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日本一安いグラドル・手島優の結婚が世間で祝福された理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

11月1日、タレントでグラビアイドルの手島優が、自身のSNSで一般男性と結婚したことを発表した。相手は十年来の手島のファンであり、1年半ほど前から交際を続けていたという。元AKB48でタレントの峯岸みなみに続いて、自身のファンだった男性との結婚を果たしたことで話題になった。

この手島の結婚発表には、世間でも温かい祝福の声が飛び交っている。グラビアアイドルでありながら、親しみやすさを売りにしていてどこか幸薄そうなイメージがあった彼女が、運命の相手と結ばれたことを微笑ましいと感じる人が多かったのだろう。

「安さ」を売りにバラエティで活躍

バラエティタレントとしての手島の売りは「安さ」に尽きる。グラマラスな体型でセクシーさを打ち出しているが、高嶺の花という感じは一切なく、どこか安っぽさがぬぐえない。だからこそ、バラエティ番組で下ネタを披露しても生々しさがなく、笑いにつながりやすい。

一時期、手島がたびたび出ていた深夜番組『ゴッドタン』(テレビ東京)では、彼女がデリヘル嬢扱いされるお決まりの流れがあった。おぎやはぎ、劇団ひとりらレギュラー陣が、手島のマネージャーである中村氏に予約の問い合わせをしたり、オプションの有無を確認したりする。中村マネージャーは冷静に「全く問題ございません」と返して、手島がツッコミをいれる。テレビタレントをデリヘル嬢扱いする禁断の悪ふざけ。これが許されるのは芸能界広しと言えども手島ただ1人だろう。

手島はイメージが安いだけでなく、仕事に対する意識が低いように見えるときもある。『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)では「演技に自信があるからドラマに出たい」と主張するも、舞台には興味を示さない発言をしていたこともあった。仕事がなくて崖っぷちに追い込まれているにもかかわらず、仕事を選り好みする姿勢を崩していなかった。手島の本音を聞き出すというのが企画の趣旨だったのだが、なかなか本音を漏らさない。バラエティタレントとしての勘の悪さがにじみ出ていた。

手島が不器用なのは、もともと栃木県の田舎町でのんびりと育ち、人見知りで純朴なところがあるからかもしれない。気取っているところがないし、気取り方もわかっていない。バラエティに出るタレントには、打てば響く反応の良さが求められるものだが、そういうのが得意ではないのだろう。

『ハミ乳パパラッチ』はオリコン1位に

しかし、そんな手島が音楽界に激震を起こしたこともあった。2019年に「NYOUTUBER(手島優)」名義でリリースした楽曲『ハミ乳パパラッチ』が、オリコンミュージックストアのデイリーシングルダウンロードランキング(5/26)で1位を獲得。さらに、週間ランキングと月間ランキングでも1位に輝いた。米津玄師、あいみょん、菅田将暉といったライバルたちを抑えて、手島が前代未聞の快挙を成し遂げた。

『ハミ乳パパラッチ』では、そんな手島の「安さ」をあえて前面に打ち出している。「ハミ乳 ハミ乳 マジ卍」などという歌詞も意味不明だし、YouTubeに一部が公開されているMVも、ペラペラの背景に合成された手島さんが薄笑いを浮かべながら踊るというもの。作り手側はタレントとしての手島の武器が「安さ」であることを踏まえて、その武器の威力を高めることだけに注力している。結果的にそれが世間にも想定外のインパクトを与えることになった。

手島優はデフレ時代の申し子

テレビタレントというのは本来、テレビに出ているというだけで希少価値のある特別な存在だと見なされる。高値が付くからこそ、多くの人に求められて市場に出回ることになる。しかし、手島は手の届きそうな「安さ」のみで世に出てきた。100円ショップやファストファッションが流行するデフレ時代を象徴する激安タレントなのだ。

グラビアの仕事では、年齢を重ねると若い世代と張り合っていくのは難しくなるが、手島の「安さ」という魅力は古びることがない。テレビに出る芸人やタレントの笑いのレベルが高くなり、「高級な笑い」ばかりが出回っているこの時代には、手島の何も考えず楽しめる安さはむしろ貴重なものだからだ。「人妻グラドル」となった彼女の今後の活躍に期待したい。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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