撮については、都道府県レベルで対応するような単なる迷惑行為ではなく、「非接触型の性犯罪」と評価した上で、立法による全国一律の規制や厳罰化が必要ではないか。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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