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プロの芸人も絶賛する大喜利アイドル・渋谷凪咲が人気の理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

お笑い芸人を格闘家にたとえると、筋肉にあたるのが大喜利の能力ではないかと思う。実際の格闘技の試合では、筋肉量が多ければ必ずしも勝てるというものではないが、筋肉のある人は無条件に一目置かれるようなところがある。

バカリズム、千原ジュニア、川島明など、大喜利の腕がある芸人は、芸人たちの間でも特別な尊敬の対象として見られている。大喜利では芸人としての純粋な発想力や思考力が試されるので、そこで結果を出せる人が本当の意味で実力のある芸人だとされている。

大喜利でお題に合わせて面白い答えを考えるのは、笑いの基礎体力をつけるための訓練になる。大喜利に真剣に取り組むというのは、芸人にとって筋トレのようなものだ。鍛えれば鍛えるほど筋肉は肥大していき、がっちりしたたくましい体になっていく。

そんなわけで、「大喜利」とは芸人にとって特別な意味を持つものだ。芸人が誰かに対して「大喜利力が高い」と評価したとしたら、それは手放しで最大級の賛辞を送っていることになる。

麒麟・川島明も認める大喜利センス

NMB48の渋谷凪咲は、その意味で特別な存在である。彼女は2021年3月放送の『アメトーーク!』で麒麟の川島明に「大喜利が面白い」と紹介された。この時点ではまだ渋谷の全国的な知名度はそれほど高くなかったのだが、その頃からどんどん全国ネットの番組に出るようになっていった。

もともと彼女は大阪を拠点にして活動しており、関西ローカル番組で芸人と共演する機会も多かった。かまいたち、見取り図、ダイアンなどの人気芸人ともその頃から親しい関係にある。共演する芸人たちは誰もが渋谷の実力を認めていた。

全国ネットのバラエティ番組に出る機会もどんどん増えていて、2021年10月には初の冠番組『~凪咲と芸人~マッチング』が始まり、その後は同じ枠でハリウッドザコシショウをパートナーとする『凪咲とザコシ』が放送されている。

「24時間耐久大喜利」で実力を発揮

そんな彼女が世間に衝撃を与えたのが『100%!アピールちゃん』という番組で行われた「24時間耐久大喜利チャレンジ」という企画だった。丸一日にわたって彼女の普段の仕事ぶりや生活ぶりを追う密着ロケの中で、番組スタッフから不意に大喜利の問題が出題される。渋谷はそれに対して質の高い面白い答えをどんどん返していった。

一日中、密着されて大喜利に答えなければいけないというのは、プロの芸人が挑むとしてもなかなか消費カロリーの多いハードな仕事である。それを若い女性アイドルが平然とこなしてしまったというのはただ事ではない。

独自の大喜利理論を語る

テレビ朝日公式YouTubeチャンネルで配信された『~凪咲と芸人~マッチング』の未公開トーク動画では、渋谷が近藤春菜を相手にして自身の大喜利のテクニックについて語っていた。

基本的に、渋谷は大喜利の答えを考えるとき、無理にボケようとは思わずに、その問題についていったん真剣に考えてみるのだという。いかにもボケっぽいウソの答えでは人は笑わないからだ。「リアルとフェイクの狭間」こそが一番笑える。

このときに話題に出ていたのが、「10万円の握手会、何をする?」というお題に対して、渋谷が「お尻に1回挟む」と答えたことだ。彼女はこのお題に対しても、10万円払ってもらえるような価値のあることは何だろうと自分なりに本気で考えて、この答えにたどり着いた。渋谷がそんな芸人顔負けの「大喜利理論」を語ると、春菜はただ感心するばかりだった。

バラエティの世界はすべてが大喜利である

ある意味では、バラエティ番組の現場で行われていることはすべて「大喜利」であるとも言える。司会者に話を振られたときにどんなコメントを返すか。ロケ番組で地元の名物料理を食べたときに何を言うのか。瞬間的に場の空気を読み、的確なリアクションを返す力がテレビタレントには求められる。芸人も一目置く「大喜利力」を持っている渋谷が、テレビの世界で引っ張りだこになっているのも当然だ。

そんな渋谷は、外見も声も話し方もかわいらしくおっとりしていて、見る人に警戒心を抱かせない。しかし、圧倒的な大喜利力という牙を隠し持っていて、不意に鋭いコメントを返して笑いを巻き起こす。見た目はかわいいけど中身は凶暴な「バラエティ界のタスマニアデビル」として、今後も息の長い活躍を期待している。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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