佐川氏に「刑事訴追を受けるおそれ」がなくなったから再喚問で証言義務あり? 本当か

(写真:ロイター/アフロ)

 毎日新聞は、大阪地検特捜部が前国税庁長官・佐川宣寿氏らの立件を見送る方針だと報じた。では、佐川氏に「刑事訴追を受けるおそれ」がなくなったということで、再喚問により証言を迫ることができるのだろうか――

【証言義務と拒絶権】

 議院証言法は、次のように規定し、証人に真実の証言を義務付ける一方で、証言拒絶権をも認めている。

真実の証言義務

「各議院から…証人として…証言…を求められたときは、この法律に別段の定めのある場合を除いて、何人でも、これに応じなければならない」(1条)

「正当の理由がなくて、証人が…証言を拒んだときは、1年以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処する」(7条)

「この法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する」(6条)

証言拒絶権

「証人は、自己…が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは…証言…を拒むことができる」(4条)

 重要なのは、「おそれ」の大小を問わず、「おそれ」がありさえすれば証言を拒絶できる、という点だ。

【不起訴の事実はいつ公になるのか】

 佐川氏は市民団体から虚偽公文書作成罪などで刑事告発されており、先日の証人喚問でも証言拒絶権をフル活用して核心部分に関する証言を拒絶した。

 では、もし本当にこのまま検察が佐川氏を不起訴にした場合、その事実は、いつ、どのようなルートで外部に明らかになるのか。

 この点につき、刑事訴訟法は、次のように規定している。

「検察官は…告発…のあつた事件について、公訴を提起し…ない処分をしたときは、速やかにその旨を…告発人…に通知しなければならない」(260条)

「検察官は…告発…のあつた事件について公訴を提起しない処分をした場合において…告発人…の請求があるときは、速やかに…告発人…にその理由を告げなければならない」(261条)

「検察官は、事件につき公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者の請求があるときは、速やかにその旨をこれに告げなければならない」(259条)

 すなわち、告発人には必ず通知されるし、もしその請求があれば、不起訴の理由も告げられる。

 通知は、不起訴後、数日以内に書面を郵送することで行われている。

 ただし、不起訴の理由といっても、証拠の内容などを示した詳細なものではない。

 例えば、キーマンの自殺で真相解明がとん挫し、公判で犯罪事実を証明できるだけの決め手の証拠が集まらなかったとか、犯罪事実は認定できるものの、懲戒処分を受けたことなどを考慮して起訴を猶予した、といった背景事情などは一切明らかにならない。

 基本的には、「嫌疑不十分」とか「起訴猶予」といった理由のエッセンスが示されるだけだ。

 死傷者多数の大規模な事件の場合、被害者や遺族に口頭で不起訴理由を詳しく説明することもあるが、極めてまれだ。

 また、佐川氏本人も、検察に請求しておけば、不起訴に際し、その旨の告知を受けることができる。

 このほか、社会の注目を集めている特異な事案なので、当然ながら検察も不起訴段階で独自に記者対応を行い、その事実を公にすることだろう。

 もっとも、慣例として、不起訴に至った詳しい理由までは示さないはずだ。

【「おそれ」はいつまで?】

 では、佐川氏が検察から告知を受けるなどし、自らが不起訴になったという事実を知れば、それで「刑事訴追を受けるおそれ」がなくなるのか。

 いつの段階から「おそれ」が消滅し、一転して証人に証言義務が生じることになるのかが問題となる。

 結論から言うと、単に不起訴になっただけであれば、「おそれ」が減少したとはいえても、消滅したことにはならない。

 次のような展開もあり得るからだ。

(1) 検察審査会の審査

(2) 検察の「再起」

【「起訴相当」や「不起訴不当」の場合】

 まず(1)だが、市民団体などの告発人は、検察から不起訴の通知を受け取ると、間違いなく検察審査会に審査を申し立てることだろう。

 事案が複雑で証拠が多数に上ることなどからすると、検察審査会の結論が出るまで相当の時間を要するはずだ。

 もし「不起訴相当」と判断されれば検察審査会での手続は終わりとなるが、「起訴相当」や「不起訴不当」と判断された場合には、再び検察の捜査が進められる。

 その結果、検察が起訴を行うことも考えられる。

 不起訴となった場合でも、検察審査会における当初の判断が「起訴相当」だったのであれば、再び検察審査会の審査が行われる。

 この二度目の審査で起訴すべきだという議決が下されれば、裁判所指定の弁護士が検察官役を務め、起訴の運びとなる。

 こうした検察審査会における審査は、市民感覚に基づく。

 検察が不起訴にしたからといって、その判断を是とするとは限らず、予断を許さない。

【検察の「再起」】

 このほか、検察審査会の審査とは無関係に、不起訴処分後、検察はいつでも独自の判断で再捜査を始めることができる。

 不起訴と聞くと、それで事件は完全に終結し、二度と捜査が行われなくなると思うかもしれない。

 基本的にはそのとおりだが、(2)で挙げたとおり、検察には「再起」と呼ばれる制度がある。

 いったん不起訴にしたり、捜査を中断したものの、その後の事情の変化により、再び起訴に向けた捜査に着手するというものだ。

 例えば、分割払いにより被害弁償を行うとの約束でいったんは被害者と示談が成立し、その許しを得て起訴を猶予したものの、全く約束を守らず、被害者が激怒しているといった財産犯に対し、再起して再捜査を行い、起訴することもある。

 検察審査会が「起訴相当」や「不起訴不当」と判断した後、検察による再捜査が行われるのも、この「再起」という制度があるからだ。

 それこそ、不起訴後、佐川氏や関係者から新たな証言が出てきたとか、未発見だった証拠物が発見されたといったような場合には、事情の変化があったということで、再捜査を行うことになる。

 実現可能性は低いものの、この「再起」という制度があることにも留意しておかなければならない。

【証人喚問を実りあるものとするために】

 結局のところ、佐川氏が不起訴処分を受けたとしても、なお不安定な立場が続くことになる。

 「刑事訴追を受けるおそれ」が完全に消滅し、証言義務が生じることになるには、それこそ背任罪や虚偽公文書作成罪などの容疑に対して時効が成立し、絶対に起訴できない段階まで待たなければならないだろう。

 証言拒絶権は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」とする憲法38条の趣旨に基づくものだからだ。

 他方、佐川氏の証人喚問を見て、じれったい思いをした人も多いだろう。

 そこで、こうした公の場で証言を求め、真相を解明する方法の一つとして、6月施行の改正刑事訴訟法と同じく、議院証言法に刑事免責の制度を導入することが考えられる。

 例えば、自らの犯罪に関する証拠になることを憂慮し、証言を拒絶する証人に対し、その証言を裁判の証拠として使わず、刑事責任も負わせない、といった交換条件をつけ、証言を求めるといったものだ。

 それに加え、尋問技術や尋問能力の向上も重要だ。

 佐川氏の場合に限らず、これまで様々なケースで実施されてきた証人喚問を見ると、尋問者として立った議員がろくに質問をせず、一方的に意見を述べるばかりか、その意見を証人に押しつけようとする場面が多々見られた。

 たとえ証人喚問を行っても、こうした不毛なやり取りを行うのであれば、結局のところ新たな事実など何も明らかにならず、単なる政治的なパフォーマンスで終わるだけだろう。(了)

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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