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ディズニーが韓国ドラマとタッグを組む3つの理由 日本ドラマの可能性は?

桑畑優香ライター・翻訳家
韓国ドラマ第一弾『スノードロップ』は、1987年の韓国を舞台に描くラブロマンス

あのディズニーが、ついに韓国ドラマとタッグを組んだ。

動画配信サービス「ディズニープラス」の新コンテンツブランド「スター」を昨年10月に立ち上げたディズニー。チョン・ヘインとBLACKPINKジス主演の『スノードロップ』を韓国ドラマ第一弾として独占配信して以来、元Wanna Oneのメンバー、カン・ダニエル主演の『キミと僕の警察学校』、ソ・ガンジュン主演の『グリッド』など、韓国ドラマファン垂涎の作品を続々とリリースしている。

強力なブランド力を擁するディズニーが韓国ドラマにラブコールを送る理由とは。そして、世界市場における日本ドラマの可能性をどう見ているのか。

ウォルト・ディズニー・カンパニーのアジア太平洋地域コンテンツ&デベロップメント責任者、ジェシカ・カム-エングル氏に独占インタビューで聞いた。

――ピクサー、マーベル、スター・ウォーズをはじめ、アカデミー賞受賞作も多くラインナップに並ぶディズニープラスが韓国ドラマ配信に積極的に乗り出したことに驚きました。韓国コンテンツの魅力を、ずばり3つのキーワードで教えてください。

「アジアとの親和性」「移動性」「革新性」です。

「アジアとの親和性」とは、「作品がアジアの視聴者にとって身近であること」。アジア市場ではハリウッドのトップレベルのドラマや映画もたくさん公開されていますが、一方で視聴者たちは自分に似た価値観や顔立ち、ライフスタイルのものも望んでいるのです。韓国ドラマは、アジアの視聴者に近い。登場人物は箸でお米を食べますよね(笑)。ファッションも私たちと同じブランドです。ドラマで人間を描く時は、こうした親和性がとても重要です。韓国ドラマは、アジアの人たちが共感できるコンテンツとして、過去20年で大きな成功を収めてきました。

二つ目の「移動性」は、「ドラマが国を超えて多くの人に届くこと」を意味します。過去20年間、少なくとも10年の間、アジアのドラマの中でもっとも多くの地域に拡散したのが韓国の作品であることは、間違いないと思います。それを可能にしたのは、韓国ドラマの高い制作価値、クオリティ、作品の多様性です。たとえば、世界で人気になるのはホラーだけという国もありますが、韓国は長い歴史において、ロマンチックコメディ、アクション、SF、クライムサスペンスなどを成功させ、世界ですでに認知されています。

最後の「革新性」とは、「新鮮なコンセプトに挑戦すること」。韓国ドラマは優れた実績があるため、業界全体が活気に満ちています。競争がどんどん激しくなり、より多くの投資が行われ、予算も跳ね上がる。制作会社は1話あたりに巨額のお金を投じ、まるで映画のように素晴らしいセットや衣装が使われるようになりました。そして誰もが知っているビッグ・スターをキャスティングし、さまざまなチャレンジをするのです。見たこともない新しいタイプのドラマは人々の興味を引き、観る楽しみを与えます。

ソ・ガンジュンとキム・アジュン主演の『グリッド』は、過去と未来が交錯するSF大作。脚本は『秘密の森』のイ・スヨン
ソ・ガンジュンとキム・アジュン主演の『グリッド』は、過去と未来が交錯するSF大作。脚本は『秘密の森』のイ・スヨン

――韓国ドラマの配信には、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、AppleTV+など各社が力を入れています。群雄割拠の時代において、ディズニープラスが考える「ディズニーらしさ」とは?

いい質問ですね。ディズニーのDNAともいえる原点に立ち戻ってお話ししましょう。ディズニーは約100年前から存在し、常にストーリーテラー(物語の語り手)であり、コンテンツの会社であり続けてきました。それがビジネスの中心、存在の核心です。多くのコンテンツを提供することを大切にすると同時に、物語の品質や最高の物語をお届けすることを何よりも重要視しているのです。

もう一つ、ディズニーの利点といえば、事業の規模です。弊社には映画配給、商品、出版、音楽、テーマパークなどの事業があります。そのため、秀でた知的財産を幅広く活用することが可能です。たとえば、将来的に本を出版したり、ミュージカル化したりできるかもしれないし、マグカップやTシャツなどの商品化が可能かもしれません。

さらに付け加えると、クリエイティブな制作陣との長期的なパートナーシップを大切にしていることです。動画配信は比較的新しいビジネスですが、アジアの才能あふれる人やアニメーターなどの手で作られた映画がたくさんあります。

ドラマでもパートナーと一つの作品で終わりにするのではなく、時間をかけて関係を築いていきたいと考えています。そうすれば、お互いの長期的な目標に合う作品を作ることができるからです。私たちはすでに成功している大きな制作会社だけでなく、より小さな会社にも扉を開いています。

――多くの候補や売り込みから作品を選ぶ基準を教えてください。

すべては物語から始まります。そしてジャンルがはっきりしていることが大事です。たとえば、恋愛コメディやSFとしてエッジが立っているもの。ジャンルが明確な作品は、遠く離れた国や地域でも人気を得る傾向があります。

シリーズ化やシーズン化できそうな優れた世界を構築できる作品もいいですね。アジア発の作品を配信する試みはまだ始まったばかりなので、いろいろなドラマにトライして反応を見ているところです。

Wanna Oneでセンターを務めたカン・ダニエルがドラマに初挑戦した青春ラブコメディ『キミと僕の警察学校』。中盤からは本格的なクライムサスペンス要素も
Wanna Oneでセンターを務めたカン・ダニエルがドラマに初挑戦した青春ラブコメディ『キミと僕の警察学校』。中盤からは本格的なクライムサスペンス要素も

――実際、ディズニープラスが韓国ドラマの配信をスタートして以来、ラインナップは多様性に満ちています。第一弾となった『スノードロップ』は、民主化運動が活発化していた1987年が舞台の切ないラブストーリー。次に配信した『キミと僕の警察学校』は厳格な警察学校を舞台にした青春ラブコメディ。3作目の『グリッド』は過去と未来が交差するサスペンス・スリラーです。こけら落としに値する重要な節目に、これらを選んだ理由とは。

私たちが求めていたあらゆる要素を備えていたからです。一つは良いキャスト。「移動性」を高めるためには、キャストが非常に大事です。『スノードロップ』のポスターを見た瞬間、ふたりのスターが誰もがわかる。BLACKPINKのジスとチョン・ヘインは、アジアの人々にとって心躍る存在なので、それだけで高い「移動性」が保証されます。

しかし、決め手となったのは、強力なコンセプトとストーリーです。若い方たちにアピールするラブストーリーに加えて、歴史的な背景も語られている。最初にスクリプトを読んだ時、「すごい、これはいい」と直感しました。さらにクリエイター陣は、韓国で大ヒットした『SKYキャッスル~上流階級の妻たち』を手がけた実力派。結果、配信されると、アジアの多くの地域でもっとも視聴されている作品ランキングでトップ5に入り、大きな成功を収めました。メガヒットを飛ばしたアメリカの作品よりも上位にランクインしている時もあり、作品の強さが分かります。

『キミと僕の警察学校』は、大人への階段を上る若者たちのドラマです。学校を卒業して社会人になる過程で直面する課題や恋愛という、誰もが経験する普遍的な物語。主演は、ボーイズグループWanna Oneの元メンバーであり、優れた歌手として知られるカン・ダニエル。映える主人公と、ドキドキするストーリー。ドラマとして大事なものが詰まっています。

一方、『グリッド』はシリアスなSF作品で、幾層にも重なる謎が非常によく描かれています。このように、3つの作品にはさまざまな好みを持つ視聴者が満足できる、まったく異なる要素があるのです。

――BLAKPINKのジスとカン・ダニエルはドラマ初挑戦。大抜擢ですね。

キャスティングは非常に大事な領域で、ディズニーには間違いなくパワーがあると思います。でも、キャスティングされるのは、本人に力があるからです。選ばれたのはふたりがK-POPのスターだからではなく、俳優としての可能性があるから。演技力があるからです。

もちろん、高い人気と大きなファンダムを擁しているのは、私たちにとって歓迎すべきことですし、それを生かします。

最新作『サウンドトラック #1』はハン・ソヒとパク・ヒョンシクが主演。恋愛と友情の間で揺れる2人を音楽を通じて描くミュージカルロマンス(3月23日配信)
最新作『サウンドトラック #1』はハン・ソヒとパク・ヒョンシクが主演。恋愛と友情の間で揺れる2人を音楽を通じて描くミュージカルロマンス(3月23日配信)

――韓国ドラマの人気が高い日本のマーケットをどう見ていますか。

日本はディズニーと親和性がある、とても魅力的な市場です。ディズニープラスが上陸するずっと前から、日本のみなさんは作品やテーマパークを通じてディズニーを愛していますよね。そんな日本で、韓国のコンテンツを私たちのプラットフォームで配信するのは、大きな可能性を秘めていると考えています。

さらに日本のマーケットは、私たちにとって作品の制作拠点としても魅力的です。日本でもっとも有力な輸出コンテンツの一つはアニメだと思います。海外で常に人気を博し、大成功を収めています。

香港出身の私も、幼いころから日本のアニメをたくさん観て育ちました。家族、愛、友情などを描き、シンプルに心に響くので親しみやすいですね。今後さまざまな計画を発表する予定ですが、日本のアニメの配信にも積極的に取り組んでいきます。

そして、日本で期待しているもう一つは、実写のドラマです。

――最近日本では韓国ドラマの人気が高く、「日本は韓国に負けている」という声も多く聞こえてきます。ジェシカさんが好きな日本のドラマは何ですか。

最近見てハマったのは『半沢直樹』です。俳優たちがとても上手く、すごく引き込まれました。これは、日本が生み出す優れたドラマの例といえるでしょう。

――『半沢直樹』は、銀行を舞台にした作品で、非常に日本的なドラマだと思います。『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督がアカデミー賞を受賞した時に「もっとも個人的なことはもっともクリエイティブなことだ」というマーティン・スコティッシ監督の言葉を引用してスピーチしましたが、ジェシカさんも同じ考えでしょうか。

もちろんです。それは、私が常に信じていることです。最高の物語とは、作り手自身がもっともよく知っている身近な話。その国の言葉で描く、自分の周りの人たちの生き方や彼らが直面している問題、挑戦の物語です。

今は、素晴らしい時期だと感じています。日本の映画『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞で作品賞をはじめいくつかノミネートされました。実はプロデューサーのひとりが現在私のチームに参加していて、彼が今月末アカデミー賞の授賞式に行くので、私たちみんなで応援しています。『ドライブ・マイ・カー』と『パラサイト 半地下の家族』をきっかけに世界の注目が日本と韓国に集まる。それは私たちにとってもチャンスだと感じています。

秀でたストーリーテラーは、いつもアジアに存在しています。でも、以前は作品を世界に広めるのは簡単ではありませんでした。たとえば映画は海外に出るために多くの輪をくぐり抜けることが必要で、アート系の映画であれば、映画祭に参加して受賞すれば人々に気づいてもらえるかもしれません。それでも観客はアートや映画に関心の高い少数の人たちに限られていました。

今は、グローバルなプラットフォームがあります。ディズニープラスのプラットフォームで配信されるコンテンツは、潜在的に1億人以上の加入者にリーチする可能性があります。大事なのは、優れた物語。私たちは、クリエイターとのパートナーシップを積極的に探しています。日本のクリエイターにも、世界のステージへの扉は開かれているのです。

ジェシカ・カム-エングル

ウォルト・ディズニー・カンパニー

APACコンテンツ&デベロップメント責任者

ノースウェスタン大学のJ.L.ケロッグ経営大学院で MBAを取得。MTV Asia、MGM Gold Networkなどでマーケティングや営業職を経て、北京と香港を拠点に独立系の映画プロデューサーとして活動。その後、HBO Asia/WarnerMedia のオリジナル作品制作の責任者として、10 以上のマーケットと現地の言語で提供されるネットワークのオリジナル作品を指揮した。現在はウォルト・ディズニー・カンパニーのアジア・パシフィックでコンテンツ&デベロップメントの責任者として、アジア太平洋地域において、世界レベルの、地域に密着したオリジナルコンテンツを提供する取り組みを統括。ダイレクト・トゥー・コンシューマサービスで提供する作品を拡大するためのコンテンツの開発、制作、アクイジションを担当している。

*写真クレジットはすべて 2022 Disney and its related entities

ライター・翻訳家

94年『101回目のプロポーズ』韓国版を見て似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画レビューやインタビューを「現代ビジネス」「AERA」「ユリイカ」「Rolling Stone Japan」などに寄稿。共著『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)、訳書『韓国映画100選』(クオン)『BTSを読む』(柏書房)『BTSとARMY』(イースト・プレス)『BEYOND THE STORY:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)他。yukuwahata@gmail.com

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