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ノート(73) 菓子類やホカホカ弁当なども 知られざる拘置所の食生活

前田恒彦元特捜部主任検事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

~達観編(23)

勾留27日目(続)

減塩食へ

 この日は昼前に医務部に行き、起訴後初めてとなる医師の診察が行われた。保釈請求がなく、拘置所側としてもそのまま長居すると分かったからだ。運動不足ではあったが、体重は入所時に比べて数キロほど落ちていた。

 血液検査の結果、空腹時血糖に比べて食後血糖の値が大きいものの、血中の血糖値の推移が分かる数字自体は平均値の範囲内であり、糖尿病には至っていないだろう、とのことだった。ただ、血圧はなお下が100超と高いままであり、医師の判断で、この日の夕食から通常食のかわりに減塩食の支給が決まった。

 これに連動して間食なども制限されることとなり、塩分が高めのもの、例えば醤油やソース、ごま塩、のり佃煮、梅干し、さきイカなどの購入や差入れが禁じられた。

 もし糖尿病ないしその疑いが濃く、医師の判断で糖尿食を支給するということになっていれば、間食制限の幅も一気に広がり、菓子類や飲み物など、ほとんど全ての嗜好品の購入や差入れが禁じられる決まりとなっていた。

 人によってはかなり辛い日々となるので、中には外界で糖尿病と診断されていたとしても、拘置所の診察の際にこの事実を隠そうとする者もいるほどだ。

臭い飯?

 参考までに、ここで少し拘置所における食生活の実態などについて説明しておこう。

 「臭い飯」という言葉がある。大昔の監獄の居室にはトイレがなく、室内に置かれた木桶で用を足しており、悪臭が漂う中で食事をしていたことから、そうした獄中用語ができた。もともとは、味や献立、麦飯云々とは無関係の話だ。

 現在でも、特に「単独室」と呼ばれる独居では、便器がむき出しのままで置かれ、あたかもトイレの中で生活しているような感があるので、食事環境という意味では、なお「臭い飯」という伝統が続いていると言える。

 拘置所や刑務所が開催する矯正展などのイベントの際、中と同じメニューが食べられる「プリズン弁当」と呼ばれる企画が人気であり、体験した方も多いだろう。しかし、便器むき出しの独房ではなく、好天の下、広々とした屋外でのんびりと食べるわけだから、それはもはや「臭い飯」とは言い難い。

タニタの社員食堂

 もっとも、たとえ毎日独房で食事をしていても、実際には三食とも臭くなく、むしろ味付けや栄養、カロリー、野菜類、繊維質、盛り付けなどに配慮された「タニタの社員食堂」のような感じで、かなり旨い。

 1日分、すなわち3食の食費に割くことができる予算は1人当たり平均で約533円だが、飽きのこないように、メニューなども実によく考えられている。

 もちろん、そうした予算枠の制限があるため、肉料理は鶏肉がほとんどで、牛肉や豚肉だとスジの残る安価な部位が使われているし、冷凍食品やレトルト食品の登場率も高いが、特に煮込み系の料理だと、肉類がホロホロになるまで煮込まれている上、野菜もゴロゴロと入っており、絶品だ。

 もちろん、3食ともタダだし、必ず決まった時間に供されるので、食いっぱぐれもない。献立を考えたり、スーパーで食材を買ってきたり、面倒な調理や後片付けなどをする必要もない。黙っていても、居室までデリバリーしてくれる。

配食とカラ上げ

 配食などの流れだが、3食とも基本的に同じパターンだ。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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