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「好感度No.1芸人」サンドウィッチマンはなぜここまで圧倒的に支持されているのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

『日経エンタテインメント!』で毎年行われている「好きな芸人」調査で史上最大の異変が起こったのは、2018年のことだった。調査開始以来、過去14回ですべて1位を獲得してきた明石家さんまが首位から陥落して、サンドウィッチマンが1位に輝いたのだ。

サンドウィッチマンは、子供から年配者まで幅広い層に支持されている。その圧倒的な人気の秘密は「面白さ」と「人柄」にある。

サンドウィッチマンは2007年の『M-1グランプリ』で敗者復活戦から決勝に勝ち上がって劇的な優勝を果たした。そこで彼らの漫才の面白さが多くの人に知れ渡った。

ベタから半歩ずらした絶妙な笑い

サンドウィッチマンのネタの特徴は、「ベタ」から半歩ずらした絶妙なボケで笑いを生み出していくところにある。富澤たけしが繰り出すボケは、わかりやすく単純そうに見えるのだが、実は王道の「ベタ」なボケではない。誰でも理解できるわかりやすさがあるのだが、予測できるようなものではない。

笑いというのは、発想が標準値から大きくはみ出してしまうと、一部の人に深く刺さる代わりに、多くの人には理解されにくくなってしまう。一方、誰もが理解できる真ん中を狙おうとすると、それはそれで「ありがちで面白くない」と思われてしまったりする。

サンドウィッチマンのネタはそのどちらでもない。中心からの外し方が絶妙なので、誰が見ても面白く感じられる。言葉で説明すると単純だが、これはなかなか真似できることではない。

また、サンドウィッチマンの漫才やコントは技術的にも優れている。伊達みきおの話を遮って富澤が「ちょっと何言ってるか分かんないです」と切り出す間合いの上手さなどはほれぼれとするほどだ。『M-1』で審査員を務めていたオール巨人、松本人志をはじめ、多くの芸人が彼らの技術を称賛している。

地引き網ロケも話題に

彼らが面白いのはネタだけではない。ロケでもスタジオでも確実に結果を出す安定感がある。『笑っていいとも!』の後番組として2014年に始まった『バイキング』は、開始当初は視聴率も伸び悩んでいたのだが、その中でサンドウィッチマンの担当する地引き網ロケのコーナーだけは話題になっていた。

『アメトーーク!』で伊達が披露した「カロリーゼロ理論」も話題になった。「カステラは圧縮すれば小さくなるからカロリーゼロ」「ドーナツは真ん中に穴が空いているからカロリーゼロ」などと真顔で言い放ち、食べ過ぎてしまう自分を強引に正当化する姿が笑いを誘っていた。

人を傷つけないクリーンな笑い

また、彼らは人柄の良さで愛されているという面もある。外見は怖そうにも見えるのだが、実際には2人とも気が優しく、それがテレビ越しにも伝わってくる。芸人であれば、ときにはわざと他人をくさして笑いを取ることもあるものだが、サンドウィッチマンの2人はめったにそういうことをしない。

どちらか一方があえて他人をイジるときには、必ずもう一方がフォローに回り、嫌な空気を作らないようにしている。他人を傷つけるようなことを一切やらないクリーンなところも万人に愛される理由の1つだろう。

コンビ芸人は人気が出てくるとどちらか一方が単独で活動することも増えていくことが多いものだが、サンドウィッチマンにはそれがなく、今でもコンビでの活動がメインになっている。その理由は、2人の仲が良く、コンビで出ているときに最も力が発揮されるというのを誰もがわかっているからだ。

ネタの中では富澤がボケを担当しているが、2人でバラエティ番組などに出ているときには伊達の方が積極的にボケたがるようなところもあり、そういうときには富澤がすかさずツッコミに回る。その場に応じてどちらもボケ・ツッコミを使い分けられる器用さがあるからこそ、コンビとして重宝されているのだ。

その後、彼らはお笑い界随一の「好感度芸人」となり、各種の「好きな芸人ランキング」で首位を独走している。面白くて温かみのある彼らは、新しい時代の理想的な芸人像を確立している。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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