100本以上のスプレー缶 札幌爆発事件の罪と罰

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 42人が重軽傷を負った札幌の爆発事件。不動産店の従業員が100本以上の除菌消臭スプレー缶のガスを抜いた後、手を洗おうと湯沸かし器をつけた瞬間、引火・爆発したと見られている。何罪が成立するだろうか。

 刑法にはガス漏出等罪というものがあり、故意にガスを漏出・流出させて人の生命や身体、財産に危険を生じさせた場合、最高で懲役3年に処される。実際に人を負傷させたら、最高刑は懲役15年まで引き上げられる。

 ただし、例えばアパートにあるガスの元栓をあけ、閉め切った室内に充満させるなど、管理されているガスを外部に放出する必要があると考えられるから、スプレー缶のガスを抜いただけだと成立しないだろう。

 次に、刑法には激発物破裂罪というものがある。故意に火薬やボイラーなど激発すべき物を破裂させ、人がいる建物を損壊した場合、現住建造物等放火罪と同じく、最高で死刑に処される。

 もっとも、単なる過失による場合、建造物等失火罪と同じく、最高刑は罰金50万円となる。もし不注意の程度が重大なものであれば、重過失建造物等失火罪と同じく、最高刑は禁錮3年となる。

 現在、警察は、不動産店従業員の過失により火が出て建物が燃えたという点に着目し、罰金50万円を最高刑とする建造物等失火罪の疑いで捜査を進めている。

 しかし、原因や建物損壊の結果がむしろ大量のスプレー缶のガスにあったということになり、しかもガスを抜く際、密閉した事務所内で何ら換気措置をとっていなかったとか、安易に湯沸かし器に点火したといった事情が浮かび上がれば、禁錮3年を最高刑とする重過失激発物破裂罪に問われるのではないか。

 同じ最高刑である業務上過失激発物破裂罪の成立も検討されるものの、ガス業者や建設業者など、普段からガスに起因する危険の発生を防止すべき立場にあった者が対象だから、たとえ仕事としてスプレー缶のガス抜きを行っていたとしても、不動産店の従業員はこれに当たらない。

 このほか、被害者が重軽傷を負っているため、最高刑が懲役5年の重過失致傷罪も成立するだろう。

 事件のポイントが火気にあるのか爆発にあるのか、また、単なる過失によるものか重過失まで認められるかは、刑事責任とは別に、この従業員の民事的な損害賠償責任をも大きく左右する。

 というのも、物的被害は倒壊した建物を含む20棟と車両26台に上るものの、わが国に木造家屋が多いという事情を踏まえた失火責任法という特別な法律があり、火気による失火で、かつ、重過失でなければ、損害賠償責任を負担しなくても済むからだ。

 逆に、重過失が認められる場合や、単なる過失でもガス爆発を原因として燃えたということであれば、失火責任法が適用されず、高額の損害賠償責任を免れない(不動産店の使用者責任を問うことも可能となる)。

 警察と消防による原因究明の推移が注目される。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。きき酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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